イラン戦争が2週間の期限付きではあるが停戦合意という展開になった。積極的に仲介役となったパキスタンは国際社会で大きな賞賛を受けることになった。パキスタンの立ち位置についてはあえて説明しないが、トランプ大統領にとっては「たすけ舟(ドロ舟)」に飛び乗ったというのは間違いないだろう。

 

今回の合意内容は2週間の停戦をすることと、停戦に向けてイラン側の提示した、10項目に基づく交渉をイスラマバードで開催するというものだ。

10項目については縷々あるのだろうが、一つだけイスラム教という宗教の視点から取り上げてみたい要求がある。それは賠償金の請求だ。一日当たり3億ドルの被害で50日間とした場合、日本円で約2兆余円の賠償金を請求するのではないかと考えている。アフガニスタンやイラクに投入してきた金額からすれば、アメリカとしては別に大した金額ではないが、支払うとなれば敗北を意味することになる。

イラン側としてはコーランにある赦免を理由としてくるのだろうと思う。金の支払いで解決することを被害者が同意すれば罪は赦免される。どう解釈しても被害者であるイラン側が提案しているのだから、どう解釈しても加害者のアメリカ側にとっては赦免という条項を無視することはできないことになる。1988年7月にイラン航空655便撃墜事件が起きた。乗客乗員290人が死亡した。原因はアメリカのイージス艦の発射したミサイルであった。この時アメリカは遺族に賠償金(平均約5万ドル)を支払っている。イラン航空655便というフライトは弔意を表して現在まで使われているが、事件が金銭解決したことはイランの文化からすると当然のことだと思われている。ひどい事件だったが憎しみを聞いたことがない。そう、これはイランの文化なのだ。アメリカ側としては、イラン戦争が将来にわたって禍根を残さないとなれば安いものではないかと思う。

そして世界中の誰もがトランプが負けた!と賞賛しているのだから、2週間の停戦合意から次のステップである戦争終結という道のりは差支えがないだろう。

周辺のイスラエルがやんちゃをしているが、それこそ体制転換を必要としているのはイスラエルではないか。各国はイスラエルに停戦合意を順守するように改めて申し入れることは大事な援護射撃である。

桜の花が散って短い春が過ぎてゆく。森ではシジュウカラとウグイスが賑やかに歌いだした。時の動きは状態を保持しない。人の営みも自然の流れも、これらすべてが諸行無常である。

仏教用語からひも解いてみた、ひらがなの習い事である「いろは歌」を漢字を交えて書いてみると、「色は匂へど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならむ 有為の奥山 今日越えて 浅き夢見し 酔ひもせず」の七五調で表現する。この歌を無理なく受け入れるセンスがあれば「悟りを開いた」人物といえるかも知れない。

 

イラン戦争へと話は続く。政治の手段として暴力を用いる者は暴力に倒れる。成長を伴わない金融経済は、独占欲によって破綻する。歴史が示してきたのは栄枯盛衰である。アメリカは巨大過ぎる軍事力を維持する限界に達している。次年度の軍事予算が240兆円になるという。トランプ大統領でなければ破壊的なアメリカの戦争経済を後押しする政治家はいない。

 

戦争経済という支配の手法がある。代表的なのはソ連共産主義、ナチスドイツ、中国共産党といった全体主義的な政治手法である。新自由主義と対立し誕生したトランプ政権も同じ轍を歩みだした。各体制を説明するまでもなく、全体主義の特徴は秘密警察や親衛隊といった政権に直結する武装組織を持ち、立法府を無力化し、権力に有利な司法権を持つことだ。

 

では、同じ独裁政権としては大先輩のイランとなぜ戦争になったのか?答えは単純でガチで戦争ができるからだ。他国の協力がなければ調整する必要もない。やりたい放題に破壊しても他国からは経済制裁も異論もでない。まさに軍事大国が独裁国家になったときの論理である。

 

イランが独裁国家を維持してきたのは宗教的結束の強さが背景にある。イスラム教シーア派12イマームは祭事の年間行事が非常に多い。全土が一体となる行事がアーシュラーだ。宗教国家イランの象徴というものだ。それを補佐するのが世俗化を拒むエリートが目指す神学校となる。イスラム体制がゆるぎないのは、全国から選抜され期待されるエリートを囲い込んでいるからだ。

 

内外を問わずこのエリートをトランプ大統領は、自身の無学というコンプレックスから逆恨みをしている。イランを破壊することに躊躇しなかったのは、誰かの入れ知恵というよりはコンプレックスの解消であろう。

よーく考えてみてほしい、独裁者とはコンプレックスの塊であるということを。そして殺害されたイランの最高指導者ハメネイ師も、名門コムの神学校出身者ではなかった。彼はホメイニ師の事務局として働いていた時に、ホメイニ師宛の小包爆弾で指を欠損しホメイニ師の同情から2代目大統領となり政治の世界に入った。本人にとってもハプニングであったことだろう。後継者が息子であるというのも政治家としての勢力を持っていなかった証である。

 

さて、間違って政治家に当選してしまう例はある。地方自治法も読んだことがないのに市長や地方議員になる程度ならまだしも、基本六法も所持していない連中が、立法府の国会議員になるというのは本人にとっても不幸である。おとなしく任期を務めたら退席するのが望ましい。民主主義を破壊さないための責務である。

ところが未来を描くプランが何も無いのに何かしようと夢をみる。身の程知らずである。日本は大統領制ではないので、三権分立を官僚が守るが、権力を独り占めにできる独裁国家だと真逆に働き出す。間違って当選したのであって能力を認めた訳ではない。おとなしく任期を務めればいいのに、コンプレックスがいずれ我が身を滅ぼす時がくるだろう。驕れる者は久しからずや。

戦争とはいえ、そんなことが起きるのか。トランプ大統領の脅迫では石器時代と言っているが、石器時代は生存の危機ではなかった。現代に於いて生活インフラを失った場合どのような社会が到来するのか。

 

生活インフラとは、電気・ガス・水道そして物流だ。食糧や飲料水がなければ生存の危機となる。都市の暮らしは自給自足という手段を持ち得ていない。地方都市や農村部でも流通に適した画一的な農産物に特化している。つまりは大規模な飢餓が発生することは間違いない。イラン人9500万人の飢餓とは史上類を見ない大虐殺(ジェノサイド)=戦争犯罪ということだ。

 

大陸性気候である4月のイランは気温が急上昇する。テヘランで日昼の気温は35度まで上がる。しかし湿度は20%以下なので日陰に入れば日本のような蒸し暑さを感じることはない。とは言っても冷房は必修である。各家の冷房は水の気化熱を利用した冷風になる。湿度が無いので室内にカビが生えることは無い。

テヘランの水道水は北部に位置する標高4000m級の雪解け水をダムに貯水して供給されている。このダムからのパイプラインが破壊されると周囲に川は無く地下水もない。完璧に干上がってしまう。そもそもテヘランは近代になり首都となってから都市化した街だ。

 

発電所はテヘランの西方にカズヴィーンという州都があり、その高速道路の中間地点にある。紡錘型の巨大な冷却塔が並ぶ。ここがメインとなる。もう一つは南部ペルシャ湾に面したブシェールの原発だ。そんなことから発電所そのものを破壊するというより、送電網を切断するだけで都市の電力は完全にストップする。他にも内陸型の発電所は主要都市に隣接して存在するので、送電網が狙われるのは十分にあり得る。仮に発電所を破壊するとしたら、エスファハンの核施設に隣接する発電所を狙う可能性はある。

 

ガスはそもそも産油国であることから、パイプラインによって都市部では天然ガスが供給されている。イスラム革命後になるが都市部ではガス給湯システムが100%普及した。すでにテヘラン南部の石油施設が破壊されているので、大多数のテヘラン市民はガスボンベ等でしのいでいる可能性は高い。

 

いまバザールに商品は並んでいるが、都市間を接続する高速道路網が破壊されると輸送力は壊滅的になるだろう。1500万人が生活するテヘランでの自給農産物はそもそも無いに等しい。隣接する南部のレイという小さな田舎でしか農作物は生産されていない。

 

トランプ大統領の地獄を見るという攻撃が行われた場合、主要な都市を脱出するにも交通網が破壊されてしまえば、大規模な飢餓が発生することになる。一方的に無計画な戦争を始めて「降伏しなければ地獄を見ろ」というのは、近代史最悪の政治家であることは間違いない。現在のイラン戦争は子々孫々に憎しみの連鎖がおきることになる。さらにインフラの破壊は千年の憎しみへと続く。