初めてのデートを10日後に控えて、楽しみな気持ちと戸惑う気持ちを日々、行ったり来たりしている。


30数年前の大学時代。

K君の気持ちに気づいていたのに、私は彼を選ばなかった。

あれから長い長い月日が流れて、当時の自分がどう感じていたのか、正直、思い出せない。

ただ、毎晩のようにかかってくるK君からの電話は楽しかったはずだし、誘われたデートを断れずに二人でパンダも見に行った。

うっすらと覚えているのは、「私はK君の故郷には行けない」と思っていたこと。そう思うくらい、当時、私は彼と夫を比べて悩んでいたのだろう。

おそらく気持ちはかなり動いていたのに、私は必死で気づかないフリをして、大学を卒業すると新潟に戻って、夫と結婚をした。


人生にはいくつもの分かれ道がある。

もしも、大学時代に私たちが付き合っていたならば、とK君と話したことがある。

それでも私は卒業したら新潟に帰っただろうし、K君も東北の実家に帰っただろうと。

今と違って、携帯もスマホもなかった時代。

新潟と東北の物理的な距離。就職したてで仕事に追われる毎日と、若くて未熟だった自分。

おそらく、遅かれ早かれ別れはやってきたと思う。

付き合って別れたら、少なからず彼を傷つけて、自分も傷ついて、嫌な私を見せたと思う。

気持ちを伝え合わなかったから、綺麗な思い出のまま30年以上が過ぎて、物語はあれでおしまいのはずだった…。

お互い結婚して、子どもにも恵まれて、50代になったから、再会しても思い出をちょっとだけ懐かしんでまたサヨナラするはずだった。



それなのに…。

神様に「あの時、選ばなかった道を歩いてみたいと思わないかい?」とでも言われたみたいだ。

再会した瞬間に、これまでの30数年がなかったかのような不思議な気持ちになって、お互いが同時に恋に落ちた。

お互い真面目に家庭を守って生きてきたから、こんなことをしでかすキャラじゃないのはよくわかる。

大学の時のあの恋がなければ、お互いが相手でなければ、決してこんなことにはならなかったはず。

だからこそ、30数年ぶりに会った半年前のあの日から一度も会わずにいると、毎日、LINEや電話で連絡をしているのに、これが夢なのか現実なのか、時々わからなくなる…。


K君と話していると大学時代と何も変わらない気持ちになる。変わらない声、少し東北なまりを感じる話し方。

ずっと30年以上、二人でこうしていたような。

それでいて、お互い別々の家庭があって、積み重ねてきた今がある。

気持ちはちゃんと、大学生の頃のK君ではなく、今の50代の彼に会いたいと思っているけど、過去に選ばなかった道を歩き出そうとしているような、なんだか不思議な気持ちでいる。

タイムマシンにも乗らずに、30年後に自分が選ばなかった選択肢を手に入れて、これから何が起こるのか…?これが世界線と言うやつか。

二人がこうなった必然と、戸惑う気持ち。

答えはきっと10日後にわかるはず。