あそこに見えるは 今宵の月か
それとも 闇夜が切り取られた丸い穴か
ざわざわと流れる草海原の中
月に向かって歩き始める
行くな行くなと 草が刺す
銀色の月光が そっと私の腕を撫でまわし
草の中に 落ちていく
月光が地面に深く刺ささり
痛い痛いと 草が音をたてて泣いている
しゃらしゃらしゃらしゃら泣いている
月光になぶられた心地よさに揺れる私の心
月明かりの下で 宙を舞う
淫靡な動きをしながら 宙を漂う
そして鈴虫の鳴き声に弾かれるようにして 消えていく
私の心が もっと月光と戯れたくて
ここよ ここよ 私はここよ と震えている
それに気づかぬふりして月を見上げる
そっと胸に手を当て ため息をつきながら
それを優しくなだめ 薬指でそっと抑え込む
もう少しだけ
お月さんを見ていよう
湿った地面に うずくまり
膝を抱えて 顎をのせて
心が
月光に触れないようにして見ていよう
これ以上
心がなぶられないように
ありったけの私の心が 宙に舞い散り
すっからかんにならないように
また草が泣き始めた
by deko