日本縦断!人の和と輝く人生に乾杯! ~極彩色に囲まれて~ -8ページ目

人間トマホーク⑨



小野寺さんも、さすがに参ったようだ。
だってそうだろ?
何もしていないのにほぼ満席のお客さんから白い目で見られちまったんだからな。
中には文字通り白眼だけで小野寺さんを睨みつけてるお客さんまでいるときた。


ふぅ、そろそろ潮時かな..。


せっかく若い2人の色恋を冷やかしながら新年を緩やかにスタートできると思ってたのに。

でも、仕方がない。
他のお客さんだって「楽しみに」来ているんだ。
こうなってしまったからには、誰かが仕切り直さなきゃならない。

そうだろ?

皆さんを、もう一度気持ちよくさせるのが、店長としての俺の仕事だからな。
そう、店長としての...。


それに、いま、この状況はこの店の暗黙のルールが破られちまっている。

・他人の楽しみに干渉しない
・他人に楽しみ方を見せてはいけない
例え全員が同じ楽しみ方をしていたとしても。


どうやらまわりのお客さんは小野寺さんを掟破りとして断罪しようとしてるみたいだ。
秘密の趣味を脅かす反乱分子としてね。

だけど、かほるさん、あんたも警察はないだろ。


ここはそういう店じゃないはずだ。

そうだよな?




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食べろぐHEAVEN、イチオシ!!!
トビっコ居酒屋「トライアンフ」!!!
おいしいお酒と料理を楽しみながら、ひっそりとア×ルローターが楽しめるお店!
ご希望の方には棍棒タイプも貸し出し中♫

ご利用方法)
①まずはご来店いただきます
②フロントで獲物をご装備いただきます
③お席でお酒とお食事をご堪能ください
④店長がランダムでスイッチを操作いたしますので...
⑤人知れず御喜びください(*^^*)

評価) ★★★★★(5.00)

コメント)
・はじめは怖かったけど今じゃ...中毒です(*^^*)
・とにかくリモコン捌きが絶妙のタイミング!店長はフロアの空気を読み切ってますねっ!
・気持ち良すぎて耳からカクテルを吹くのが日課ですお(^O^)
....

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察しのいいあんたのことだ。
もうわかったよな?
そう、ここはそういう店だ。

人には言いづらい趣味が、夜な夜な、しかも平然と繰り広げられる、好事家たちの社交場だ。


そして、お客さんたちが何故こんなに苛立っているのかも、もうわかるよな?

そう、ご名答。

「邪魔をするな」


まぁ、今晩のかほるさんは棍棒の方を装備してたからな。
薄い下着だけでその存在を隠し通せる訳もなく、ショーツがテントを張ってるってのも常連さんたちの羨望心を刺激しちまったんだろう。



「やだ、アタシ、そ、そんなつもりじゃ...」



「あの、ぼ、僕は、あの、えーと...」




どうやら2人もこの状況に気づいたみたいだな。
まったく、若者ってのは世話が焼けるぜ。
まぁいい。
俺が何とかしてやろう。
今日は元日、特別サービスだぜ?




俺は席番号の記されたタッチパネルを取り出すと、2人以外の全ての番号を昇天モードに設定し、スイッチを入れた。



ヴーーーーーーーン
ヴーーーーーーーン
ヴーーーーーーーン...



聴こえるだろ?
一斉に震えだした機械音が、まるで地鳴りのように店内に響くのが。
そして、堪えつつも漏らさずにはいられない吐息が店内の湿度が上げていくのを、あんたも感じてるハズだ。



「あぁぁぁ~」
「うぅぅぅ~」
「ひぃぃぃ~」



さぁ、お2人さん。
邪魔者たちは涎をたらして白眼を剥いている。



今のうちだ、つづきを見せてくれ。

ハァハァ...




人間トマホーク⑧



アタシは恐る恐る石を裏返した…

そこに刻まれた文字を見てアタシは戦慄した…。





「うそだピョン」


(…?)


男と女のラブゲーム。


(…何、今どういう状態?)


しばし石の文字を見つめ、今の流れを理解しようとした。



「……ハハハ!!傑作だぁ!用をたさない?んな訳ねーだろ!!」

小野寺はついに笑いをこらえ切れずといった感じで腹を抱えながら唐突にゲラゲラと笑い始めた。

「ナンパっつーのはさぁ、遊びなんだよ!落とすか落とされるかのさぁ!」


「…」


「ゲームは終わりだよ、かほるさんとやら。結果は遊び抜いたオレの勝ち、少したなびいたあなたの負け!」



(…やっぱり元旦から一人飲みしてる奴ってこんなとこね…)


「いい顔してたぜ、かほるさん!勢いがあったのは最初だけだったけど!ハハハフヒフヒ!」


店内に小野寺の高笑いが響いた。アタシは無性に腹が立った。なにが楽しくて元旦から他人に小馬鹿にされなきゃいけないの?ざけんじゃないわよ、このブサイク!


「…マスター、お会計」


「かほるさん、もうお帰りですか?」

「気分を害したから帰るわ。見ればわかるでしょ!」


そう言って勢いよく立ち上がった瞬間、



『ズルッ!』


(あっ!!)

椅子にひっかかったおきにのミニスカートが脱げた。


「!!」


(@_@)

(゜o゜)

(O_O)

(゜▽゜)


店内の視線がアタシの下半身に集中した。


(いけない、大ピンチ!)


この状況を打破するためにアタシの頭はものすごい速さで回転した。


(何見てんのよ!…違う…。無言ではいて去る…違う…。苦笑い…違う! そうだ!)


アタシはベストの答えを導き出した。




「ちょっとアンタ何すんのよ!変態!マスター、警察呼んで!」


アタシは小野寺に向かってそう叫んでやった。


(ゲームの勝敗はまだ決まってないのよ!)


店内の視線はアタシの下半身から軽蔑の色を帯びて小野寺に突き刺さっていた。








人間トマホーク⑦


「これは仕掛けに来られたかな…」


かほると名乗る女性の自己紹介に一通り耳を傾けると小野寺はそう直感した。

何しろ話が嘘と方便にまみれている。

些細な自己紹介にも関わらず、少なくとも3つのダウトを確認できたからだ。


その一.趣味が流鏑馬で明日は鎌倉。
現代に継承されている流鏑馬は足利僕氏(あしかが ぼくうじ)を源流としたメジャー式ポスティング流のみで、室町幕府の文化だ。無論、聖地は鎌倉ではなく幕府があった京都か最上位の八卦探題があった新潟になる。


その二.老後に備えて月100円の貯蓄。
経済学の基本だが貨幣の現在価値は将来価値と異なる。国の政策上、ゼロ金利を行使することもあるがあくまでお上の話だ。
民間の銀行であれば幾ばくかの金利がつく。
つまり貨幣の現在価値は金利を見込むため、将来価値を必ず上回ることになる。
仮に金利0.1%だと、月10010銭の貯蓄が正解だ。
一部上場企業のホウルセラー部門勤務であれば間違えようのない内容。
はたまた一部上場社員自体がダウトなのかもしれないが、いずれにせよオルタナティヴでどちらかがダウト。


その三.トースターがあればどんなパンでもおいしく焼ける。
これが致命的ダウト。


確かにフランスパンのような厚切りパンを焼くにはトースターが最適だ。

僕も朝食はフランスパンに納豆をたっぷりかけ、アクセントのごましゃぶを少々振ってトースターに立て置きで焼いている。

あの歯ごたえと舌触りは日本人の朝食にはおなじみの西洋パン文化との奇跡の融合だ。

ただし、トースターが活きるのはあくまで厚切りパンの時のみだ。
普通の食パンの場合、トースターで1時間も焼けば焦げまみれで食えたものではない。
よほどの酔狂でもない限り食パンにトースターを使うような調理方法は採らない。

かほるさんの話を聞きながらそう結論付けると、赤紙という日常では手にすることもない
右斜め上からの変化球で反抗のターンに舵を切ることした。
人間は変化球におしなべて弱い。


現に赤紙を読むかほるさんの眼球は360度回転を続け 、非日常に狼狽するのが手に取るように分かった。


「先ほど僕は常に進化していると説明しましたが、それだけでは意味が分かりませんよね?論より証拠。これが僕の未来ですよ。」


狼狽するかほるさんに間髪入れずカバンから取り出し見せたのは、何の変哲もない平らで手のひらサイズの石だった。


「かほるさん、この石がなんだか分かるかい?」


「えっ、何ってただの石ころじゃ…」

かほるは綺麗なパープルヘイズに染め上げたツーブロックの髪をかきあげ、食い入るように凝視したがどう見ても河辺に落ちているただの石ころだった。

「まあ、普通の常識で見るとただの石ですよね。でもこの石には特殊な能力があるんです。多少汚い話しになりますが、これを持っていると用を足さなくて済むんです。」


「よ、よう…? 」


「そう、用ですよ。もっとストレイトに言うとトイレです。昔はアイドルは排泄をしないなんてお笑いとしか思えない都市伝説があったでしょう?この石を持つことによって僕はそれを実現したんですよ。」


「あ、あなたの言っていること、全く意味が分からないわ。」


「それでは僕が用を足さないことの証明として、試しに3日間いっしょに過ごして立証しましょうか?」


そう言われるとかほるはこの戦いで初めて平常心を取り戻した。
奇をてらってはいるが薄っぺらく、決して女受けしないナンセンスなナンパ術。
ようは、これが小野寺という男のチンケなナンパ術なのだ。

「ねえあなた、それがあんたのナンパ方法?そんなんじゃ人間以外のチンパンジーか何かでもないと成功しないわよ。」

もうこの試合は勝敗が決したとでも言わんばかりに、興ざめした多少冷淡な声でかほりは告げたが小野寺は変わらず飄々としていた。


「まあ、いきなりこんな話しをして信じるのも無理はないですよね。もしかしたら信じる方がどうかしているかもしれない。でもその石の裏を見てから判断してみて下さいよ。」



「あんた、いつまでそんな馬鹿なこ…、えっ???」

かほりさんは石を手に取り裏返すと、自分を落ち着かせるように慌てて飲んだハラキリが耳から漏れていることに気付かないほど非日常の狼狽へとまた引きずり込まれていた。