Bryan Ferry - 一瞬と永遠 | 100nights+ & music

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2020年の1年間に好きな音楽を100回紹介していました。
追記)2023年になっても見てくれる人がいて驚きました、感謝を込めて?気が向いた時にときどきまた書こうかと思います、よろしく!

 

オールディーズにならないポップアート

 

 ブライアン・フェリーは、ロキシー・ミュージックでデビューしたときから特別な存在だった。

 それは、単にとてもセンスが良いとか、ノン・ミュージシャンの感覚を持った優秀なプロデューサーであるなどの評価とは違う、独得の何かを持っているからだと思う。曲や音響、美学や違和感、感情や感覚などを自分自身のセンスでミックスさせた「空間」をつくったり、「一瞬」と「永遠」を求め続けているところが独得なのかもしれない。

 

 ロキシー・ミュージック時代にブライアン・フェリーが書いた曲で一番好きな曲は、3枚目に入っている前半と後半でまったく印象の違う、自滅的なパーティとその後みたいな「マザー・オブ・パール」。

 アルバムでは掛け合いになっている歌詞の前半部はこんな感じ。

 

灯りを落とす

悪い仲間はみんなここにいる

ここはいかれた場所

写真を撮るかい?

やめてくれ(いいよ)

 

綱渡りをしている

何て希望があるんだろう

君の連絡先は?

クスリでもやろうか

未来はあるかい?

ないだろうな(あるさ)

 

Mother of Pearl

 

 ブライアン・フェリーのもっとも優れたソロアルバムは、ロキシーの最後のアルバム『Avalon』をさらに洗練させた『Boys And Girls』だという評価だろう。

 自分ですべての曲を書き、その曲に合わせた最高のミュージシャンを集め、何百回ものミキシングを重ねてできた『Boys And Girls』はもちろん傑作なのだが、最も好きなアルバムは2002年に出たシンプルなバンドサウンドの『Frantic』だった。

 

 『Frantic』の発売当初は、いつもの作りこんだ感じのしないサウンドに不満を持った人もいたようだが、シンプルな中にセンスとグルーブがあって、緻密なのに重苦しさがない。聞いた途端にすぐ気にいった。

 このアルバムは半分がカバー曲になっていて、その中でも特にボブ・ディランの2曲が素晴らしい。ハーモニカを吹く、この映像のようなシンプルなブライアンの良さは、知らない人も多いかもしれない。

 

俺は心を捧げたが、彼女は魂を欲しがった

もう考えるな、これでいいのさ

 

Don't Think Twice, It's All Right

 

 アルバム『Olympia』には、ティム・バックリーの「ソング・トゥ・ザ・サイレン」が入っている。この曲は、4ADレーベルのユニットThis Mortal Coilのアルバムで知って気に入っていた。

 ブライアンは、美しい歌声で船を引き寄せ沈めてしまうセイレーンを歌ったこの曲を、タイタニック号の沈没から100年後に行われた「タイタニック・サウンズ」というフリー・フェスティバルで歌っている。

 

 タイタニック号が造船されたベルファストで行われたそのコンサートでのブライアンは、もう若くはなく、声は出ていないしコンディションも良いとは言えないのだが、どこか狂ったような情熱と虚無的な感じの両方を漂わせていて、This Mortal Coilのヴァージョンよりも好きになった。

 

Song To The Siren

 

 ブライアンは、『Boys And Girls』と『Frantic』あいだの17年に4枚しかリリースをしていないが、その間に実は完成させることのできなかった『Horoscope』という作品がある。

 噂(もしくはブートレッグ)で聞く幻のアルバムだったが、2023年にリイシューで出た『Mamouna』のオマケにその『Horoscope』が入っていた。(このアルバムの最後の曲は、前半の刹那的なパーティ部分をカットした「マザー・オブ・パール」だった)

 

 その中の「Loop De Li」という曲が、2014年に出た今のところの最新アルバム『Avonmore』に入っている。彼のベストの曲とは言えないかもしれないが、ライブでのこの曲は緻密なアレンジにライブの良さも加わっていてとてもいい。

 

Loop De Li

 

  ブライアンは若い頃の遺産で食べているミュージシャンではない。『Boys And Girls』以降のソロアルバムには、どこかに必ず新しい要素があるし、近年のオリジナル曲中心の『Olympia』と『Avonmore』はとてもいい。

 

 70代後半になったブライアンは、2022年にロキシー・ミュージックの50周年を記念したツアーをしている。もうあまり時間は残っていないかもしれないが、もし可能ならもう一度新譜を聞いてみたいと思う。

 

あなたの瞳に映るもの、あなたの頬をなでるもの

人生のその瞬間を、私は求めた

理由も韻もなく、心の存在もなく
ただ、時の音楽に合わせて踊る

 

Reason or Rhyme

 

 

追記)以前にここで「ジョニー・アンド・マリー」を紹介した。この曲が、今のぼくにとって彼のフェイバリットかもしれない。