本編では高度成長期から阪神・淡路大震災までを神戸の「栄光期」、阪神・淡路大震災以降を「挫折期」と位置付けてお話ししております。神戸の復活のために何が必要かを論ずる前に、やや繰り返しになりますが、栄光期から挫折期に転じた理由を考察するところから話を起こしたく思います。


神戸「挫折」の歴史。

まず第一に神戸経済の地盤沈下が挙げられます。明治以降、港町として日本一の取扱高を誇った神戸港のまわりに集積した鉄鋼・造船などの、いわゆる「重厚長大」ビジネスが韓国・中国等の新興国に押され、衰退を見せます。代わってわが国の基幹産業として勃興したのが自動車産業で、わが国の産業都市の座は神戸から名古屋とその近郊へと移ることになります。神戸港と名古屋港の地位の逆転は、まさにわが国の基幹産業の変化と重なるのです。


名古屋市西区のトヨタ産業技術記念館は、

世界のトヨタ発祥の地に建つ企業博物館。


第二に、バブル崩壊によるインフレと「土地神話」の崩壊。神戸市の財政を支えた「山、海へ行く」事業は、工事費に充当する市債を土地売却で償還するモデルで成立していて、将来に亘ってのインフレと地価上昇が大前提でありました。バブル崩壊とその後の長期不況により、神戸の開発モデルは大きな曲がり角を迎えることになります。

第三に、平成7年(1995年)に発災した阪神・淡路大震災。通称「阪神大震災」であります。神戸市内、とりわけ都市部が大きく被災し、人口や企業、総領事館までもが流出することに。復興のための国の制度も不十分で、神戸市の財政は「財政再建団体」なみに悪化し、成長に向けての投資を滞らさざるを得ない状況にありました。付け加えますが、復興とほぼ同時に進められた神戸空港の建設は新都市整備事業会計という独立した会計によりおこなわれているため、これが「神戸空港に市税は投入していない」という理論の裏付けになっているわけであります。

第四に、地域内競争が顕在化したこと。東京圏の4都県(東京・神奈川・千葉・埼玉)や名古屋圏の3県(愛知・岐阜・三重)は中心となる東京・名古屋への一極化が強くみられている一方で、大阪都市圏の4府県(兵庫・京都・大阪・奈良)はそれぞれに強みを有しカニバリゼーションが起こりにくかったのですが、大阪、とりわけ神戸や京都と直結する大阪駅周辺開発が進んだことで大阪都市部の肥大化がはじまった影響は排除できないでしょう。前稿でも記しましたが、神戸市域の東部は大阪商圏に侵食されてしまっているのが実情であります。商業面積における分析においては「しかたない」とも言えなくもないですが、こっちからすれば、これを「しかたない」で済ましておくわけにはいくまい。

いまの神戸に投資価値はあるのか!?

つづいて、トラフィックから見た神戸の都市としての課題と、神戸への投資価値について論じます。

東京直通の本数では新大阪の半分もない新神戸駅。

神戸の玄関口としてさらなる増便に期待。


神戸はロケーション的に決して恵まれているとはいえず、首都圏からみたときには大阪を中心にした関西の「奥座敷」になってしまっている。現下においても東海道新幹線の「のぞみ」号は通常期のダイヤで5〜8本のうち、線内完結があるのでおおよそ3本だけしか新神戸駅には来ません。この流れは大阪で止められるリニア中央新幹線の開業以降、より鮮明となるでしょう(こればかりは「仮に開業すれば」というほうが正確か)。もちろん神戸空港の機能を強化して神戸が「玄関口」たる装いを整えることも視野には入りますが、関西財界としては神戸空港のポテンシャル拡大に警戒心が強く、なかなかうまくいかない。


令和7年春竣工予定の神戸空港国際線ターミナル。

先ずは国際チャーター便就航を目指し交渉が続く。

(出典:神戸市港湾局空港調整課)


在来線においても瀬戸内や陰陽連絡の拠点になっているとはとても言えません。県内における陰陽連絡のハブは専ら尼崎駅や姫路駅が担います。明石海峡に海底トンネルを建設し淡路島、そして大鳴門橋で徳島・四国へ…という構想もあるとは聞きますが、現実味はほぼない話です。高速道路においては関西随一のハブ化が完成し、物流機能の集積が進むのとは対照的な状況であります。


トラフィックに大きな変化が見込めないことを前提にすれば、「わざわざ行ってみたいまち」に変わらなければ、神戸は都市間競争に勝てるはすがありません。

都市開発系ブロガーやユーチューバーの記事や作品を拝読あるいは拝見すると、神戸の都市開発の遅滞をまちの衰退と直結させ、あたかも中心市街地に超高層ビルを林立させさえすれば活性化するのごとく主張されているものも多くあります。むろん、市街地の高度利用は都市成熟と重なる面はまったく否定しませんが、そもそも現下の不動産投資において東京・大阪、あるいは京都をも差し置いて神戸に資本を投ずる戦略は、周囲に「神戸びいき」と揶揄される私をもってしても、賢くないものであると考えます。

観光需要を契機に投資熱を帯びている大阪は、

神戸を含む周辺都市から活力を吸収している現状。




神戸にヒト・モノ・おカネをもたらすために重要なのは、以下の3点に尽きると、私は常に思っています。


❶きわめて精度の高いブランディング戦略
❷それを支える「情報のハブ化」
❸神戸経済を支える新産業の育成強化


その中で、本テーマの「大逆転」に繋がるブランディング戦略について、少し深く記したいと思います。

「神戸モード」の定義づけ。

多彩な魅力を備えていることこそが神戸の強みでありまして、衣食住遊を包含したファッションの発信を掲げた「ファッション都市宣言」はまさに神戸が神戸らしくシティブランディングをおこなった好例であると考えております。
しかしながら、同宣言を発表した50年前には「なにを」発信するのかについては明確でも、「誰に」という観点がなかった。…なかったというより、国民に大きな格差がなかった時代にはあまり必要とされていなかった、というのが実際のところでしょう。以前はそれでよくても、現在においてはターゲットなきブランディングなんてまずあり得ない。つまり、現在にも続く「ファッション都市宣言」そのものの焼き直しが必要です。

神戸市や国土交通省などが実施した神戸のブランドイメージによると、以下のキーワードが上位に入っています。


・異国情緒
・おしゃれ
・上品/高品位
・進取の気性/ハイカラ



われわれとしてもここのリサーチはもう少し精緻に取りたいと思っていますが、これらを仮説として置き、次のような概念と具体策を私案として提示をいたしたいと思います。


クラシック×モード+グレード感

◾️世界の加工・流通の7割を占める神戸の真珠をあしらった新進気鋭のデザイナーによる本物の逸品。
◾️港町として培った服の仕立て技術やシューズの製造技術を用いたラグジュアリークラスのプロダクト。
◾️世界的銘柄である神戸ビーフをクラシックモダンな空間で味わえる体験型(没入型)レストラン。
◾️日本一の酒どころである灘の日本酒の限定品×新たなペアリング提案。
など

まずは数十SKU、中期5000視野。


私は神戸を体現した「スペシャリティストア」を3000㎡ほどで展開するのが理想だと思っています。旧居留地25番館に座する〈バーニーズニューヨーク神戸店〉はフェイスソープを購入するためによく行っている馴染みの店ですが、これくらいの心地よい面積で「KOBEを体現する」空間が創出できればと……。
3フロアくらいあれば、ワンフロアは数字を取る取らないに執着されずに、神戸を体現するうえで絶対やりたいことがあるのです。(ここでは書きませんけど。笑)

先ずは効果検証を含めて、国内のみならず世界に向けて強い発信力を誇るロケーションでしっかりトライアルをやりたい。トライアルとて、鼻から数字を狙って行く。そのためにはこれまでの物産展のような出展者募集型ではなくて、KOBEの価値創造に見合った事業者の発掘、オファーからはじめていく。時間はかかりますが、早期実現とすれば数十程度のSKUなら既にメドは立つことでしょう。

次に都心におけるブランド浸透を図っていくこと。この時には比較購買も視野に数百程度なければ腰折れに終わってしまう。「(公財)神戸市産業振興財団」は名古屋(ジェイアール名古屋タカシマヤ)・仙台(藤崎)・高松(高松三越)など各地の百貨店で「神戸セレクション」に認定された商材を用いた催事を開き、都市ブランド向上に努めておられますが、これらの取組の向こうを張るのではなく、あくまで商材の発掘もしくは開発のアプローチの中でターゲットを明確にして進めていく必要があると考えます。数百のSKUを束ねるために「レディス」「メンズ」「ジュエリー・ラグジュアリー」「ベビー・キッズ」「ビューティー」「フード」「オフタイム」といったカテゴライズによって各々のカテゴリーの専門性を深めていくこともおそらくこの段階。

最新テクノロジーを駆使した体感と体験の空間創出には、ある程度の面積が必要です。ポップアップストアはその次の段階で、面積や展開方法よりますが1000近いSKUはおそらく必要。そこにKOBEに惹かれる仕掛けをテクノロジーとクリエイティブのチカラでやっていくこと。
ブランディングの柱を持ちつつ「中期5000SKU」を持つことは相当チャレンジングではありますが、これまでの神戸のクラフトマンシップや築き上げてきたブランドをもってすれば、決して諦める目標値とは思っていません。

ブランディングと効果測定は両輪。

ブランディングと効果測定は両輪でやっていきますが、どういう効果を狙っていくのか。

ひとつは交流人口・関係人口増に直結させること。トラフィックに大きな変化が見込めないことを前提にすれば、「わざわざ行ってみたいまち」に変わらなければ、神戸は都市間競争に勝てるはすがありません。商圏は世界、ベクトルはグレード感を維持したクラシックモード、これを「神戸ラグジュアリー」としてラインナップする。神戸の風土や気性、環境などを強く意識づけたラインナップにより、親しみや憧れ、ワクワク感を神戸のまちそのものに持ってもらう。やがてはこれが世界から交流人口を迎え入れることに繋がるはずです。

そして地域内競争で勝つこと。隠さずはっきり申し述べますが、つまりは「対大阪」戦略を鮮明にします。震災前の神戸商圏からみれば、とりわけ東部は大阪に食われてしまった状況の打破が必要です。芦屋・西宮・尼崎・伊丹・宝塚・川西・三田各市および猪名川町で構成される阪神7市1町(県における「阪神県民局」の管轄範囲)で人口は神戸市を凌ぐ170万人を数えており、商圏としても肥沃なフィールドであります。この中でアッパーミドル以上の層をしっかりと神戸にお迎えするというかたちはぜひ早期に構築したいものです。

交流人口・関係人口の呼び込みと、おもに阪神間の顧客層の取り込みの実測をめざしつつ、ブランディングを補完していく重要な取組として2点挙げたいと思います。

まずは情報の多角化をうまく利用した情報発信施策について。これは世界的潮流としてもまだこれからのところがあり、スタディーははじめていますが、さらなる研究を重ねたいところです。特定の場所に情報が集まり、そこから発信されるWEB2.0時代とは異なり、より自由な情報発信が可能なWEB3のスタディーを進めることと、新聞・テレビ・ラジオなど従前のマスメディアとそれとの掛け合わせで大きなムーブメントをつくっていく。むろん、そのためのコンテンツを創出することがブランディングの目的のひとつです。


京都府ではNFTを絡めた観光施策を模索中。

(2/3京都観光アカデミー)


次にCRMの拡充であります。実はここはわれわれがチームを組成し主体的に取り組みたいところと思っていますが、ファンコミュニティの拡大というかたちで実質的に神戸の「顧客」としていく。そのためには神戸として総花的かつ全方位のMDではまったくダメで、不特定多数ならぬ「特定多数」という思考で顧客コミュニティを実現していくこと。つくりあがったコミュニティで顧客層に見合った販売会やクローズド化したサロンなども視野に入ります。その「特定多数」を「集客」する最大のベースがブランディングにある、ということであります。

われらが臼井真先生の「もとの姿」論。



実はかなりの部分、私の頭の中では仕上がっていて、実際に動き出せば1〜2年で数字として顕われはじめ、5年以内にはプレゼンス的には神戸は必ず見違える姿に変わると思います。

「傷ついた神戸を もとの姿にもどそう」

震災の日にも取り上げましたが、臼井真先生が、まさに魂を込めて生み出されたこの一節、私はこう捉えます。

「かつての輝いていた神戸を、はるかに超えよう。」

復旧すれば、あるいは震災の傷跡が失われれば、それが神戸のめざす「もとの姿」と言うのは、大間違い。


このまちの持ちうる、多様な魅力を、世界に向けてふたたび力強く発信したい。

たとえ難敵が現れようが、石もて追われようが、やり遂げなければならないことが、わたしたちの「ふるさと」にあるのです。


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