京阪四宮駅の不都合な真実 | 京阪大津線の復興研究所

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大津線とは、京阪の京津線と石山坂本線の総称です。
この大津線の活性化策を考えることが当ブログの目的です。
そのために、京阪線や他社の例も積極的に取り上げます。

阪急とは異なり、京阪には滋賀県下から大阪への直通需要をJRと取り合う余地があります。ただ実際には、1956(昭和31)年11月19日の東海道本線米原―京都間電化に始まり、1969(昭和44)年11月1日の江若鉄道廃止、1974(昭和49)年7月20日の湖西線開業などにより、京阪線と大津線の連絡輸送は着々と競争力を低下させてきました。

 

1997(平成9)年10月12日の京都市営地下鉄東西線開業に伴う京津三条―御陵間の廃止は、その「最後の総仕上げ」に過ぎません。ただ、同区間廃止の影響は京阪間直通輸送においては限定的だったと考えられますが、大津線そのものに対しては大きな打撃を与えました。

 

それまでの大津線は、京津三条―京阪山科間で輸送人員・収入ともに全体の約半分を担っていました。東西線乗り入れと引き換えにその大部分が廃止されたため、当然のことながら大津線の輸送人員と収入は激減することになりました。

 

『鉄道ジャーナル』1998年3月号に掲載されている鶴通孝「琵琶湖の風を京都の街へ」はそれを扱った記事ですが、その中に一縷の望みとも言うべき記述が含まれていました。内容は以下の通りです。

 

「京津線の側では、一つは四宮近辺から三条方面へは利用者が自転車などで地下鉄の駅へ出てしまい、四宮駅利用者は激減する―と見られていたのが、実際は増えたこと。これは従来から京津線を使っていた流動とは別に、バスからの転移が大きいようだ。地下鉄開通にともない京都市交通局が付近のバス路線を大幅に改変し、エリアごと京阪バスに譲渡したり、大幅に本数削減を図ったりした影響だという」

 

四宮は京阪山科から一つ浜大津寄りの駅です。当時、京津線の惨状を感情的に受け入れられなかった私は、この記事にしがみつきました。しかし、その後公表されたあらゆる統計を確認しても、「四宮駅利用者が増えた」という事実は確認できなかったのです。

 

例えば、1998(平成10)年11月10日(火)の旅客流動調査では四宮の乗降客数は4,188人であり、1995(平成7)年11月21日(火)の6,318人から33.7%も減少しており、到底誤差の範囲内ではありません。2011(平成23)年11月8日(火)に至っては、1,896人という惨憺たる有様です。

 

そもそも、冷静に考えれば増えるはずがないのです。バス路線の改変云々も、駅前が狭くてバスが入れない四宮には関係のない話です。京都大学鉄道研究会雑誌No.27『京阪大津線』で紹介されている『平成4年版 大都市交通センサス』の調査でも、四宮の定期客のおよそ8割が徒歩で駅を利用していることが示されています。

 

東西線開業前の京津線四宮駅

 

京津三条―御陵間が廃止されるまでは三条方面への各駅停車の大部分が四宮を始発駅としており、昼間時でも準急と合わせて1時間に8本利用できました。地下鉄乗り入れ後は本数がほぼ半減し、京津三条まで230円だった運賃も、合算によって三条京阪まで320円(当時)に跳ね上がりました。この状況下で、安くて本数も多い地下鉄の駅が1km圏内に2つ(山科と東野)も開業したのですから、四宮の利用客は減らないほうがおかしいのです。

 

そんなことは、本当は私も心の底では分かっていたのです。一時的にせよ真実から目を背けたことを、今でも恥ずかしく思っています。

 

それにしても、「琵琶湖の風を京都の街へ」の記事は、なぜこのような間違いを犯したのでしょうか。京阪が意図的に嘘をついたのか、記者が誤解したのか、双方に行き違いがあったのか、今となっては分かりません。確かなのは、取材で得られる情報が常に真実であるとは限らないということです。

 

私自身も、大学時代に京都市電の廃止理由の調査で市役所を訪れた際に、「路面電車を建設する際にも水道管やガス管を埋め戻すのに穴を掘らなければならないので、地下鉄と同じくらいお金がかかる」と言われて唖然としたことがあります。相手が素人だと思ってよくも言ってくれたものですが、鉄道専門誌の記者が同様の扱いしか受けていないのだとすれば大いに問題です。

 

そこまで舐められているという事実よりも、舐められていることに気づかないほうがさらに深刻です。「四宮が増えている」と言われて、はいそうですかと帰ってきたのでしょうか。京都大学鉄道研究会が取材を行っていたなら、こんなことは起こらなかったはずです。

 

こうしたことを防ぐためには、やはり具体的な数値を携えて取材に臨み、相手からも数値を引き出すように心掛けなければなりません。それが示されないまま増えた・減ったが言われる場合には、まず疑ってかかるべきでしょう。これはジャーナリストとして最低限必要な姿勢であるはずです。

 

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