食料自給力の欺瞞 | 子や孫世代の幸せを願って

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食料自給力の欺瞞

 

 

食料自給率のほかに近年指標化された「食料自給力」というものがあります。

これは、日本の農地、農業労働力、農業技術をフル活用して得られる食料の供給可能熱量のことです。日本人の飢えを満たす上で日本の農業の底力はどれくらいあるのかを示そうとしたものです。

 

令和4年度の食料自給力指標 農水省HPより 

 


輸入が幅を利かせている現在の食生活が一番上のグラフになり、輸入に頼らず国内生産のみとし、しかも米と小麦を中心に作付けした場合の供給可能熱量が真ん中のグラフ。これでは現状の供給熱量も必要とされている熱量も満たせません。しかし、芋類を中心にすれば必要カロリーも現状の水準も満たすとしたのが、一番下のグラフです。

 

じゃぁ、輸入が一切入ってこなくなった場合でも、しばらく芋で我慢すればなんとかなりそうだ。そんな風に思わせる絵となっていますが、果たしてどうでしょう。

 

これには「⽣産転換に要する期間は考慮されていないほか、肥料、農薬、化石燃料、種子、農業用水、農業機械等の生産要素については、十分な量が確保されている」という但し書きがついています。つまり「食料だけが輸入できない危機」が起き、一方「生産転換は即座にできる」というかなり非現実的な指標となっているのです。

 

結局これは、日本の食料安全保障は大丈夫かという声をはぐらかすために作った指標なのではないでしょうか。国民の危機感を煽る為に食料自給率を目標化したまでは良かったが、ずっと達成できず、むしろ下がる一方となり、逆に役人が追い詰められ始め、なんとか取り繕うための責任回避用に開発した…というところでしょうか。

 

話が脱線しますが、このグラフには「推定エネルギー必要量」というのが示されています。

前々回、「食料自給率」の分母には「生存に必要な熱量」を採用すべきとしましたが、ここにそれが示されているのです。2,168kcal。これを使えばいいということになるのですが、別途紹介した日本人の摂取熱量1903 kcalと比べると大きく乖離した数字となっていることや、むしろ現在分母に使われている供給熱量2,260kcalに近似していることから、これは辻褄合わせに「盛った数字」なのかもしれません。

 

海外から食料を全く調達できなくなる上に、原油等化石燃料、肥料、農薬、種子、農業用水、農業機械等といった現在の農業に不可欠の生産要素が途絶することが最悪の状況です。

昨今懸念されている「台湾有事」、それに伴う日本の泣き所、「シーレーン封鎖」が生じれば、この最悪の状況と近似することになるはずです。それに備え、必須食物の必要量の割り出し、生産シフトと備蓄、緊急生産準備、既存シーレーン外での調達拡大、エネルギー備蓄の増量、円滑な集配対策、こうした取り組みに係る国民負担等々シミュレーションを行い、現実的な対策を策定し、国民理解を得るための公表などが必要でしょう。

 

現在中国国内では、政治、経済に対する国民の不満が高まっているやに聞きます。その不満の矛先をいつ外に振り向けてくるかわかりません。それゆえの基本法の改正でもあるのでしょうから、これまでのようなお為ごかしではなく、実効性のある備えを早急に図っていただきたいものです。