法を犯して法の番人を葬られるか?日活「男の紋章・喧嘩状」高橋英樹/和泉雅子/佐野浅夫・井田探監督 | 東映バカの部屋

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東映制作作品を主体として書いていますが、たまに他の話題も…一人でも多くの東映ファンが生まれる事を望みます!

皆様、こんにちは。
 
 
休み二日目です。明日からの夜勤に備える為の時間調整で30分程前に起床したのですが、昨晩一度消えた筈の雪化粧が再度顔を出し…しかし2.3センチですし昨日よりも暖かいですから放っておいても午後には無くなっているかと思います。
 
 
さて、日活で初めて大当たりとなった任侠映画「男の紋章シリーズ」は、ヤクザの親分・石山健二郎の長男ながらも嫌で一度は医者となりながらも実父の死を機に一家を引き継いだ上に石山さんと離縁した実母・轟夕起子率いる一家と時には反目しながら成長して行く高橋英樹の姿を描いた作品。しかしシリーズ開始時に英樹さんは19歳・一貫してヒロインを演じられた和泉雅子は15歳だったのですが、年齢を感じさせぬ貫禄や色気・しっかり感…人間として成長する為の環境が現在よりも恵まれていたのもあれば大東亜戦争終結20年未満であった点から年齢不相応の役柄を演じなければならぬ程の適格者不足の側面もあったのでしょうが、現代の同年代に同じ質感の芝居を求めても教えても到底不可能でしょうね。
 
 
 
 
そして「回を重ねる毎に質が低下した」等々の見方もよく目にしますが、俺はそんな事は無いと感じています。と云うのも当時任侠映画では飛ぶ鳥落とす勢いであった東映任侠映画群が「最初から出来上がっている人格者を中心に据えた王道路線」ならば「男の紋章」は「子供の頃から目の当たりにはしていたもののヤクザのヤの字も知らぬ若者が押しも押されぬ街道一の親分に成長する、任侠路線と青春路線の合わせ技+反目する場合がありながらも、絶妙な距離感で描かれる母子愛+各社任侠路線の状況を見ながら大衆迎合の方向性を模索かつ独自性を保ちながら模倣した」となるかと思います。「喧嘩と博奕が嫌いで組内の禁止事項とし(但し英樹さん自身が破った事もあれば、破った組員に対しては英樹さんは情けをかけています)出入りの際にも峰打ちを多用したり事と次第によっては警察力に全てを委ねる。しかも怪我人の治療は朝飯前で大組長となった後でも嫌な顔をせず旅人修行、時には懇願されて組長代行…しかし極悪人を斬らざるを得ない場面に多々遭遇し服役もすれば正当防衛で不起訴となった事も数知れず。更には常時命を狙われる標的でもある。一方で自らが葬った者をきちんと弔い、更にはその者達の近親者に手を差し伸べる」若年期の青臭さを上手く生かしながらそれを徐々に消し、シリーズ終盤に近付くに連れて一挙に人間が大きく成長する流れは東映任侠映画には無かった魅力ですし、英樹さんを脇で支える近藤宏、お笑い担当の小池朝雄(一時期小池さんの代役を谷村昌彦が務めました)・桂小金治の名コンビも作品を大いに盛り上げます。井沢八郎・堺正章(女郎街の流しの歌手で役名が「渡しの哲」!堺さんが出演されたシリーズ第七弾「男の紋章・喧嘩街道」の直前に主演作が公開された渡哲也を意識した遊び心が生きています。勿論宣伝もあるのでしょうが…)・大月みやこ等々の歌手が登場し時にはレギュラー陣と絡んでいるのも見所。
 
 
そこで本日は、警視庁の上級幹部が血縁者に居る事を盾にしてヤクザから袖の下を貰って目溢しをしたり、拷問で自白を強要したり、目を付けた美女を手籠めにしようとしたりする悪徳刑事・佐野浅夫を追い込む為に英樹さんが事前に佐野さんに袖の下を渡し、敢えて嫌いな賭場を一度限りで開帳した上に翌日警察署に自首した序盤から目が離せなくなる一作を・・・
 
 
「男の紋章・喧嘩状」(「男の紋章シリーズ」第六弾)昭和39年12月16日公開・甲斐久尊脚本・井田探監督(日活任侠映画群の名監督の一人。後に東映「プレイガール」等々の演出を務められました)・日活制作。未DVD化作品でビデオマーケット/カンテレドーガに於いて有料動画配信が行われています(尚、Amazonプライムビデオでは本日時点で作品案内は出ますが観賞は不可能です)。
 
 

 

 

英樹さんが挑んだ悪徳刑事への勝負は「今回に限り英樹さんは立件見送り・佐野さんは署長である鈴木瑞穂の厳重注意止まり」と事件自体が無かった事とされましたが、佐野さんの目に余る行為は鈴木さんも手を焼いていた様子が英樹さんとの遣り取りから伺えます。そして佐野さんの遺恨は堅気衆の年末年始の餅代となる松の内の利権を佐野さんと手を組む組織の組長のモノとする決定が下される顛末へと発展したものの、これに怒った別組織の若衆である和田浩治の勇み足が逆の効果を生み出し、轟さんの尽力も手伝って無事松の内の権利は堅気衆に戻ったのです。しかし再び顔を潰された佐野さんは内縁の妻である西尾三枝子と故郷へ帰ろうとした和田さんを逮捕した上に、めでたい筈の元旦を迎えた英樹さんの元に訪れた警察官が告げた一言は…

 

 

 
 
「堅気衆や弱き者達を極致に追い込む(追い込んだ)輩は国家権力側・同業者問わず追い込み、その為ならば例え身を滅ぼしても本望!」と云わんばかりの英樹さんを中心とした組織の男気にボンクラ野郎の心は惹かれます。そして英樹さんは標的とされるだけではなく、その男気を知っている過去に知り合った人物達が手を差し伸べ助けたり、筋の通った凄味に圧倒されまた納得し血を見ぬ決着となったりもする。更には怨みを持っていた者達の心根さえもひっくり返してしまう事も多々…当作品でもそんな様子が堪能出来ますし順不同で鑑賞しても面白さや楽しさは全く揺るぎませんが、人間関係が読み切れなくなる可能性や先の作品の関係者が登場する機会が非常に多い傾向がありますので、このシリーズは出来れば一度は順番通りに鑑賞される事をお薦めします。最初に順序通りに観れば回を重ねる毎に面白さと奥深さが増しますし、再鑑賞時に順序通りに観れば別視点での面白さや楽しさが発見出来ます。