無罪証明の糸口は何処から?日活「その壁を砕け」小高雄二/芦川いずみ/長門裕之・中平康監督 | 東映バカの部屋

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皆様、こんばんは。

 

 

休み二日目の夜中です。昨日は前職の先輩に誘われて焼き肉食べ放題に行って来たのですが、春期休暇の帰省時にすき家で朝食セットを食したのが今年初めての外食でしたので本日が二回目。自炊に慣れてしまうと自宅で勝手気儘が効くのが良くて此処十数年は外食は年に五回行くか行かないかなのですが、極たまにはこう云うのもいいものです。しかしこの時間になっても腹は苦しいなぁ…

 

 

さて本日は先月有料波のchNECOで放映された此方の作品ですが、DVD化済みでAmazonプライムビデオ(Amazonプライム会員見放題対象作品)内に於いて有料動画配信が行われています。

 

 

「その壁を砕け」昭和34年6月23日公開・新藤兼人脚本・中平康監督・日活制作。

 

 

 

 

三年間酒食の付き合いや喫煙等々を一切絶ち念願の自家用車を購入し休暇を取得して東京から新潟へ車を走らせていた自動車整備士の小高雄二…その目的は将来を誓い合い此方も三年間無休で働き続けていた看護婦の芦川いずみを迎えに行く為でしたが、道中通過した或る山村で見知らぬ男に頼まれ親切心で同乗させた事が艱難辛苦の始まりとなるのです。何故なら小高さんがその頃村内で発生した強盗殺人事件の重要容疑者として身柄拘束された為。そうとは知らずに新潟駅で待ち続けていたいずみさんには所轄刑事が事実を伝え面会も許されましたし、捜査担当刑事の一人は小高さんの真犯人説に異を唱えてはいたものの状況は不利…そこでその刑事はいずみさんが小高さんの無罪が証明される迄現地に残る強い意志を示した事から、第一審が行われる新潟・長岡に留まる様に薦め、更には有能な弁護士として長岡で活動する芦田伸介を紹介し、いすみさんと面会した芦田さんは小高さんの弁護を引き受けます。

 

 

一方、小高さんの逮捕に貢献した巡査の長門裕之はこの功績が元で本署の捜査課に配属され先輩の西村晃と行動を共にしていましたが、被害者宅の息子と婚姻に至りながらも死別してからは一家の厄介者となっていた渡辺美佐子が実家に帰郷した直後に村に出稼ぎに来ていた佐渡の工夫・神山繁と再婚をしていた事実を知ってから小高さんの真犯人説に疑問を持ち始め、有給休暇を取得して独自の捜査を開始すると疑問が更に膨らんだ末に村外れで怪しい動きを示した部外者を追跡し東京に辿り着き…

 

 

 

 

真犯人は早くに顔が解りますし小高さんが無実である事も序盤で一目瞭然…その無実の小高さんの雄叫びを信じたいずみさんの献身的な行動と、自らが得た功績を捨てる事になるのが確実ながらも見過ごせず詫びの気持ちを持って再捜査に当たる長門さんが見物。しかも「実況見分の遣り直しにより目撃証言の信用性に疑問符が浮かび上がっただけではなく、或る人物が受けていた排他的対応と隠し通したかった事実が捜査を捻じ曲げてしまった事」も結末直前の盛り上がりを大きく引き立てる薬味として十分に機能しています。

 

 

最後の最後に真犯人が解る物語が過去も現在も主流で特に最近は幾つものどんでん返しが存在しなければ出来に納得をしない方々が増えている印象がありますが、もう一つの主な流れであった「最初から真犯人が解っていてそれを追い詰めたり、当作の様に事実誤認で拘束された者の無実証明を同時進行で描きながら真犯人や事件の背景に迫る物語」は一気に萎んでしまった感があります。趣味嗜好は様々ですし人夫々ですが、俺としては後者の様な、そして当作品の様な物語が再び這い上がって来ないかと期待をしていますし、主張は或る程度出来ても拘束され行動が一切出来ぬ分その者を信頼・理解している者達が奮闘し続ける物語は人間ドラマと言うに相応しく、自らの人間性を素直に出せる役者や娯楽に精通し反骨精神に溢れる制作陣で無ければ成立しないであろうとも感じています。「俺が速いのでは無い、周囲の監督達のテンポが遅い」とも言っていたらしい中平監督の快速感にも合っている当作品も勿論佳作!一人の無実を証明する為に一人、又一人と樹木が立つ様に増えて行き、樹海化する姿に感化され自らの戒めとして勇気を持って立ち上がった者達により樹海が完成したかの様な雰囲気を是非一人でも多くの方々に堪能して貰いたいと思います。