ロシア皇太子の命を守った車夫の顛末…大映京都「鉄砲安の生涯」勝新太郎・木村恵吾監督 | 東映バカの部屋

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東映制作作品を主体として書いていますが、たまに他の話題も…一人でも多くの東映ファンが生まれる事を望みます!

皆様、こんにちは。

 

 

昨日の20時に勤務を終え、今週末は暦通り三連休の為稼働開始は火曜日11時からとなりますが、その代わりに来週末は土曜日が通常勤務となる為心情は何とも言えません。しかも全国各地と同様秋田市内も三連休どころか来週木曜日迄晴れマークが無い週間予報…農家の様に適度な降雨が無ければならぬ方々が居られますし我々にとっては水不足の心配が不要となり日差しが無い分冷房の使用時間が減って経済的(当地では降雨の場合、気温が25度~28度前後であれば網戸を有効活用すると冷房は除湿に使用する程度で済む場合が多いです)と思えばいいです。只、約1キロ先に有る河川の増水のみが不安です、土留及び基礎立ち上げが一般家屋よりも高いアパートですので床下浸水の心配は小さいですが…

 

 

さて、有料波の日本映画専門chは角川の資本が入っている関係で勝新太郎の主演作は毎月鑑賞可能な環境が整っており、人気シリーズに関しては繰り返し放映されている程…その中では俺は「兵隊やくざ」「悪名」の両シリーズが「座頭市」よりも好きなのですが、もっと好きなのは単発作品で「不知火検校」「にせ刑事」「とむらい師たち」等々珠玉の作品のオンパレード(私感)。そして最近も本日時点で未ソフト化/有料動画配信未実施の隠れた名画に出逢う事が出来ました。

 

 

「鉄砲安の生涯」昭和37年2月21日公開・小橋博原作・八尋不二脚色・木村恵吾監督・大映京都制作。

 

 

 

 

明治24年5月11日に発生した大津事件を題材としています。勝新が扮したのはこの事件の際にロシア皇太子の生命を守った車夫(因みに襲撃したのは警護中の警察官)。但し史実では「二人の車夫が守った」となってはいるものの当作品では一人となっており、モデルはその二人の車夫の内郷里に帰郷し地主・郡会議員となった人物と思われますが(もう一方の人物は前科持ちであった上に思わぬ大金を手にしたものの博奕と女で釜を消したとか…)娯楽作品向けの脚色が多く為されてもいます。

 

 

勝新は大金(報奨金及び生涯年金の受給)を手にし、故郷に錦を飾り時の人となり、豪邸を建てた上に国会議員を目指すこの地の名士の一人娘と婚姻したものの、その目的は金…しかもその一人娘は秘書と恋仲になっていた上に勝新との婚姻時既に懐妊していたものの実父の言うがままに一緒になった事実を知ると離縁及び親戚関係解消は受け入れたものの養育権に関しては「俺の子供!」と頑なに主張し手放さず、小間使いの老婦を含めた三人での生活を継続します。更に日露戦争の勃発により、以前から皇太子を襲撃した警察官に対する同情論が一定数存在していたのが急激に勢力を増しただけに留まらず「露探=ロシアのスパイ」として謂れ無き差別を受け、勝新は或る決意を胸に秘め郷里を離れて向かった先は…

 

 

 

 

序盤から中盤にかけては大酒飲みで世間知らずの怠け者の日常が真逆になった様子を喜劇と言っても差し支えが無い程の勢いで進んでいくものの風向きが変化し始めてからは「金の魔力・血筋を超えた人間愛・国情が生み出した一方的な差別・既得権益を放棄した一大決心・人生の岐路を左右した女性との再会」等々を通じて多くの物事を問題提起する重厚な内容となって行きます。しかも史実を市井と娯楽の視点から描く手法が徹底されている為に心にズシンと来る響き方や染み入り方!当作品も勝新の「隠れた珠玉の名画」と言っていいかと思います。

 

 

そして、多様化や向上する一方の利便性等々に塗れた現代社会が当作品から学ぶべき物事も多い…当作に於ける勝新は最終的に「己の信条を貫く為に更なる艱難辛苦を覚悟しながらも戦って生き続ける決意を背中で見せる」これは些細な物事に衝突しただけでも意気憔悴したり最悪の場合は自決を簡単に選ぶ人間が多い現実に楔を打ち込んでくれますし「国家と国民は別物であり、例え有事が発生しても私情・感情は二の次で切り離して考えなければならない」とも教えてくれます。この二つは現代の日本人に最も欠けていて即座に宿らせなければならぬ思考であるとも感じます。しかし「背中で見せる芝居」が今では消滅してしまいましたが、真正面で喜怒哀楽を明確にする芝居よりも、背中で見せる芝居の方が意味も深ければ多くの物事を提起したり考えさせる効果が絶大である事実を取り戻さなければなりませんね、現実は非常に厳しい事は承知ですが…