強盗潜伏ものだが全長版が観てみたい・新東宝「現金と美女と三悪人」藤田進/東野英治郎・市川崑監督 | 東映バカの部屋

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東映制作作品を主体として書いていますが、たまに他の話題も…一人でも多くの東映ファンが生まれる事を望みます!

皆様、こんばんは。

 

 

休み二日目の夜中ですが、夕方過ぎに軽く路面を覆う程度の積雪となり冷え込みもここ数日の夜と比べると厳しいですが、寒い日に暖かい部屋で飲む焼酎の水割り、これはこれで格別!当然酒の肴はボンクラ好みの映像作品を目に焼き付けながら…俺にとっては「酒と煙草の美味さを引き立てる映像作品を探す」これも非常に大事なんです。

 

 

さて、昭和30年代半ば迄劇場公開作品を制作し続けたものの倒産し、再建後は国際放映と社名を変更し東宝グループのテレビドラマ部門として機能している新東宝(因みにピンク映画制作の新東宝映画は新東宝から名称を購入しただけで東宝グループ及び国際放映とは業務/資本両面に於いて無関係です)。映画他社が潤っていた時期でも新東宝の劇場は閑古鳥が鳴いていたらしく、昭和30年代初めには過去の作品を再編集(短縮化)及び題目変更し再公開していたそう…その様な作品が主にU-NEXTで有料動画配信されており、本日紹介の作品もその短縮版の一つです。

 

 

「現金(げんなま)と美女と三悪人」(初公開時の題目は「熱泥池」です)昭和25年5月1日公開で101分(再編集版の公開日は不明ですが62分)・木村荘士原作・市川崑/板谷良一の共同脚本・市川崑監督(初期作品の一つ)・新東宝制作。DVD化作品でU-NEXT内に於いて有料動画配信が行われています。

 

 

 

 

現金100万円を強奪した藤田進は利根はる恵を15万円/1ヶ月の契約で表面上の夫婦契約を結び航路で登山者相手の酒場兼潜伏先である北海道・十勝の山中に向かいますが、利根さんが船内で負傷した際医師を自称していた東野英治郎が金魚の糞の様に付き纏いそのまま酒場で寝食を共にし始めます。藤田さんにとってはこの東野さんが気掛かりでしたし当初からその気が無くても契約をきっちり守る様に要求して来る上にそれが駄目だと解ると逃走を図る利根さんにも頭を抱えてしまう始末…そんな時、利根さんの母校の後輩で船内要員として従事していた堀雄二が負傷の為に藤田さんに介抱されながら酒場にやって来たのですが、時を同じくして藤田さん・東野さんの間で金銭争奪戦が開始され…

 

 

俺自身「場面移動が極めて少なく、出演者も少人数で濃度の高い密室モノ」が好きですので短縮版でもそれなりに楽しめましたし、恐らく編集時に要所を吟味・精査の上で巧く話の辻褄を合わせてくれたのだとは思います。「臆病さは人間性の欠片がまだ残っている証拠とも言える主犯の藤田さん」「鍵を握りそれをネタにし時には責め立て時には隙を狙う=追われる者より追う者の方が強い…いや、より悪者の雰囲気が満点の東野さん」の対比・対決が面白く、此処に「その時々に於いて感情の落差が激しく揺れ動く利根さんの女心」(契約満了直前の目の前迄は高揚し続け、それが無理と解ると諦めと同情が同居し始める。しかし、脱出の機会を完全に諦めてはいない)が絡み「男の強さは見かけに対し、女の強さは内面である」と云う事実を同時に見せ付けてくれます。

 

 

しかし「是非、完全なる全長版を鑑賞したい」が本音…何故なら「三悪人」と表されながらも短縮版では実質二悪人でしたし、出演時間が極めて短い田中春男・伊藤雄之助(伊藤さんに関しては短時間でも台詞無しで灰汁を存分に見せ付けてくれており、怪優の異名は伊達ではないと思わせてくれました)の立ち位置はもっと詳しく描かれていたのではないかと。そして「熱泥池」の題目とそれを示すかの如くの池の描写は後の新東宝作品の持ち味に繋がる雰囲気でしたから、この池に纏わる秘話も何処かで語られていたと考えられるだけに…国際放映の原盤保存状況は一切解りませんが制作が70年以上前である上に一度破綻した会社ですから実現の可能性はかなり低いでしょうね、憶測ですが。