夏の特別企画 素浪人の怖い噺③ | 面白きコトも無き世を面白く…するのは自分の心意気
『該当一件』

舞台で様々な役に挑む時、結構不思議な体験をすることがある。
以前舞台で、幕末に新政府軍と上野で戦った旧幕府軍側の一『彰義隊(しょうぎたい)』と呼ばれる隊の(架空の)人物を演らせていただいた事がある。

『彰義隊』は上野の戦で完敗し、散り散りに敗走する。
私はその役を演るにあたり、色々と調べモノをして稽古に入ろうとしていた。

そんな日々が始まっていたある日、気分転換に何気なく立ち寄った郷土資料館の中庭に大きな樹があるのに気が付いた。大きな樹とかが大好きな私はフラフラと近付き、大きく太い根に腰を下ろしてみた。

帰り際、その樹の横に看板があることに気が付き読んでみて驚いた。

【上野の戦で敗走した『彰義隊』の敗残兵が腰を下ろして休んだ場所】

看板にはそう書かれていた。
ちなみに普段はその樹への道は扉が閉められて入れないようになっていたらしい。

偶然なのだろうが、ただの偶然とも思えないような一件だった。

私はこの頃には役やその当時の人や文化を可能な限り調べ、先人に失礼のない勉強をしてから芝居に挑もうと言う気持ちが強かった。
目に見えないモノも大切にしなくてはと。
芝居の上手い下手はおいといて、だ(笑)

そのきっかけとなるのが今回のお話だ。

時期はやはり二十代前半の頃。

月に2、3回飯を食べに行く相棒がいた。(現在はモンハンオンラインで遊ぶ相棒)
男二人で何が楽しいのかよく呑んだり、食ったり、ゲームしたりしていた。
その時は芝居の本番中などでバタバタだった。
舞台が無事終わり、生活も落ち着いた頃、二人で久々に打ち上げも兼ねて飯を食いに行くことになった。

いつも通り二人で飯を食いながら盛り上がる中、相棒から

「よっしゃ!じゃあ、舞台を頑張ったお前にアダルトビデオを買ってやる!!」

と言う申し出があった。
※本来はもっと違った言い方だったように思いますがブログに書けなくなるので御了承下さい(笑)

「おう!じゃあ俺もお前にプレゼントしてやろーじゃねぇか!!」


と言うわけで金もなく、彼女もなく、元気だけある男二人は早々に飯屋を出ると自転車にまたがり、中古の『大人のビデオ』が売っている店を探すことにした。
時間は夜の20時くらいだったと思う。

この当時、当然まだスマホはなくガラケー。
ただ、この時初めてGPSと言うものを活用したように思う。
現在地から一番近いビデオ屋を検索した。
すると、

該当一件

該当件数が少ないような気もしたが、『大人のビデオ』を買うことで夢が膨らんでるクソガキ二人はとりあえずその一件のビデオ屋にナビの指示に従い向かうことにした。

自転車に飛び乗り、ナビ通りに進む男二人。
どこをどう通ったのか今でも思い出せない。
しばらく行くと明らかに町の喧騒から離れた静かな場所にズンズン進んでいく。
しかしナビの印はこの先なのだ。
きっと『大人のビデオ』だから、少し静かな場所にひっそりとあるのだ。そう思って自転車を走らせた。

そして印の着いてる場所に着いた。

そこは、神社だった。

「いやー、ここじゃないだろう、流石に」
「だよな。」
男二人は笑いながら再び目的地である『大人のビデオ』屋を探すため再検索したナビに従い印に向かって移動を開始する。

そして、印付近に到着する。
それは先程と同じ神社である。
周囲を何度も往き来したが、店らしいもの何もない。
むしろ神社以外付近には何もない場所だと言うことに気が付き、二人から笑いは消えていた。

明らかにここじゃないのは近づくにつれて完全に分かっていた。
しかし、ケータイに表示されているのは

該当一件

神社を検索するのとは程遠いワードを打ち込んで再検索もしているのに、何度やっても

該当一件

さすがにビビり過ぎて声まで失う二人。
しばらくウロウロしていたせいか、神社の入り口に再び何度目かの到着をした頃には時計は22時を回っていた気がする。
夜の神社は静まり返り、何故だか月明かりでぼんやり浮かび上がっているように見えた。

私は腹を決め、その神社でお参りをした。

だってもうここに来いと言われていると思うしかないじゃないですか(^_^;)

しっかし、夜の神社はめっちゃ怖かったなぁ。

当然『大人のビデオ』購入は断念(笑)
いまでもあの時のあれはなんだったんだろうなー、どこの神社だったんだろーなぁと言う話になる。

それ以来、私は何を願ったり、祈ったりする訳ではないが神社に頻繁に足を運ぶようになる。

目に見えない何かがこの世にはある。
そう何となく体で感じたからかもしれない。
ただ、あれ以来夜祭りでもなければ夜の神社には絶対に行かないようにしている(笑)