境界例の女 5
近くでR子の香りがするようだし
部屋のことを書けば
あの部屋の匂いを思い出します
たぶん一生忘れられない女性です
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豪華で生活感のない部屋は
間接照明のみで薄暗く
センスのよいものばかりが置かれていました
『大阪で知り合ったSさんが買ってくれたの』
『マンションも家電製品も、全部ね』
R子は聞いてもいないのに
『一般人で、変な関係ではないよ』
とも言います
「ふーん・・・・」
こんなに美人だし
人を惹きつけるオーラがあるし
この人ならそういう人がいてもおかしくないか・・・
しかし、一般人というワードがひっかりました
振り返ると部屋の隅で
R子が着替えをしていました
ただ細いだけではなく
均整の取れた体つき
外国人をミニチュアにしたような
抜群のスタイルです
どきどき
ああ、もう着ちゃったのか!残念!
半袖・短パンか、パジャマかな?
っておい!入れ墨かよ!
えーーーーーーーーーーー!
しかも服を着ているように
びっしりと入っているではありませんか
やばいやばいやばいやばいやばい
こいつはまじでやばい
見なかったフリをして
ソファーに置いてあった
スケッチブックを手に取りました
R子が描いたであろう
そのハイレベルな絵に心底驚きました
「デザインの学校に行ってたの?」
『私のこと、知りたい?』
いつの間にか隣に座っていたR子は
伏し目がちに笑いながら
僕の首筋に爪を立て
股を割るようにスルリと
芸術品のような長い脚を差し入れてきました
その脚の付け根から脇へ向けて
スケッチブックの中で見た
ピンク色の龍が描かれていました
・・・・・・
数分後R子は
僕の上で腰を振っていました
それは行為というより作業のようでした
ほぼ全身にはいった入れ墨
一点を見つめる目
僕はやけに覚醒した意識の中で
「アンドロイドみたいだな」
と思っていました
二人の息が深いところで重なってきた時
アンドロイドが耳元で囁きました
「ピルヲノンデルカラダイジョウブ、ナカデダシテ」
境界例の女 4
とてもスリリングです
ドラマや映画の中のような出来事が
目の前で起きるんです
才能があり本能のままに生きている(ように見える)
R子に僕はどんどん魅かれていきました
トイレに立ったR子が
なかなか戻ってきません
ふと、カウンターのほうを見ると
さっき僕らをからかってきた男に
喧嘩を売っていました
座っている男の横に悠然と立ち
上から見下ろす形勢で
その筋らしき人と対峙するR子は
どこか余裕たっぷりで
R子が優位に立っているようにさえ見えました
「やれやれ」
止めに入ろうと近寄った時
あれ?
R子が笑ってます
今度は目も笑っていました
でも、その目がとてつもなく怖い
R子はチラッと僕のほうをを見ました
「すごい迫力・・・」
背筋に冷水を垂らされたような悪寒がして
かける言葉を見失いました
「・・・」
再び視線をカウンターに戻したR子が
フフフ、と言いながら口角を上げ
近くにあったボトルを手にとりました
「ちょ!それはダメだって!」
と叫ぶも虚しく
躊躇なくそれを男の頭に振り下ろしました
「!ゴンッ」という鈍い音とともに
男がスローモーションで
椅子から崩れ落ちました
頭を抱えて床にうずくまる男を横目に
僕はとにかく
この場をどうやって切り抜けようかと
考えあぐねていました
救急車の到着を待っている間も
R子は僕にキスをねだりましたが
さすがにそれは拒否しました
男が救急車に搬送されているとき
僕らはその場にはいませんでした
みんなの意識が男に集中している間に
全速力で逃げました
息を切らせて辿り着いたR子のマンションは
超高級分譲マンションでした
「一人暮らしって言ってたよね?」
『うん、ここだよぉ♪』
この自称歯科助手は何者だ?
これから厄介なことになるのは
想像に容易いのですが
僕は何の迷いもなかったし
今でも後悔はしていません
それどころか
もっと彼女を知りたいと思いました
すっかり酔いがさめた僕は
R子に手をひかれて
マンションへ入りました
もう下心はありませんでした
境界例の女 3
当時の事を思い出しながら書いていると
どうしようもなく会いたくなってしまう
「アタシが婆さんになったら、紫色のスパッツをはいて迎えに行くから、年寄りになっても飲みにいこうね♪」あの言葉が忘れられません
「ねえ、二人で飲みにいこうよ」
そう言われて僕は舞い上がりました
二人きりで遊んだことさえなかっのに
いきなり飲みに誘われたのです
もちろん二つ返事でOKしました
お店につくと、いつものように
客の視線はR子に集まり
僕はちょっとした優越感に浸りました
この時初めてR子とお酒を飲んだのですが
酔い方がちょっとまともじゃない感じで
目の焦点が合わず
泥酔や悪酔いとはまた違い
まるで悪い薬でもやっているような
友達の僕でさえ恐怖を感じるような
実に危うい酔い方でした
次第に周りの客に喧嘩を売り始め
止めにいった僕にディープキスをしてきました
これを数回繰り返したところで試合終了
店を追い出されました
この人、ちょっと危ないかも・・・
と思っていると
「私の家の近くに行ってみたい店があるんだ、いこうよ」
この「家の近く」というキーワードで
その後の展開を期待してしまい
頭の中で鳴っている
警告のサイレンをかき消してしまいました
「いこういこう!大至急いこう!」
タクシーから降りたR子は
いつの間にか裸足で
はいていたミュールを手に持ち
フラフラとお店に入っていきました
僕はあわてて後を追いました
「いらっしゃいませ」
R子はすでに窓際の席を陣取り
白くて小さな手でひらひらと
僕を手招きしていました
カウンター席にいたヤクザ風の男が
R子と僕を交互に見ながら
「いいなぁ、お前ら」
とからかってきましたが
R子には聞こえていない様子で
「この店、雰囲気いいねー」
と笑っていました
でも、目は笑っていませんでした