夏の特別企画 素浪人の怖い噺① | 面白きコトも無き世を面白く…するのは自分の心意気
『掴みたかったモノ』

今から十年以上前、私がまだ戦国時代に全く興味がない頃、とある有名な『お城』に観光にいった時の話。

城を見ても今ほどの感動もなかった私は、それほど印象に残らないその観光を終え、家路についた。
今ではどの城観光をするときでも思い出す事になるほど印象に残る出来事になるとはその時は思いもしなかった・・・。


帰宅後、私は観光の疲れからか高熱を出して寝込んでしまった。
今思えば、その熱のせいもあるからあんなモノが見えたのかもしれない。

私は当時、ワンルームの部屋で、足が玄関の方向を向く形で眠っていた。
熱が出た当時も当然そんな格好で寝ていた。


深夜何時くらいだろう。私は金縛りにあい目が覚めた。
正直なところ、この当時何故か頻繁に金縛りにあい怖いとかそう言う気持ちはほとんどなかった。ただ、明日のバイトに差し支えなければいいなぁくらいに思っていた。
と、玄関に気配を感じる。
毎回思う。この『気配』ってなんなんでしょうね?
何もないのに何か感じちゃうアレ・・・。

案の定、玄関には人影がたたずんでいた。
こう言うのは目視でなくても、感覚でそうと分かるものがある。

女性だと。
イメージとしてはテレビでよく見るタイプの『リング』の貞子のような雰囲気だったように思う。

よく見ると

こちらに向かって手招きしているようだ。
私は熱のダルさから、そして実はそんなに珍しくないこの状況に面倒臭さを感じ、無視して寝てしまった。
幽霊云々は置いておいて、私は時々こう言う出来事を体験していた。その話はまた違う機会にでも。

さて、熱は翌日には下がった。
しかし、その日の夜も、深夜に金縛りにあう。

昨日と同じで玄関の前に女性がいる。
何故か玄関から中には入ってこようとしない。
ただ、この日も

手招きしている。昨日より少し大きく手招きしている気がする。
だが、私は翌日もバイト、付き合ってる暇はないので金縛りがとけたと同時に無視してさっさと寝てしまった。

そして3日目。
やはり、深夜に金縛りにあう。

玄関に人影。
正直またか、と思う。
しかし、この日はいつもよりしっかり見たからかある違いに気が付いた。


手招きが


大きくなってる。
それはもう手招きとは言えないくらいの激しさだった。
さすがに私も気味が悪くなりその様子をもっとしっかり見てみた。

何故か玄関から中には入ってこないのだが、上半身を大きく前にかしげ、手をぶんぶん振っている。

何をしてるんだ?

と、私はあることに気が付いて寒気を感じた。

それは
さっきからしているのは
手招きではなく、

玄関から少し先にあるトイレに入る部屋の
ドアノブを掴もうとしているのだと。

手を伸ばし、大きく振り回し、髪を振り乱して必死にドアノブを掴もうとしているのだと。


なんでドアノブなんか・・・。

そしてふと考えた。
玄関から部屋に入ってこないんじゃなくて何らかの理由で玄関から部屋に入ってこれないんじゃないのだろうか?と。
つまり、

ドアノブを掴んで部屋の中にはいってくるつもりだ!!
私は直感的にそう思い

布団から飛び起き
「なにやってんだ!!」
と言うようなニュアンスの言葉を怒気をこめて叫んだような気がする。
ドアノブを掴ませてはいけない。理由は分からないがそんな気がして焦って叫んでいた。

その日以来金縛りもなくなり、深夜の手招きもなくなったのだが、三日目の夜の事はさすがに今思い出しても気味が悪い。

皆さんももし手招きする何かが現れたら、本当は手招きではなく、他に
『掴みたかったモノ』
があるかもしれないことに気づいてくださいね。