前科者の無実の訴えは空しく響き渡り…東映東京「非常線」高倉健/故里やよい/藤田進・マキノ雅弘監督 | 東映バカの部屋

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東映制作作品を主体として書いていますが、たまに他の話題も…一人でも多くの東映ファンが生まれる事を望みます!

皆様、こんばんは。

 

 

昨日は通常勤務扱いの土曜日かつ3時間残業となり帰宅したのは夜中の1時過ぎ…今週は製造設備の予期せぬ重故障等々が相次いだ上に発注品が急激に増加すると云う嬉しさと苛立ちが同居していた様な日々でした。そして毎年2月に入ると業務量が更に増え年度末迄続くのが我社の特徴ですので俺の場合は「金欲でこれを乗り越える事」にしています。

 

 

さて本日は高倉健の初期の主演作品から…未DVD化作品でひかりTVビデオ/Amazonプライムビデオ/U-NEXT(見放題対象作品)/YouTubeムービー内に於いて有料動画配信が行われています。

 

 

「非常線」昭和33年4月6日公開・沢村勉脚本・マキノ雅弘監督・東映東京制作。

 

 

 

 

舞台は或る港町に存在する岡村文子が女将を務める長期滞在者の利用が多い大衆酒場を併設したホテル…このホテルの住み込みの掃除夫・藤田進は併設された大衆酒場の踊り子・故里やよいと共に実弟の高倉健の帰宅を待っていました。健さんは故里さんと将来を誓い合っていた上に子供の生誕を待っている身でしたが、やっとの思いで漕ぎ着けた就職が脅迫行為の前科を持つ懲役囚と判明した為に駄目になり憔悴、しかも健さんの名が刺繍された故里さんの手作りの帽子を帰宅途中に落としてしまいそれを探しに外出します。そして暫くして健さんは帽子ではなく入水自殺した森美代志を抱えて帰宅し同じホテルに滞在する自称・医師の岡田英次に預けたその時、刑事・神田隆が近辺で発生した現金強奪事件の現場に健さんの帽子が落ちていた事と前科者であるとの理由から尋問・拘束を行おうとしたものの健さんは無実を主張し逃走した為周辺には非常線が張られ、ホテルの滞在者・酒場の客・この施設の関係者全員が事件解決迄建物外に出る事を禁じられます。客の一人・菅井一郎は暴力団の組長でこのホテルをアジトにして何か怪しい事を命じている様子が伺える上に新聞に探し人として掲載した若年女性は健さんに救われた森さんであったり、医師を名乗る岡田さんは焦臭い雰囲気が漂い、岡村さんは酒場の踊り子達に売春を強要している様子が伺えます。他にも産婆は医師の資格無しに堕胎も請け負っていたり、酒場は密輸洋酒を買っている等々警察が目の前に居るのは都合が悪い人間ばかりでしたが、見ず知らずの誰かが大金を一つ一つの部屋に投げ込んだ為に健さんに対する嫌疑は更に深まり…

 

 

 

 

川島雄三監督が大映東京で手掛けられた「しとやかな獣」もそうですが、密室や一つの建物内で繰り広げられる悪党が多数登場する作品は駆け引きや心理戦が面白いだけに留まらず、極限状態にある人物の描写が静かな凄みや迫力を生み出す為俺は大好き!この「非常線」もそれに当て嵌まります。主演でありながらも総出演時間はホテル内の人物や刑事よりも短い健さんですがそれでも主役としての存在感は失われていない上に出番が少ないからこそ「今回はさすがに健さんが悪党だったのだろうか?」と半ば落胆させる雰囲気の作りがまたいい!しかも「非常線」よりも「非情線」の方がしっくり来るのではとも感じてしまう物語!しかし、そんな非情の中にも健さんを信じる心は実兄の藤田さん・婚約者の故里さんだけではなく周囲にも多く居た事は救いでしたし、時には健さんを叱責しながらも不条理に振り回され続ける現状に苦い思いを抱き、最大の危機には身体を張って守ろうとする藤田さんの兄弟愛には胸が熱くなります。

 

 

又、纏め方が下手であったりあれもこれもと加えたがる監督であれば複雑怪奇で難解な物語になり兼ねない内容を適度な範囲で深追いを止め要所を繋げる様にスッキリと纏め上げながら「酔った勢いで神田さん扮する刑事に自らの罪を告白してしまうホテルの長期滞在者と酒場の関係者達」等々のブラックユーモアをしっかりと加えたマキノ監督の手腕はさすがと思わせます。尚、作品中盤で神田さんの上司に当たる刑事として堀雄二が加わりますが「警視庁物語シリーズ」の二大俳優が刑事役で当作品に登場する上に立場は逆!これも面白さかつ観客サービスの一環であり、同時に「警視庁物語シリーズ」が如何に人気の高い作品であったのかが伺い知れます。