省益の為の食料自給率⁉ | 子や孫世代の幸せを願って

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省益の為の食料自給率⁉

 

前回、日本の食料自給率が、食料安全保障の指標として機能するには、その計算式の分母に「生存に必要な熱量」を採用すべきとしました。

 

それに関して、現状を維持する上での必要熱量という意味で、実際の摂取熱量を当てはめるという考えもあるでしょう。厚生労働省の令和元年版「国民健康・栄養調査」によれば、日本人の1日あたり摂取熱量は1903 kcalとされており、これなどを使うということです。

 

これを食料自給率の計算式に当てはめると令和4年度では850 kcal/1903 kcal=44.6%となり、公表されている自給率38%を6ポイント以上上回り、また食料・農村・農業基本計画で設定されている令和12年度目標の45%をほぼ達成してしまいます。

 

ちなみに、厚労省「日本人の食事摂取基準」(2020年版)、総務省統計局「人口推計」(調査年2021年)を使い、活動量が低いケースでの必要カロリーを計算してみたところ1850 kcalとなりました。この数字が正しいならば、これを自給率計算に採用すると45.9%となり、目標達成ということです。

 

また、この数字からすれば、現在の日本人の摂取カロリー水準は結構生きていく上でぎりぎりのところにあるようです。高齢化は計算に織り込まれていますので、水準そのものが過去に比べ低いところにあるには違いないのですが、両者の差があまりないのは、ダイエットや健康志向、あるいは貧困化の影響かもしれません。

 

それはともかく「生存に必要な熱量」の定義をどうするか、何を採用するかはいろいろあろうかと思いますが、遣りようはいくらでもあるのです。

 

また現在の食料自給率には、農家や家庭菜園の自家消費分畑での廃棄分などが入っておらずこれらも相当な規模となっているはずで、少なからず国産供給量に影響を与える存在です。食料自給率が飢えのリスク指標であるのであれば自給率計算の対象とすべきであり、またそこに関心が及んでいないのは不思議です。

 

農水省は「輸入されたエサ(飼料)」で育てられた牛や豚の肉や鶏卵等は、国産ではないとして、自給率の対象外としていましたが、畜産農家の努力無視との批判が高まり、これを算入することにしました(令和2年3月食料・農村・農業計画)。すると供給熱量ベースの自給率は9ポイントアップし、47%(令和4年度)となります。ただし、これについては、総合食料自給率とは別建てで「食料国産率」として公表しています。あくまで参考扱いです。

 

総じてみると農水省は、批判を受けない限り食料自給率を低く見せようとしているようにも見えますが、どうでしょうか。

 

さて、農水省によれば、食料自給率の計算は、国連食糧農業機関(FAO)が示す計算方法に準拠しているとのことですが、その食料自給率を計算、公表している国は日本以外ではイギリス、スイス、ノルウェー、ドイツ、韓国、台湾に限られ、カロリーベースに至っては日本、スイス、ノルウェー、韓国、台湾に限られているのです。

 

農水省のHPにはアメリカやカナダ、オーストラリア、フランス、イタリアの自給率も紹介されていますが、これらは日本の農水省の勝手試算によるものです。

つまり、食料自給率は世界ではそれほど気にはされてはおらず、イギリスなどは、自給率を国策や目標化することには反対の姿勢です。

 

それは、自給率は、経済力、貧困、エネルギー、資材、天候、自然災害ほかの外部に大きく依存し、自己完結できない指標だからということ。そして、食料輸出国が輸入国の食を支配しているのではなく、むしろ輸入国からの収入に依存している現実を捉え、食料安全保障を考えているからです。

 

そうしたなか、日本の農水省が、安全保障の指標として使えない上に、低く見せようと謀り、さらには世界の関心が低い食糧自給率にこだわるのは、とにかく食料危機を煽り予算を多く獲得するため、つまり省益のためとの疑念を持たれています。現状を見る限りそれも仕方がないかもしれません。

いずれにしても、日本として食料安全保障の指標として自給率を重視するのであれば、使える指標に変えてほしいものです。

 

 

次回に続きます。