我が家の近くに盲目の整体師さんがいる。
その腕の良さから私は十数度、彼の施術を受けた事がある。
最初、その施術所を訪れた時の事は忘れらない。
私の体重や身長、好きな食べ物とか嫌いな食べ物。お酒やタバコの本数。仕事はどんな職種なのか。ストレスの具合はどんなものか。気になる体の部位はどこか。いつもどこが痛くなるのか。まるで事情聴取を受けているかのように事細かに問診をされたのだ。
それ以降、ほとんど会話する事は無い。かと言って挨拶をしないわけでは無い。「こんにちは。お久しぶりです。お元気でしたか。」そんな挨拶はするけれども、人間関係を作る為にするのか、ただ無言を嫌がられてする為の会話なのか。そんな、施術を受ける私にとっては苦痛だと思うような余計な会話が無い事が、それだけで、彼の施術を受ける為に、この施術所に通うに値する充分な価値なのです。が、もちろん腕も良いのです。他のマッサージ師の方も数人所属してある施術所なので、他の施術者の方々の会話も耳に入ってくるのですが、彼はそんな余計な会話を少なくとも私とはしない。
そんな彼だから、彼がいつから目が見えなくなったのかという話をしたことも無い。
だからこそ、とっても気になる事があるのです。
施術を受けにそこに行った時も、たまたま道端で白杖を使い歩いている彼に、私が挨拶をしようとする直前に彼を見ても、遠くから彼が歩く姿を見るときも、いつも、彼は満面の笑みを浮かべているのです。
おそらく60歳代中頃で、本当は定年しなくてはならないのだけれど、（この施術所に）引き留めてもらって置いているという話を聞いた事があります。その話をしてくれたのも、私から振った会話でした。
我が家の近くで散歩をしていると偶然彼を見かけることがあります。少し遠くから彼は今日も笑顔だろうか？とチェックするとやはりいつもの満面の笑顔で、私が「○○さん、こんにちは！」と声をかけると、「あ〜、こんにちは」と焦点は定まらない眼線だけれどもいつもの満面の笑顔で「こんにちは。そろそろ雨が降りますよ」と挨拶をしてくれる。鼻が効くのか、第六感なのか、天気予報をラジオで聞いていたのか、しばらくすると本当に雨が降ってくる。
どうしても気になるのは、なんであんなに笑顔なのか。よっぽど恵まれた環境で育ってこられたのか。それとも、もともとそんな顔なのか。それとも子供と同じような感じで笑顔なのか。
いつも少し上から眼線の話し方だけれど、そんなの関係ないくらいに彼に好感度を持ってしまうのは、彼が朴訥で余計な会話をしないからでもあるし、なんというか、彼が笑顔の、盲目の施術者だからだろう。いや、盲目は関係ないのだろうけれど、もし彼が目が見えていたとしても笑顔なのだろうか。いや、やっぱり笑顔の素晴らしさを見た記憶があるのだろうか。いろんな妄想をしてしまうけれども、彼の笑顔はやっぱりいつも満面の笑顔だ。いつも笑顔。そんな彼を見るだけで幸せを感じてしまう。
シックスセンス管理人
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