内田吐夢監督復帰第一作目は珠玉の傑作!東映京都「血槍富士」片岡千恵蔵・6月東映chで放映! | 東映バカの部屋

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東映制作作品を主体として書いていますが、たまに他の話題も…一人でも多くの東映ファンが生まれる事を望みます!

皆様、こんにちは。

 

 

休み三日目、ここ数日の肌寒さは昨日で完全に顔を隠し、この時期らしい陽気です。昼酒・昼寝には一番いい環境!

 

 

 

さて本日は令和2年6月の東映ch「傑作時代劇スぺシャル」の枠内で放映の一作品から…昭和16年に満州に渡り、満州映画協会に在籍していたものの大東亜戦争敗戦後中国に抑留された内田吐夢監督が帰国後東映に入社し、13年振りに辣腕を発揮した復帰第一作です。

 

 

 

「血槍富士」昭和30年2月27日公開・井上金太郎原作(昭和2年制作「道中非記」の再映像化。因みに俺は未見です)三村伸太郎脚本・内田吐夢監督・東映京都制作。

 

 

尚、企画には伊藤大輔・小津安二郎・「役者なんか物を言う小道具」と云う言葉を遺した清水宏の三監督が協力参加しています。

 

 

DVD化作品で、U-NEXT/ひかりTVビデオ内に於いて有料動画配信が行われています。

 

 

又、先述の通り東映chに於いて6/8(月)20:00~22:00・6/12(金)11:00~13:00・6/18(木)22:00~24:00に放映されます(字幕付きHD放映)。

 

 

 

 

 

 

※KINENOTEの作品案内は此方から

 

 

※東映chの作品案内・放映日時案内は此方から

 

 

 

普段は大人しく人柄がいいものの酒乱気の在る若様(島田照夫)を、仲間稼業の片岡千恵蔵と加東大介は何事も起きぬ様に終始目と気を利かせながら、そして無事を祈りながら東海道を江戸に向かっていました。そして同じ旅路を行く顔触れは、小間物商人であるらしい加賀邦男・目暗の按摩の小川虎之助・進藤英太郎率いる巡礼の一行・大金を持ち歩いている経緯が一切解らぬ月形龍之介・金銭の工面の為に女衒の吉田義夫の元に向かう横山運平と愛娘の田代百合子・旅芸人の喜多川千鶴と愛娘の植木千恵(千恵蔵御大の長女)・千恵蔵御大が持ち歩く槍に興味を持った浮浪児で侍を夢見る植木基晴(千恵蔵御大の長男。余談ですが千恵蔵御大の三男で現・日本航空会長の植木義晴も子役経験が在りますが、その際千恵蔵御大に叱られた事を理由に子役稼業を辞め現在に至ります)。しかも東海道には大盗人の触書が廻っており、この旅人達の中でも探り合いが披露される始末でしたが、千恵蔵御大は島田さんに加え、加東さんが酒好きであった為に気が気でならずそれ所ではない様子!

 

 

そして大井川沿いで始まった何処かの馬鹿殿様三人衆(杉狂児・渡辺篤・坊屋三郎)の野立の為に長逗留となった上に突然の豪雨で止む無く入った宿場町の一軒の宿に先述の顔触れが勢揃いし、一晩で「これでもか!」と云う程の人間模様が描かれて行きます。それは大捕物から親子の別れに人情話・果ては或る詮議に関する謝罪騒動から功績に関する疑問迄走馬燈の様に…しかし幸いにして全てが丸く収まり、やれやれと島田さんの一行が再び江戸へ向かおうとしていたその時、雪崩の様に突き進む悲劇への幕が落とされます。

 

 

 

 

 

 

珠玉の傑作!

 

 

十数年間映像作品に携わる事の出来なかった喜びと、その間に温めて来た構想を人生経験から得た財産と観客目線を交えて一挙に吐き出した感を受けます。「吐夢=任せられた仕事に全ての思いを「吐」き出し「夢」見た監督業復帰を叶えた喜びをも加味させた」とでも言えばいいか…しかもこれだけの人間模様を要点のみに絞り中間点の「馬鹿描写による一服の清涼剤」を含めて約95分の尺に収めてしまった手腕はさすが吐夢監督であり、同時に東映東京制作「飢餓海峡」が三時間を超える超大作であっても飽きさせず疲弊させず鑑賞出来たのだろうなぁと強く思わせてくれます。

 

 

そして「全ての物事に於いて救いと顕彰が在り、その全てが物腰柔らかく穏やかなだけの描写とは一線を画す問題提起を促す内容である事」も美点!島田さんの一行の中で最もその感覚を持ち合わせているのが千恵蔵御大であり、当の島田さんも千恵蔵御大の人間性に救われ、また宿を共にした旅人夫々の人間模様に接した事で行動を起こし(ここで「意外な事実」も判明します)矛盾を感じた事から壁にぶつかったものの己を貫こうとしたその時が当作品の転換点!しかも最後の十数分で顔を出すのですから衝撃と悲壮感は相当なものですし、だからこそ結末が光り輝いた東映時代劇作品群の中でも最上級と言ってもいい終盤の展開!

 

 

この「最後の十数分間で顔を出す急展開」吐夢監督に助監督として従事した鈴木則文監督が東映東京制作「トラック野郎・一番星北へ帰る」で同様の手法を披露しますが、これは持論である「後半1/3は絶対に失敗出来ないから大事にする。何故なら前半の2/3は少々失敗してもお客様は忘れてくれるが最後はそうではない。それが映画監督と云うもの」に、吐夢監督から学び得た手法を生かし絡めた演出だったのだろうなぁとも気付かされましたし、千恵蔵御大と基晴さんの遣り取り・経緯も「綺麗な物腰柔らかな言葉ばかりが優しさ・思いやりではない事」を存分に教えてくれ、この点も菅原文太・加瀬悦孝の描写に生かされたと感じます。

 

 

「もしかしたら「トラック野郎・一番星北へ帰る」は、ソクブン監督が「現代版・血槍富士」とする事を意識し完成させたのではないか?」とも考えてしまった程…

 

 

 

 

 

 

千恵蔵御大が最後に見せる大立ち回りも俺は出演作品の中では1.2番目に好き!この後に制作された「妖刀物語・花の吉原百人斬り」にも通ずる「世の中の矛盾に対する怒りを大立ち回りと云う描写を借り、観客に成り代わり全て斬り去った様な爽快感」がたまりません!