11.「天秤を持つ女」
●サインはありません。
●X線の情報がないので、とりあえず下の絵はないものとします。
●女性の持つ天秤には、机の上にある真珠・金貨といったものは何ものっていないそうです。
●ブルーの上着の下に見えるスカートのふくらみは、スカートのデザイン説と妊娠説がありますが、自分は妊娠しているように見えます。この女性は妻のカタリーナがモデルになっていると推測します。
●ピーテル・デ・ホーホも似た構図で、天秤を持つ女性の作品を描いています。
これはホーホのが先に描いたとみえます。ホーホの方は画中画もないので、単に女性が天秤をもってコインを量ろうとしているとしか見えません。フェルメールは、画中画に意味がこめられています。他の画家の作品を、”自分の描き方”でもって、よりストーリー性のある作品に仕上げているのです。
画中画は「最後の審判」です。カタリーナの頭部を囲むように、ほぼ全体が描かれています。
下の画像は、「最後の審判」で有名なミケランジェロのものです。
再臨したイエスが死者を審判し、祝福を受けて天国(上)にいけるものと、のろわれて地獄(下)にいくものとを振り分けています。
この『最後の審判』の意味合いから思い浮かぶのは、幼くして亡くなったフェルメールの子です。3番目の子が1660年12月27日に埋葬されています。
「天秤を持つ女」が、妻のカタリーナをモデルにしたものとすれば、この子供が亡くなったあとで次の子を妊娠している時期ですので、5番目の子を出産している1661年が制作年と推測します。(1663年だと間が開きすぎるので)
1. Maria マリア(女) 1654-1713以降
2. Elisabeth エリザベス(女) 1657-1713以前
3. Cornelia コーネリア(女) 1659-1660.12.27
4. Aleydis アレイディス(女) 1660-1749
5. Beatrix ベアトリクス(女) 1661-1702以前
6. Johannes ヨハネス(男) 1663-1688
(以下省略)
→過去記事「フェルメールの子供の名前と生年-没年」より抜粋
「天秤を持つ女」を解釈します。
カタリーナのお腹には新しい命が宿っています。
「最後の審判の」画中画はほぼ全体が描かれていますので、彼女の心は、幼くして亡くなった子のことで一杯なのでしょう。子どもは安らかに天国に行けただろうかと。
また、お腹に宿る子は無事に生まれ、育つことができるだろうか?という不安も抱えていたことでしょう。
真珠や金貨よりも、かけがえのない我が子の命です。
子を案じるカタリーナに、フェルメールは天秤を持たせます。
「もしこの天秤が亡くなった幼子の魂が量れるとしたら?」
カタリーナはじっと天秤を見つめますが、天秤は水平を保つだけです。
フェルメールは、高い位置の窓から黄色のカーテン越しに光を差し込ませ、カタリーナの姿を照らします。光は上着のすきまからのぞく膨らんだスカートにも反射させています。
画中画の、イエスが天で放つ光が周囲の人を照らし祝福しているように、黄色のカーテン越しの光は、カタリーナたちを祝福する光として表現させたとみます。
「天秤の上の亡くなった子の魂も、お腹の子も、神の祝福の光が与えられているよ。うつむいた顔をあげて鏡をみれば、光があなたも照らしているのが見えるだろう?」
この作品は、亡くした子、これから生まれる子のことで思い悩むカタリーナを、優しく癒すような作品だと思います。
以下は参考までに。
画像は『人物が立っている&窓がある』絵をピックアップして、窓の高さを比較したものです。窓の下部分を基準に線を入れています。
「天秤を持つ女」の窓は、最も高くて、その光源が小さいことが判ります。