これら3扉転換クロスシート車の源流は、1988(昭和63)年に登場した近鉄の5200系(写真)であるとされています。近鉄5200系の製造を行った近畿車輛が、同種の座席レイアウトをJR西日本に提案し、これが221系として実現し普及したというのが定説です。
この見解自体に異議を唱えるつもりはありません。ただ、関西の3扉クロスシート車にはもう一つ別の源流があることを指摘しておきたいと思います。それが山陽の5000系です。その登場は近鉄5200系より2年早く、1986(昭和61)年のことです。
山陽5000系は3両編成で登場し、上の写真のように普通運用が主体でしたが、クロスシートが好評を博したこともあり、徐々に特急運用に就くようになりました。現在は後継車の5030系を加えてほとんどの編成が6連化され、阪神との直通特急運用に活躍しています。
山陽5000系の初期車両は、中央の扉を背にして集団離反式に固定クロスシートを配置していました。横4列と横3列の違いはありますが、京阪京津線800系の先頭車両(下の写真)の座席レイアウトも、これに準ずるものです。車端部がロングシートなのも同じです。
ただし、集団離反式クロスシート車には、名鉄の6000系というさらなる先輩格が存在します。その登場は山陽5000系より12年も早く、1976(昭和51)年のことです。
毎度のことながら名鉄の先進性には驚かされますが、6000系は座席幅やシートピッチが狭かったため、大半がロングシート化されてしまいました。現在は、寸法が拡大された後期型車両の一部がクロスシート車として残っています。
一方の山陽5000系は、ほとんどの車両が現役のクロスシート車として活躍しています。1990(平成2)年以降の増備車は転換クロスシート車に変更され、初期車両の一部もこれに準じた改造を受けています。1997(平成9)年からは横3列シートのVVVFインバーター制御車である5030系に移行しましたが、扉の配置などの基本的な設計は変わっていません。
これは当初の設計の優秀さを物語るものであり、その点においては名鉄6000系よりも上だったと言えます。厳密な意味での「源流」ではないかもしれませんが、埋もれかけていた水脈を再び掘り当てたことは特筆に値します。
近鉄5200系からJR221系への流れが関西3扉クロスシート車の「主流」だとすれば、山陽5000系は「支流」のような扱いを受けています。その理由としては、当初は転換クロスシート車でなかったこと、山陽が準大手私鉄であり相対的にマイナーであること、山陽5000系自体がJRとの競争に押されて埋もれがちな印象を与えることなどが考えられます。
しかし、20m級車両の近鉄・JRと、18m級車両の山陽では、そもそも「源流」は別であって当然なのです。同じく18m級車両を運用する阪神・阪急・京阪の3扉クロスシート車は、山陽5000系を「源流」にしていると言っていいでしょう。
さらに、山陽5000系は単に「源流」というだけでなく、扉の配置のバランスが良いという長所を持っています。転換クロスシート車の場合も、扉脇の立席スペースを十分確保しつつ、座席を全転換式としています。
京阪の新3000系が扉脇のスペースに課題を抱え、阪神・阪急の3扉クロスシート車が全転換式を実現できていないことを考えると、やはり山陽5000系の優秀さは際立っています。もっと高く評価されるべき車両であると総括できます。
山陽の5000系は3扉クロスシート車としての完成度が高い車両であり、接客面では合格点に達していると言っていいでしょう。ただ、横4列シートの5000系と横3列シートの5030系では座席数にかなりの差があり、バランスが悪いのは事実です。しかも、両形式を併結した編成は、梅田側が5000系3両・姫路側が5030系3両で構成されており、阪神線内の混雑の実態に合っていません。
このため、今後は5000系の梅田側先頭車をオールロングシート化して対処する方針のようです(「えすこーとさんよう」2014/5/20による)。これ自体はやむを得ませんが、5000系の2人掛けクロスシートの発生品を5030系の中間車両に転用して座席数を均等化する、といったきめの細かい対応も必要でしょう。
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