夏の特別企画 素浪人の怖い噺② | 面白きコトも無き世を面白く…するのは自分の心意気
『猫とじーさん』

怖い、と言うか不思議な出来事によく遭遇したのは二十代前半だったように思う。
始まりは16歳の冬の日。それからしばらく何ともなかったのだが上京し、二十代に突入した辺りから怒濤の頻度となる(笑)

前回の話もその時の事で、始めの方こそ金縛りを怖がったりしていたのだが、日に3、4回金縛りにあったりしていくうちにどんどん慣れてしまい、しばらくすると金縛りが来るのが事前にわかり、またそれを回避したりする術を編み出すようになっていた。

と言うわけで金縛り事態にあまり恐怖を感じなくなっていた。
ただ、不思議な出来事が起こるのは大抵この金縛りにあっている時が圧倒的に多い。

ある時は換気扇の音が耳元でゴウゴウ鳴り響いたり、

ある時は天井から左手だけが生えていたり、


ある時は扉の隙間から目だけがジッとこちらをみつめていたり。

金縛りの時は変なことや、変なモノがよく見えた。
でもこれはいつもまどろんでいたり、寝起きだったりしている時なので『寝ぼけていたから』、『夢を見ていた』などの説明も出来るのでなんとも言えない。

そんな中、夜の路上で私は不思議な体験をする。

何かの舞台の役作りか、ただのトレーニングだったか忘れたが、私はバイトから帰宅後、夕食を済ませてから家の近くの車通りの少ない道路でランニングをしていた。
人はほとんどいない。
夜の10時頃だったと思う。
その日も街頭の灯りの下をいつも通り走り始めた。

しばらくすると友人から電話がかかってきた。
私は走るのをやめ、電話をしながらいつものランニングコースを歩き始めた。

たわいもない電話の話が弾んでいるとき、通り過ぎようとしていた街灯の電気が突然消えた。

えっ?

他の街灯は点いているのに自分の頭上の街頭だけ灯りがなぜか消えてしまったのだ。
電球切れか?と思いあまり気にせず私は引き続き話ながら歩いた。
すると次の街灯もその次の街灯も通り過ぎた直後に電気が消えてしまった。

振り返ると通りすぎてきた3ヶ所の街灯だけ消えたまま。
そう言う人感センサーでもあるのかと不思議に思ったくらいだ。

私は歩くのをやめ、近くの縁石に座り
「いや、なんか街灯の電気消えたんだよね」
「なにそれ、こえーな(笑)」
なんて話つつ電話を続けた。

と、少し離れた街灯の下、私と同じように縁石に座っている人影に気が付く。

街灯に照らし出されていたのは縁石に腰掛けたじーさんとその足元でじーさんを見つめている一匹の野良猫だった。


こんな遅くに。
と思ったものの、自分も同じ穴の狢であることに気がつき、この辺はよく野良猫にエサをあげに来る近所の人が結構いることを知っていたので特にそれ以上不審に思うこともなかった。

じーさんも猫も動かず、見つめあってる。
じーさんが餌でも出すのだろうかと私もぼんやりその様子を眺めていた。
しばらく眺めていたがほのぼのした空気が流れるだけで特に動きもない。
私は目線を外し電話を続けた。
そして再び目線を戻してギョッとした。

そこには猫しか居ないのだ。

ほんの数秒目を離した隙にじーさんは煙のように消えていた。
猫はさっきと同じポーズで何もない縁石をしばらく見つめたあとスッとどこかへ行ってしまった。

電話を何となく理由をつけて終わらせた私は大人しく部屋に戻った。

金縛りにもあわず、寝ぼけてもいない状態での不思議な体験だった。

ただ、怖いとかよりも、やっぱり猫とかにはなんか見えてたりするのなぁと妙に納得してしまう出来事だった。

貴方のご自宅の猫や犬が何もない場所に吠えたり、反応していたりしていたらもしかしたら・・・。