ふんわりシフォン -347ページ目

月が満ちるまで 風待ち 10

ボートが水面を滑っていく。

こうして二人だけで居るのは照れくさい。

彼女はぐるっと周りを見回していた。
なにか遠くを見回して…ゆっくりと瞬きをした。

「ボートに乗るの、初めて」

「うん。面白いね」

座っているから水面が近い。船縁からのぞくと魚が見える。

周りを見るのに忙しいようで、子供のようだった。
そんな様子を見ているのも楽しくて、彼女のすきなようにしていた。

小さな池を二週したところで、気づいたようだ。

「わたし、ぼんやりしてた」

向かい合うように座っているのだから、気づかないわけはない。

見ようとしなくても、視界にはいるのだから。

「なんだか良いものでもあった」

「綺麗だなぁ…って思ってて」

恥ずかしいのか、髪の毛をいじっている。

「せっかく誘ってもらったのに、ぼんやりしちゃった」

「橘さんが楽しそうだから、いいよ」




ゆっくりとオールを漕ぐ。
このまま、何時間でもいたっていい。




「わたし変わってるみたいだから、変に思われてもしょうがないから」

「そんなことないよ。すごく楽しそうで、誘ってよかったよ。でもどんな風に考えてたか教えてくれたらいいな」

「…すごく、感覚的なの。この緑は春の緑だとか、水面につく船の跡だとか…そんなこと」

考えているようで、指が唇をさわる。
小さいけど、ぷっくりかわいい。




じっと見ていたら、頬や髪に触れてみたくなる。




彼女は、俺のこと意識してないのかな。

こんなに傍にいるのに。

いっしんに周りを見ていたのに、一番近くにいた俺のことは忘れてる。



まだまだなのかなぁ……



俺が彼女の中に住めるのは。



帆をあげて風を待つように。
彼女の心がなびく風を待っている。

癒されてます〓

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昨日、ポプリを買っちゃいました〓

オレンジとシナモンの香りがします。花びらや実、オレンジの皮など入ってて、見るのも楽しいです。

ここしばらく仕事が忙しかったので、香りに癒されてます。

今日からは、部所が移動して、勤務時間も変更があります。残業が減ったらいいなぁ(笑)

働けるうちは働こうと思っているけどね。仕事がないなか残業まであるのは、いいことだということにします。

新人さんを迎えての秋冬期、商品入れ替えです!

新商品登場とバカみたいな特売が待ってます。

頑張ってきます(^▽^)

月が満ちるまで 風待ち 9

水面に光が踊っている。きらきらして眩しい。

目を細めていたら、先にボートに乗った宮原が、手を伸ばしてきた。

「ちはやちゃん、つかまって」


何気ないことなのかもしれないけど、こんなことに気がつく奴なんだ。

「だいじょーぶ」

素直になれなくて、手を取れない。

やけっぱち気味に乗り込むと、勢いがついたボートは、大きく揺れる。

ゆらゆらっとした動きに、あわてた宮原が、がっしり体をつかむ。

「大丈夫、びっくりした」

目が丸くなっている。近づいてみれば、小柄な宮原でもあたしより大きい。

「慌てすぎだし」

背中にまわした腕を、ぱちんと叩く。

「ゴメンね。びっくりしちゃったよオレ」

いつものふにゃんとした顔。なんで怒らないんだろ……



オールの間に座ると、宮原は岸に向かって手を振った。

「20分船の旅~行ってまいりますっ」

「おー。行け行け。あの世まで行ってしまえ」

へへっと笑った宮原は、オールを漕ぎ出した。



向かい合うように座っているから、いやでも顔があいそうで、遠くを見るふりをした。

「いま、渡辺がボートに乗った…あ、風花も」

「仲良くやってそう」

渡辺が伸ばした手を、風花は拒まなかった……

エスコートされるお姫様みたいだった。あたしじゃ似合わない。

気が強い、強情だ、可愛いげがない……言い方はいろいろあったけど、どれもいい意味じゃなかった。



湖をすうっと水鳥が泳いでいく。

「あ、鳥だ」

マヌケな反応だった。ぽろっとこぼれた独り言だった。

「うん。なんて鳥だろうね」


宮原も鳥を見ていた。そして言葉を返してくれた。

「あのさ、オレ真面目にいうから、ちゃんと聞いてよ」

「なによ貸すお金はないからね」


「違うって。ちはやちゃんとオレのこと」

お預けをくらった犬みたいだった。まっすぐに、あたしを見ていた。
いちど視線をそらせて、唇をなめてから口を開く。…緊張している。

「オレ、ちはやちゃんが好きなんだ。付き合ってください」

じっと見つめられる。

「…なんであたしなの」

ちら、手元を見て口を覆うようにして鼻をさわる。

「オレ、見てたんだ、ずっと。風花ちゃんがぽつんといたら、ちはやちゃん話しかけてあげてたよね」

風花はあまりまわりに馴染もうとしていないようだった。
かわいいのに、そのことも気にしていないようだった。

変わったコだった。

そんなに喋るわけではないけれど、話すと話の本質を見抜いているようなトコがあってオモシロかった。

あんまり群れるのが好きじゃないあたし達だった。

だからつるんでいられた。


「そういうの見てて、それから話したりしたら、いいなって思った」

漕ぐのはほったらかしになっていて、開いた足の間に手を組んでいた。前に屈んでいたから、少し小さく見える。

「オレじゃ…ダメかな」

かすれた声がもれる。

「べつに、宮原だからって訳じゃないけど、今は考えられない」

「どうして」

泣くんじゃないかって声になってくる。泣きはしないだろうけど…

「あたし、遊んでるように見られるかもしれないけど、そんなに軽くないから」

「遊びで付き合うわけないじゃん、好きだからだよ」

大きい声が出た。



…まわりに人が居なくてよかった。
渡辺、風花のボートもそばにいない。



「…軽く見られて、遊ばれるのなんかヤダ」

思わず涙がでた。

「二股かけられて、振られるのなんかヤダ…」

ぽろぽろ涙が止まらない。言葉も止まらない。こんなこと言いたくなかったのに……

宮原がそばに寄ってきた。ひざまずいて手を握ってくれる。
握られた右手を乱暴に振り払って涙をぬぐう。



「ゴメンね。辛いこと思いだしたね……」

「もぉいいっバカ宮原」

ぐすぐすすすりあげる。



「でもさ、それはオレじゃないでしょ…オレを見てよ…」

ぎゅっと指にこめた力が強くなる。

「オレ、今度好きになるコは絶対泣かせたりしないって決めてたんだ…

だからさ、オレにしなよ。うーーんと幸せにするよ」



ひざまずいた宮原はナイトみたいだった。

おバカなナイトでも、居ないよりましかもしれない……

手の温もりがそう言っていた。