食料安全保障を台無しにする「減反政策」の継続 | 子や孫世代の幸せを願って

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食料安全保障を台無しにする「減反政策」の継続

 

食料安全保障の強化を謳う「食料・農業・農村基本法」の改正についてもう一点特に気になるのが、「減反政策」の継続です。

 

減反政策とは、米価を高く維持する為に国が主導してきたコメの生産量を減らす(生産調整)政策です。田の面積の単位である「反」を減らすことから「減反」と言われています。

 

その減反政策を、2018年、貿易自由化の国策を進めるにおいて、これからは海外との競争に打ち克つ強いコメ農家を育成することこそ重要との理由で取りやめるということでしたが、実際には多少内容を変えながらも今日においても継続されています。

 

食料安全保障は、当たり前ですが食料の量的確保、特にカロリー摂取に役立つ穀物類(コメ、麦、トウモロコシ+大豆)の確保が必須です。であるなら日本人にとってコメという最も重要な穀物を減らすなどあり得ないことです。

 

にもかかわらず減反政策は、コメ農家に補助金(財政負担)を出してコメ作りを止めさせ、供給を絞ることで高くなったコメを消費者に買わせる(消費者負担)、重ね重ねの国民負担のもとに食料安全保障の肝であるコメを減らすとんでもない政策です。

 

確かにコメ農家には、高い米価が維持され、それが農業継続のインセンティブとなって農業保護が成立します(価格支持政策)。しかしデフレ経済が続き実質賃金が減り続け、一方で貿易自由化による競争政策を推進する日本では、それも束の間で、高い米価がコメの需要を減らし、農家の所得が目減りしてしまう。そこでまた減反を強化する、するとますますコメ需要が減る…悪循環を繰り返すことになったのです。

 

コメ離れは、「食生活の多様化」や「調理の手間の問題」などの理由が挙げられたりしますが、それらの理由もやはり所得減で妻やら年寄りやらも仕事に駆り出され、皆おカネが無い上に時間までも無くなった結果の現象であり、コメが高いから手が出ず、手間をかけている時間も無いので他の手軽で安い食材や食品へ逃げ、コメの需要が減少したということではないでしょうか。

 

いずれにしてもそうした結果、1970年には1,253万トンあった米の生産量は、2020年には776万トンと約50年で4割以上減少してしまいました。

 

が、今回の改正では減反には全く触れられず、むしろ改正案には「食料の合理的な価格形成について(略)持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるようにしなければならない」と規定(新設)し、要するに農業生産者が生産を持続するために必要なコストの「価格転嫁」を、消費者は受け入れるべしと謳われているのです。

つまり減反政策を含め、価格支持(消費者負担)による農業保護を進めていくということです。

 

食料安全保障上、飢餓防止の必須食料を国内で安定的に確保していくために、経済合理性を一旦横に置き、生産コストの価格転嫁に配慮を求めることはわかります。

安いからといって海外産ばかりを求め、緊急時には国民の命を繋ぐ拠り所となるはずの国内農業を潰して良いわけがありません。

しかしだからといって減反政策のような必須食料を減じる政策までも同列に扱い、これを継続することは全く理解ができません。

 

本来、財政を使うのであれば、これまで失敗を繰り返してきた「価格支持政策」にではなく、補助金により直接農家の所得を補償(所得補償政策:直接支払い)することに転換し、コメを増産し、それにより安全保障を担保し、下がる米価をして消費者の利益につなげ、さらには輸出拡大につなげていく、そうこなくては意味が無いでしょう。

 

輸出ができるほどの価格低下を伴う増産は、国内に生産能力を保持することを意味し、担い手の確保や農地の維持、農業技術の伝承を確実にし、そしてなによりその輸出量がいざという時の備えとなります。危機時に輸出分を国内に振りむけることで国内の飢えをしのぐのです。つまり輸出は事実上の備蓄ということになるのです。

 

しかしこれを妨げるのはまたしても財務省です。食料安全保障の強化が声高に叫ばれているにも関わらず財政健全化の名のもとに予算の拡大はさせません。令和6年度の当初予算も横ばいです(わずか3億円の増加を4年ぶりの増加、基本法改正を意識したと報道されました)。「基本法」に価格政策を織り込ませたのも、財政を出させないためでしょう。基本法改正の検討途上で「減反政策廃止論」が一部検討委員から出されたようですが、結局無視されました。

 

もちろん農家の所得補償政策にはそれなりの予算が必要ですが、減反政策を止めればその費用は差し引くことができるなど、増加一辺倒ではありません。そもそもこのブログでも申し上げてきたように日本には財政問題はありません。インフレ率を見る必要はあっても、それに引っかからない限り、必要な予算は出せるのです。

 

目先の省益や政治家の無理解により、掛け声だけの中身の無い食料安全保障が進められようとしています。なんとかこの流れを変えられないものでしょうか。