通信18-29 がんセンターだってパレードに参加する | 青藍山研鑽通信

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作曲家太田哲也の創作ノート

 

 

昼から原稿を書き始め、疲れ果てた目の奥がずきずきと痛み始めた遅い午後、日差しが斜めに差し込んでくる頃に部屋を出た。散歩だ。少し目を休めなきゃあならない。ふらふらと天神方面に向かって歩く。

 

 

あれ、何だか騒々しいぞ。おいおい、だから今日はどんたくの日だって、ちゃんと朝から気に留めていたじゃあないか。今日は天神方面には向かわない事、そう自分に確認したはずだぜ。うん、まあ、でもそうなってしまったからには仕方がない。騒がしい方に向かって歩いてゆく。

 

 

あれ、でも何だかいつもに比べて静かじゃあないかい?うん、そうさ、今日はどんたくの初日だ。いつも私が行きあわせるのは二日目さ。そうか、どんたくと言えど、初日は静かなもんなんだね。二日目はというと、「ハリスの旋風」の主人公、石田国松が百人もまとめて来るような姦しさだぜ。

 

 

少し安心しながら、地味なパレード隊を横目に歩き続ける。おっ、このパレード隊、「がんセンター」と書かれた横断幕を広げているじゃあないか。皆、にこやかな笑みを浮かべながら歩いているぞ。うん、元気そうで何よりだ。それにしてもパレードってのはがんに効くのかね。

 

 

いやいや、よく考えろ。がんセンターといったって、別に患者がパレードしている訳じゃあないだろう。お医者様だとか、看護婦さんだとか、事務員さんだとか、がんセンターのスタッフさんたちが歩き回っているに決まっているじゃあないか。がん患者を歩き回らせたりするとえらい事になるだろうさ。うん、そうか、相変わらずの自分の頓珍漢さにあきれるね。

 

 

「がんセンター」に続いては「福岡商工会議所」、うううん、これまたなかなか地味だねえ。でも「がんセンター」よりもちょいとやる気を感じるのは、皆手に手に青い棒を持って、それをぽんぽんと打ち合わせながら歩いているところだ。ぬめり輝くラメ風の青い棒に、祭りに対する気合を感じるじゃあないか。

 

 

いつもなら何となく目を合わさず、逃げるように通り過ぎるパレードだが、これぐらい静かだと、正面から眺める事ができるね、などと油断していたら、おお、凄いのが来たぞ。なんだこりゃあ。人間孔雀?孔雀人間?ともかく派手という言葉を体現したようなやつらがいきなり現れたんだ。思い切り体格の良いお姉さんたちが。いや、待て、よく見てみろ。先頭のお姉さん、どこかで見た事がないかい。ほら、テレビとかでさ。ああ、有名なオカマの人だ。中州の有名なオカマバーのパレード隊だ。ほら、幟に「あんみつ姫」って書いてあるぞ。

 

 

呉服街の交差点を東の方に抜けると、たちまち静かになる。恐ろしく人通りが少ない。皆、どんたくに出掛けているのかねえ。天気は上々だ。天気に浮かれて、久々に昔よく歩き回った街に入ってみた。うん、外国人居住区って感じの街さ。今ではすっかり綺麗になってしまった。その整備された団地の中を歩く。一時期は随分と賑やかだった商店街がすっかり寂れている。閉じられたシャッターばかりが目につくのは、別に連休のせいばかりじゃないだろう。

 

 

最近進出してきた全国チェーンの激安食料品店に圧され、すっかり縮んでしまった感じの市場に入る。ああ、ほとんど店がなくなっているじゃあないか。ここは食肉の街だ。ちょっと変わった肉料理を作る時に、よく食材を探しに来たその市場がすっかり寂れてしまっていた。

 

 

昔からあるキムチ屋、よくそこでチャンジャを買った、そのキムチ屋は健在で、何故か店先で場違いな観光客風の女性が、店主の熱心な説明に聞き入っている。「この味は、絶対に日本人には出せない味だから、一度試してみて・・・」。うん、確かにそうだね。この店のチャンジャは是非お薦めだよと心の中で呟く。

 

 

で、結局その後どうしたかというと、すぐそばの激安チェーン店で買い物をしたんだ。店を出て、そのまま自分の部屋に向かう。うん、仕事の続きをしなきゃあならない。「彩」の最終章を書かなけりゃともかく話しにならないんだ。

 

 

道を歩きながら、気がつくと、いつの間に「吹ぅけばぁ飛ぶよおなあぁ将ぉ棋ぃの駒ぁにいぃぃぃ・・・」などと口ずさんでいた。別に坂田三吉を気取っている訳じゃあないよ。店を出た瞬間、吹きてきた突風にあおられ、体がふらふらとよろめいたんだ。将棋の駒、それももちろん「歩」、そんな吹けば飛ぶよな自分の貧弱な自分を嗤っているんだ。

 

 

                                        

                          2018. 5. 3.