ことばの物語
≪おそれー恐・怖・惧・畏・兇・虞≫
恐れ入りる
恐縮する。あまりの見事つに参ってしまう。
恐れ入谷の鬼子母神(きしもじん)
「恐れ入る」を東京入谷の真源寺の鬼子母神に洒落
てかけたもの。
時代劇で全国区になりましたね。
恐ーおそれる・おそろしい・おそれ・キョウ
不気味でこわい。
基本的には「不安になる」ことでありました。「恐る恐
る」や、脅して不安がらせる「恐喝」などにその意味が
あります。
「おそらく」は「恐らく」と書き、「悪いことを予測する」こ
とであったのが、現在では「当たる確率が高い予測」
という意味で使われますのでひらがな表記になって
います。
日本では、感謝やお詫びの気持ちを強く感じること
をもいいます。
一方「怖=おそれ」は、不安を表す「こわい」だけに
用いられます。
字の成り立ちは<「呪具を手にもった形」に「心」
で、神を迎えるときのしぐさで、神をおそれ、かし
こまる思い。>
怖ーおそれ・こわい・フ
字義は、何かに追われた感じでおびえる、おじける。
純粋な「不安」を表し、他の感情を含まない。
惧ーおそれる・ク・グ
「懼」の略字で、「心」に「瞿=目+隹(とり)=鳥が目
をきょろきょろさせる」で、懼れるの意味。つまり、
不安になって落ち着かないこと。
絶滅危惧種などのように「危惧」以外にはほとんど
使われない。
畏ーおそれる・イ
甲骨文字では「鬼」に「卜」で、怪しいものが鞭を持
つさまから、おそれるの意味。恐怖と尊敬の入り混
じった気持ち。
兇-おそれる・キョウ
「凶=わるい」に「儿=ひと」で、悪人をおそれるの意
味。現代表記では「凶」に置き換えられる。
虞ーおそれ・グ
「虍=とらかんむり」に「呉=娯の原字で、口お大き
く開けて騒ぐ」で、虎の皮をかぶって舞い、神を楽し
ませ軍事について神意をはかること。神意をおそれ
ること。
日本国憲法の「善良の風俗を害する虞れ」と表記さ
れていると。
虞美人草で見かけるくらいですね。
ちなみに、虞美人草は「虞」という人の名前からで、
ひなげし(雛罌粟)の事であります。
【故事】名の由来は、項羽の愛妾虞美人からであり
ます。
項羽は劉邦に垓下に追い詰められます。
力は山を抜き気は世を覆う
時利あらずして騅逝かざるを如何せん
虞や虞や汝を如何せん (垓下の歌)
これに合わせて虞は舞を舞い、自害して果てます。
翌年の夏、彼女を葬った墓には赤い花が美しく咲い
ていたと。
2017.9掲載再考
今日一日幸運でありますように
誤字脱字ご容赦ください。
勉強の主な参考書
漢字源(学研) 漢語林(大修館書店) 成語林(Obunsha)
新明解語源辞典(三省堂) ことわざ辞典(Gakken)
字訓:白川静著(平凡社)
暮らしのなかの仏教語小辞典(ちくま学芸文庫)
新佛教辞典(誠信書房)
暮らしのことば 語源辞典(講談社)
講談社現代新書ー漢字の字源・漢字の知恵
漢字の用法ー角川小事典(武部良明著)
動物シンボル事典ー大修館書店/ジャン=ポール・クレベール
英米故事伝説辞典ー冨山書房
中国の故事と名言500選 (平凡社/駒田信二・常石茂編