「ヴァージナルの前に立つ女」
●サインがあります。Mの上にI、その後にeerと続きます。
●X線の情報がないので、とりあえず下の絵はないものと考えます。
●画中画が複数あります。
女性の背後の「カードを持つキューピッド」は、過去に「中断された音楽の稽古」と「窓辺で手紙を読む女」でも描かれていました。
ウィキペディアによれば、片手にカードを持つキューピッドは「真実の愛はただ一人の人のためにある」という寓意を表すそうです。女性の頭部を覆うように描かれていますので、このキューピッドの意味合いが女性と最も関連していることになります。
「真実の愛はただ一人の人のため」・・・かもしれませんが、他の絵との繋がりを追っていくと
このキューピッドの絵は、幼くして天に召された子供たちを指しているように感じます。
つまり、この絵の女性もカタリーナがモデルで、幼くして天に召された子供たちのことが忘れられないのです。
女性に与えられる光
「音楽の稽古」では、ヴァージナルを弾く左の女性は、光に背を向け顔が影になり、右の女性には光が当たり顔が明るいですね。そして男性のイスは右の明るい女性に向いています。
フェルメールは、光による明暗によって男女の未来を予兆させていました。
また「天秤を持つ女」では、光は”祝福”として用いました。
「ヴァージナルの前に立つ女」は、光に背を向けていますが顔がこちらを向いていますので半分は明るいです。窓の外から明るい光が注ぎ、壁の金縁の風景画、ヴァージナルのフタの風景画も青空で、各絵の中からも女性に光”祝福”が与えられているようにみえます。
イスの向き
イスの向きとサインの場所は、「手紙を書く婦人と召使」と似ています。
「手紙を書く婦人と召使」の青いイスはフェルメールのもので、イスは召使いに向き、召使いは窓の外に向いています。フェルメールが外からこの部屋にやってくることを予兆させるものでした。
参考記事→「手紙を書く婦人と召使」近くて遠い二人
「ヴァージナルの前に立つ女」の右手前にある青いイスも男性のイスです。
窓に向かっていますので、これからこの部屋にやってくることを予兆させます。
座面は光と影の部分がくっきりと二分されています。これは”はじめの絵”は暗く、”終わりの絵”は明るくした「地理学者」 を連想します。
以上、画中画・光・サインの位置・イスの使い方と、他の作品の繋がりから、「ヴァージナルの前に立つ女」も、内面はフェルメールの妻のカタリーナとフェルメールがモデルになっていると推測します。
幼くして天に召された子供たちのことが頭から離れない妻のカタリーナは、自分の想いをヴァージナルにのせて静かに奏でます。
彼女を慰めるように、大きな窓からの光が、金縁の画中画を反射し、明るい青空の画中画からも彼女に光を与えています。
光は、暗く影っていた青いイス(フェルメール)にも届いています。
カタリーナの心の悩みに気づいたフェルメールは、もうじき彼女の元へやってきて、彼女の想いを聞いてくれることでしょう。