日本縦断!人の和と輝く人生に乾杯! ~極彩色に囲まれて~
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クリーチャー烈電④

天狗の深掘。

すりばち峠で出会ったテンガ扇の講義を聞き、81代天狗の書物をこっそり盗み出した後、私は更なる分析をすべく自分の研究所へと帰路を急いだ。

栃木県日光市より西に30kmにある亜場輪空市。
ここには日本政府が直轄し、研究特区として秘密裏に開発・研究を行なう機関が無数に建てられている。

ツチノコの養殖方法について研究しているツチノコドゼウ研究所や、河童の類まれな遠泳パワーを電力に変える研究を行なっている河童力発電機構など、世界最先端の技術ノウハウを持った機関も数多い。

そんな研究特区の中に私の研究所もある。

「天狗鼻研究所」

東京ドーム12個分の広大な広さを持ち、建て屋全体を極緑色のペイントで覆われた我が研究所は通称「ビグザム」と呼ばれている。
購入価格が5億は下らない電子顕微鏡や圧縮昇天分離機など研究所内の設備は最高峰レベルだ。

書物の解析を急ぎたい私はビグザムに帰所すると、最新鋭シュレッダーに書物を勢いよく流し込んだ。

「ジョジョジョジョー」

小気味良い音とともに書類がシュレッダーに飲み込まれていく。
この機械を通すことにより書物に記載されたナノレベルの情報まで一言一句解析することができる。

解析結果が出るまでの間、他の情報を収集するため助手の中で最も優秀な中国人研究員ヒョウ・チメイを呼んだ。

「君、これ読んでキラーワードを大至急ピックアップしておいてくれ。特にキャッチーなのを中心に頼むよ。」

そう言ってヒョウに「週刊プレイテング」を渡すと、自身も「月刊☆テング野郎!」を手に取り新情報の洗い出し作業を急いだ。


だが、ちょっと待て…

それは特集記事の「この夏モテる!テング式背面筋トレ」にヨコシマな妄想で口許を緩めながら緑色のマーカーを引いていた時だった。私は驚愕の事実に気付いた。

「今はワタシが引き継いでいる。」
「先代天狗達は時代時代の人間と天狗の関わりについて記録をしている。」

扇はこんなセリフを吐いていた。

少なくともある時期より現代までの間、確定的に天狗と断定できるようなクリーチャーは、ただの1テングすら確認されていない。
扇にしても鞍馬天狗の末裔と言った噂があるだけで本物の天狗かどうかは眉つばであった。

にも関わらず、先代天狗達を"ワタシ"が引き継いでいると言った。
つまりは「自分は天狗である」と告白していたのである。

ジーザス、何たる痛恨のミス!
ヤツは遠まわしに私にヒントを与えたのだ。

それにしても何故、私に…


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

人間界では全く知られていないが、天狗間でかつて壮絶な争いがあった。

天狗界で悪名高い「ガッディム事変」である。

時は1600年、世は関ヶ原。

「首を切り落とせ!」「見せしめに晒しあげろ!」

東軍、西軍に分かれた大名達が戦国甲子園の決勝を爽やかな汗とともに戦っている最中、その裏では天狗達もまた天下分け目の戦いを行なっていたのだ。

排斥により人間界と距離を置こうとする攘人派と、そうは言っても人間とともに歩むべきだと主張する尊人派。

きっかけは些細なことだった。
正月恒例のモチつき大会。

お互いに牽制しつつも力での争いには発展していなかった両派。その年も恒例に従い杵をつく側とモチをこねる側に分かれモチ作りに精を出していた。

ところがその年、杵をつく側であった尊人派の振りおろした杵が誤って攘人派の手に当たった。

当てられた天狗は激昂し、ガッディムという叫び声とともに鼻エンピツからの鼻機銃で相手を鼻殺。

そこから大乱鼻闘へと発展し、人間と距離を置く攘人派が最終的に勝利。

こうして天狗は人間界の表世界から一旦姿を消すことになったのである。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


人は何処から来て何処へと往くのだろうか。
そんなありきたりな哲学、あなたは考えたことがありますか?

T字路に着いたら、立ち止まりどちらに曲がるか考える。
一度きりの人生、時にはそんな時間も必要だ。

さあ次は何処へ往こう。

①シュレッダーの解析結果
②扇のヒント
③ガッディム事変のその後
④大穴のガセ鷹狩ステージ(ピーヒョロロー!)

クリーチャー烈電③

そこで私はふと、テンガ翁の傍らに書きかけの原稿用紙を見つけた。


「これは一体何を書かれているんですか?」

私の問いにテンガ翁はフォフォと笑いながら答えてくれた。

「今執筆しているのは現代史、『スカイツリーと天狗』なんじゃ。もう何千年もの間、先代天狗達はこうやってその時代時代の人間と天狗の関わりについて記録をしてのう、今はワタシが引き継いでいるというわけじゃ、フォフォ」

そう語る翁の後ろの書棚に目を向けると、確かに数千はあるであろう書物のタイトル全てに『天狗と~ 著~代目天狗』と記されていた。

『天狗と後醍醐天皇 著 23代目天狗』


『天狗とガガーリン 著 102代目天狗』

『天狗と江田島平八 著 215代目天狗』


私は驚愕した。この書物を全て読めば天狗はもとより人間の歴史が全て紐解けるではないか!

そんな私の考えを察したかのように翁は静かに言った。

「書物は持ち出しはおろか閲覧も禁止じゃ。これはあくまで天狗のための書物だからのう」




∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

帰りの新幹線車内ーーーー。


私はこっそり盗み出した『戦争と天狗 著 81代目天狗』をそっと取りだしパラパラとページをめくった…。




《…我々の調査によると帝国海軍が無敵と謳うゼロ戦とやら…。最高速度はトンボ並、戦闘能力はウズラ以下…。軍は本気でこれで戦うつもりなのか…。このままでは祖国日本が負ける、そう思った我々天狗は議論に議論を重ねその結果、日本を守るため戦争に参戦することを決め、その旨を東條英機に伝えた。


日本各地から集結した我々総勢2000人の天狗は特命将校とし、赤天狗は鼻に機銃を備えゼロ戦へ、青天狗は鼻を潜望鏡に改造し南方へ展開した。




我々が操ることによりゼロ戦は太平洋全域で無敵を誇った。それもそのはず、だいたいからして我々はその気になればマッハで空を飛べるのだ。いわばオニヤンマに武装したハヤブサが乗っているようなものだ。我々は巧みにゼロ戦を操り、鼻機銃でバッタバッタとグラマン戦闘機を墜としていった。その赤い鼻から火を噴く我々を模し、アメリカ兵からは『ファンキーノーズ』と呼ばれ恐れられた。
いつしかゼロ戦は機の噂だけが先行し、最強と呼ばれるようになっていた。余談だが戦争末期に人間が搭乗するようになるとゼロ戦は戦闘機としての機能を果たすことができず、後に「七面鳥」と呼ばれた。

青天狗は海上戦で活躍した。ドラム缶に1ヶ所穴を開け、潜望鏡である鼻を挿し込み中に入ると即席の潜水艦と化した。青天狗はその身体能力を生かし海中を縦横無尽に動き回った。
大海原にさながらチンアナゴの様に無数に突き出た青い潜望鏡を模し、アメリカ兵からは『クレイジーノーズ』と呼ばれ恐れられた。
蛇足だが戦争末期に人間が搭乗するようになるとドラム缶は潜水艦としての機能を果たさなかった。これは後に天狗の一文字をとって『回天』と呼ばれた。


我々天狗のこうした実績から当時の日本のヒエラルキーの頂点に立ったのは当然の流れだった…。》





…世界は広く、空は高く、海は深い。私達の知る世界とは一体何パーセントなのだろうか。
私にできること…まずはより天狗を深掘することである。

歴史を探り真実を直視すること、これの繰返しが人の歴史なのだから。



クリーチャー烈電②


天狗とは何者か。

さて、今回も希代のクリーチャー、天狗についての考察を深めていきたいと思う。
前回から少し間が空いてしまったのには理由がある。
このレポートを机上のものにしないためにも、GW返上でフィールドワークを行っていたからだ。
具体的には高尾山から比叡山をまわり、果ては海底火山からどんぐり山まで、天狗由来の山という山をしらみつぶしにする大調査だ。
今回はそこから持ち帰った調査結果をもとに、天狗の核心をさらに深掘りしていきたいと思う。

天狗とは何者か。
冒頭で述べたこの問いであるが、天狗、と聞いてまず100人が100人思い浮かべることは同じだろう。
そう、ピノキオだ。
人造人間ピノキオがナイフ一本でウィルスから土星を守る、言わずと知れたSF定番である。
ピノキオのモデルは天狗、とはもはや都市伝説として周知の事実だろう。
まともな大人であれば嘲笑を浮かべながら否定する、この天狗とピノキオの関係であるが、今回の調査でそれは決して絵空事ではないことが浮き彫りになってきたのだ。

……


あれは調査日程もわずかとなった薄曇りの午後。
私はある場所を探していた。
場所は谷川岳を南に82、西に19進んだ、通称すりばち峠の山頂付近。
私は小休止も兼ねてルートのおさらいをしながら、持参した五重の松花堂弁当に舌鼓を打っていた。
うん、美味!シェフを呼んでください!
と誰もいない斜面を仰ぎ見たその時、山腹に古びた祠のような建物を発見した。

それこそが、私の探し求めていた場所。
天狗研究の世界的権威であり鞍馬天狗の末裔とも噂される、通称テンガ様の隠居庵である。
私は食べかけの松花堂弁当を重箱ごと谷底にぶちまけると、わき目もふらず山腹へ駆け出した。


白装束の襟元とネクタイを整え、私は少し緊張しながら木立にひっそりと佇む門を叩いた。
カラスがカァと鳴き、やがて、衣擦れの音と共にモアイ像のような精悍な顔にダブルのスーツを着こなし高下駄を履いたテンガ翁が姿を現した。


……



翁は私の質問が終わると静かに茶を点てながら語りはじめた。

「天狗は世界中に生息している。どの時代にも、ね。UMAの殆どは天狗と言っても過言はないし…

…戦車だってもともとのモデルは天狗だからねえ」

やはり予想していたとおりだ。
私はこのフィールドワークにある仮説を持って臨んでいた。
そしてそれは、ほぼ的中していたと言えるだろう。

「では、W.ダズニーはやはり天狗を…」と私は言った。

すると彼はカカと笑いながらこういった。

「世の中には天狗を模倣したものに溢れておる」



やはりここに来たのは正解だ。
これだから天狗は奥が深い。



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