日曜日。友達が遊びに来た。
例のネコヤナギを教えてくれた、花や植物に詳しい友人だ。
ここ東泉寺なら彼にとって極楽だろう。
ところが、木更津駅の階段を降りてきたヤツは、ギターをかついでいる。今日は夏日になるという予報なのに、帽子もかぶっていない。
境内を一巡り、私の案内で花を愛でるのもそこそこに、ギターを抱え込んでひたすら練習を始めた。
ベロンビロンボロン
「これ、今朝楽譜をダウンロードしてきたんだ。聞いたことあるだろ?」
「いやー、初めて聞くような気がするな。なんて曲?」
「爆風スランプの大きな玉ねぎの下で」
「……似てもにつかないなぁ、おい」
ニヤリとした彼は、無心に練習を続けた。
私は彼を放っておいて、本堂前の椿の剪定の続き。
しばらくして一息入れにベランダへ回り、ベロンビロンにしばらく耳を傾けた後、「ほら、一息入れよう。冷蔵庫の飲み物、何でも飲んでいいそうだから持っておいで」
ヤツはご住職の秘蔵の(?)ビールを見つけてきてご満悦。飲みながらまた弾き始める。
そのうち暑くなって、本堂前の日陰の岩の上に移動。
植木梯子の上の私と昔話などをしながら、まだまだ弾き続ける。
ギターの音色は、一部は青空に吸い込まれ、一部は本堂の下で反響して太鼓のように心地良く響く。
お互い、好きなことを好きなだけやって、豊かな気分の日曜日。
ギターとビールを満喫したヤツは、ニコニコ顔で袖ヶ浦駅の階段に消えていった。
【追記】
それでも彼は、木や草花も楽しんでいったようだ。
寄越した礼のメールにいわく、「タチツボスミレの大群落は見事だったし、ギターも存分に練習させて貰って楽しかった」。
「タチツボスミレ:スミレ科スミレ属。薄紫の花で、ハート型の葉が特徴。ごく普通のスミレだが、ここの群生はすごいな。」だそうだ。
普段なら、日が暮れて手元が見えなくなるくらいまでチョキチョキ・ギコギコするのだが、半端な時間に彼を駅まで送って行ったので、そのままブラブラと、太陽の方角だけを頼りに車でうろついてみた。
小櫃川(おびつがわ:千葉県内では利根川の次に長い)の流域平野では、どこも田植えが始まっている。上総や安房は、利根川水系よりも温暖なのだろう。
私は、田んぼの水面に夕陽が映えるのが大好きだ。
以前に参加していた稲作で、草取りを終えて夕陽を眺め、田んぼの上を渡っていく風に火照った肌がなぶられる。その感覚にやみつきだったからだろう。