ふんわりシフォン -10ページ目

金木犀

一歩、外に出れば

香りがわたしを包む

闇で見えなくても

雨に消されても



強く香る



どこにいても

存在を知らせるように

どこにあっても

隠れることのない

隠しようのない才能

そんな存在に憧れる



目を閉じて

香りを追うように

心はまた

羽ばたいてゆく

推しメン

昼飯後、食堂から所属部署に戻るさいに、榊部長とエレベーター待ちで一緒になった。

榊部長は背が高くて、最近お腹回りが気になる40才。仕事も脂が乗って順調な出世頭で、榊部長の鶴の一声で決まってしまうことも多い。

「須山~お前、何推しだ」

「えっ推しメンですか。やっぱ、まゆゆがカワイイかな」

意外なことを聞かれて、戸惑いとともに、笑みが浮かぶ。

「ばか。AKBじゃねーよ。ゆるキャラだ」

「は」

ついぽかんと口が開いてしまう。意外な人物の意外な嗜好にとっさに言葉が出ない。

「まさかお前『くまもん』とか『バリィさん』とかゆうんじゃないだろーな」

背の高い榊部長に、見下ろされると迫力がある。なぜゆるキャラの話題でこんな険悪なムードになるのか理解できない。

「ま、まさか。深谷市民ですよ?間違いなく『ふっかちゃん』に決まってますよ」

首根っこを捕まれそうな勢いに、とりあえずのセーフティーゾーンをあげる。

途端に、相好を崩した榊部長はくだけた雰囲気で肩に手をかけてくるので、逃げ腰で離れたいのにさせてもらえないことになる。

「だろ。やっぱ深谷市民としては『ふっかちゃん』推しな訳だ。俺んとこの嫁なんて実家が群馬だからって『群馬ちゃん』推しだぜ?群馬はカワイイゆるキャラがいないんじゃねーの。それ埼玉で言ったら、県民がせっせと『コバトン』に票を入れてるのと同じだからな」

「…ごもっともです」

クールな榊部長から、熱いゆるキャラ評を聞くとは思ってもみなかったので、腰だけでなく気持ちも引き気味でエレベーターを待つ。
な、ん、で、誰も来ない~!!

同じ部署の奴らの顔が浮かび、脳天気におやつのパンを買っている姿と、社内で唯一カルピスを売っている一階自販機にたむろしている姿が浮かぶ。

カルピスもパンもいいから早く来い!

俺の寿命が縮むわ!!

祈りが通じたのか、わらわらと人がやって来る。

「あ、榊部長~スマホ持ってますか?」

脳天気なのは仕方ないが、救いの神が横山なのはいただけない。なにか間違いでもおこさないかと気がきじゃない。

「おう。俺は野郎のケー番入れる趣味はないぞ」

「違いますよ。ゆるキャラの投票、一日一票ですよ」

ぱっと捕まれていたヤクザな腕が離れて、ぐりんと榊部長の顔が横山に向く。

顔の濃い、般若顔の榊部長がそうすると、また般若とは違った迫力がある。

「お前もかー!横山ー!!」

「市民として当然です」

鼻高々な横山。そんな自慢は仕事で出来るようになれと言いたいのを、ぐっと堪える。

「俺、QRコード持ってる」

ポケットからがさがさと榊部長は紙を取り出す。

「子供がさ、貰ってくるんだわ。小学校だけじゃなくて、保育園もだぜ。どんだけ力入れてんのよ」

憎まれ口を叩きながらも榊部長は嬉しそうに紙を見せる。

「いいっすね。ただスマホからだとパスワードを入れなくちゃなんで面倒っすよねー」


横山の指がするするっと動いて画面を立ち上げる。QRコードを取り込み、投票画面を開く。

「っと。さくっと投票。あ~まずいっすね。『ふっかちゃん』5位に転落してますよ~」

「なんだとー!!おい、お前らも投票しとけ。それからウチ帰ったら、家族に頼むのとパソコンからの投票も忘れるな!あっと、それから彼女にも頼むんだぞ」

再び般若の形相になった榊部長が紙をまわす。

「部長ー彼女いない場合は?」


「ご近所にも頼んどけ!深谷市民として当然の義務だ!俺ぁゆるキャラ相撲で『ふっかちゃん』が『バリィさん』に弾き飛ばされた悪夢を思いだすぜ」

それは、たまたま自分もテレビを見ていたが、畳二丈はあるでっかい壁みたいな黄色い物体の必殺技バリィアタックでか弱い『ふっかちゃん』は場外まで弾き飛ばされた。

『ふっかちゃん』にしても、中身はラグビー経験者だったかもしれないのに、それを上回る『バリィさん』は相撲レスラーだったに違いないと噂された。

そして去年、2012年のコンテスト優勝は『バリィさん』に掻っ攫われ、『ふっかちゃん』は5位に泣いた。
ちなみに2011年優勝は『くまもん』で、『ふっかちゃん』は6位。優勝者が殿堂入りしてしまうので、毎年ひとつづつランキングを上げている。

「わかっているだろーが、一日一回だからな。『群馬ちゃん』には負けたくねー」

変なところで負けず嫌いだ。


「あとなー。午後っから特売と営業所サンプルの依頼が出てるから指示書取りに来いよ」

「やべー。特売なら早く言ってくださいよ。俺もパン買わないともたない」

一階はこいつらに買われているから、二階の自販機にパン買いに行っといたほうがいい。

「営業が突っ込んでくるんだから、しょうがない」

しれっと榊部長が言ってのける。


「俺、出荷しないし」

「ああもうっ管理職はいいですよね」

なかなか来ないエレベーターを待たずに、階段で二階に行ってパンを買ったほうがいいだろう。

「あ、そうだ。喜べ須山。特売全て新商品だから、覚悟してかかれよ」

般若顔がにやける。それはそれで怖いものがあるが、言ってる内容のほうが恐ろしい。今から自動倉庫の品出しをするハメになるなんて。週末の夜は新商品と過ごすことになりそうだ。

「ちくしょー。後で営業の森田に会ったらシメてやる」


駆け出した背中に榊部長の声がかかる。


「ゆるキャラの投票忘れんなよー」

「おー」

片手を挙げて階段を駆け上がる。長い夜が待っているのだ。







ゆるキャラコンテスト2013

ただ今開催中です。ワタクシ埼玉県の深谷市民ですので『ふっかちゃん』推しです。もし応援しているゆるキャラがいないのでしたら、清い一票をお願いしますドキドキ

ココアの風

髪が揺れるとココアの香りが立ち上る。

なぜか今日は、ココアの香りに包まれて仕事をしていました。



なぜかは謎です。

朝からココアを飲んだ訳でもないし、チョコレートを食べた訳でもない。

髪につけるスプレーだって甘いココアの香りではないし。



もしかしたら目に見えない存在がココアの香りなのかもしれません。

ココアを飲んで欲しくて、やって来たのかもしれません。



休憩でココアを飲んでいたら、ココアの香りの存在が笑ったような気がしました。