僕はもうだめだ

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雪のあわい


火葬場の扉をくぐると世界の音が一枚の薄い膜の向こうへ退いたように遠のいた。
さっきまで頬に触れていた冬の空気も、靴の下で鳴っていた雪の軋みも、ここではもう感じない。

代わりにあるのはゆるやかな静けさだった。

館内の空気はどこか澄んでいて時間が少しだけ深く静かに流れている。
人の気配はあるのに言葉はほとんど浮かばない。
誰もが自然と声を潜め足取りを柔らかくする。
まるでこの場所そのものが「静かにしていてほしい」と語りかけているようだった。


待合室の大きな窓の前に立つと外は雪だった。

空からゆっくりと降りてくる。
風もなく急ぐ様子もなくただ静かに、ひとつ、またひとつと。

雪は音を持たない。
それでも、降り積もっていくその様子にはどこか確かな時間の気配があった。

庭の木々は細い枝を空へ伸ばしたまま、雪を受け止めている。
その枝の上に白が少しずつ重なっていく。
遠くの建物も、道路も、世界の輪郭がゆっくりとやわらいでいく。

まるでこの場所のために降っている雪のようだった。


窓から差し込む光もどこか特別だった。

雪雲を通して届く光は鋭さを失い、淡く広がって室内を静かな明るさで満たしている。
それは、春の光のような温かさでもなく夏の日差しのような強さでもない。
ただ、悲しみに触れても壊れないようなやさしい光だった。

椅子に座る人たちはそれぞれの思いの中にいる。
膝の上で手を重ねる人。
目を閉じる人。
窓の外の雪を、じっと見つめ続ける人。


言葉がなくてもこの空間にはたくさんの記憶が漂っている。
笑っていた顔。
何気なく交わした声。
遠い日の風景。

それらが雪のように静かに心の奥へ降りてくる。

メインホールにはいくつもの扉が並んでいる。
その向こうで大切な人が最後の旅支度をしている。

この場所は不思議な境目のようだった。
まだこの世にありながらもう少しで手の届かない場所へとつながっている。
人は皆、その境目の前でほんの短い時間だけ立ち止まる。


窓の外では雪が降り続いていた。

白い粒は音もなく空から落ちてきて地面を覆い、景色を柔らかくしていく。
すべてのものの輪郭を静かにぼかしながら世界をひとつの静けさの中に沈めていく。

その光景を見ていると、ふと思う。

もしかすると、雪は見送りなのかもしれない。
声を上げる代わりに空がそっと降らせる、白い祈りのようなもの。

やがて名前を呼ぶ声が静かに響く。
人々は立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。

まだ雪は降っている。
変わらない速さで、変わらない静けさで。

それはこの世とあの世のあいだに降り続けるやさしい境界線のようだった。

 

 

真相をお話しします 1

 

20年以上前のお話

 

「こんにちは」

 

それは一通のショートメッセージ(SMS)から始まった

メモリ登録のない電話番号

 

2日放置したけど、なんとなく気になって返信してみた

 

「こんにちは。誰?」

 

『暇なので適当な番号に送信してみました。お話ししませんか?』

 

当時はまだインターネット黎明期

出会い系サイトなどもなく男女の出会いといえばあくまでリアルでの活動が主流だった

 

ガツガツするのもダサいなと思いあえて性別を聞かずに他愛のないやり取りを数日続けた

 

ある休日の朝

相手からの『結婚してるんですか?』で始まったメールでお互いの性別を公開した

相手は22歳の女性

僕は当時27歳だったかな

そこからは堰を切ったようにお互いの事を聞きまくった

 

「芸能人誰かに似てる?」

 

『吉川ひなの』

 

どストライクだった

 

僕が答えた似ている芸能人も相手のタイプだったらしく一気に盛り上がる

住んでいる場所が同区内だったこともあり午後にはもう会っていた

 

 

※長いので一旦切ります

 

 

 

 

 

真相をお話しします 2

 

待ち合わせ場所は相手の家近くにあるコンビニ

家を出る直前にふと怖くなった

 

文字だけのやり取りで見知らぬ異性と会うというギャンブル的行為

通話をしてしまうと興醒めしてしまうような空気があった

 

しかし据え膳食わぬはなんとやら

僕は腹を決めて待ち合わせ場所に向かった

 

約束の時間10分前にコンビニの前を一度通り過ぎた

店内で立ち読みしていた女性が僕の車をサッと目で追ってくる

遠目でもわかるほど目鼻立ちがバリっとしたハーフ顔の美人

 

あの人かな?そうだといいな

期待に胸を膨らませてコインパーキングに車をねじ込んだ

 

コンビニに着くと立ち読みしていた女性が外に立っていた

小柄だけど顔はたしかに吉川ひなのそのものだった

そっくりさんの番組に出られるレベルの仕上がり

ひなのは僕のほうを見てニコッと微笑む

 

『やっと会えたね』

 

「どうしてわかったの?」

 

『さっき、車から店内を見てたでしょ?笑』

 

「あーバレてたか笑」

 

30分後僕らはひなのの部屋のベッドにいた

 

会う前にそういう話をしていた訳ではなかったし、どのような経緯で部屋に行ったのかは記憶にない

ただ、透き通るような白い肌と鮮やかなパープルの下着で作られた神々しいコントラストは今でもはっきりと憶えている

 

 

※もう少し続きます

 

 

 

 

 

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