ソリッドで乾いた心と音楽
トム・ペティ&ハートブレイカーズは、ブルースやカントリーやフォークに根ざしたスタンダードなロックンロールを演奏していて、ハッタリをかますタイプではないからか、日本ではかなり地味な存在として扱われていた。
ぼくは乾いた感じのロックバンドとしては最高だと思っている。
トム・ペティ&ハートブレイカーズは1976年にアルバムデビューした。
「ハートブレイカーズ」なんて世界中の若者がバンドの名前に付けそうだが、ジョニー・サンダースもほぼ同時期に「ハートブレイカーズ」を結成している。
本当かどうか分からないけどジョニーは「このガイコツ野郎が」とディスるだけで、あいつなら仕方ないと諦めたという話を聞いたことがある。若い頃のトムは、確かに痩せていてやばい感じがあった。
デビューアルバムのタイトル曲“アメリカン・ガール”は、少し遅れて日本でもラジオから流れてきたので、最初の頃から彼らの存在は知っていた。
American Girl
その後は自分達のアルバムを出しつつ、ボブ・ディランのバックバンドをやって来日したり、いろいろなミュージシャンのレコーディングに参加するなど、あまり目立ってはいなかったが結構活躍していた。
トム・ペティのことを強く意識したのは、1988年にボブ・ディラン、ジョージ・ハリスン、ジェフ・リン、ロイ・オービソンと一緒に作った「トラヴェリング・ウィルベリーズ」のアルバムと、1989年のソロ・アルバム「フル・ムーン・フィーバー」だった。
「フル・ムーン・フィーバー」は伝統的な音楽を背景に持った典型的なアメリカン・ロックで、当時はそんな感じの音楽はあまり聞いていなかったのに、良い曲が揃っていてとても気に入った。
Yer So Bad
トム・ペティのことを好きになったきっかけは、“ラニン・ダウン・ア・ドリーム”だった。
ロックンロール・タイプでは、この曲が特に気に入っている。
日差しが照り付けるきれいな日だった
俺はラジオを付けてドライブしていた
木々が流れていき
俺とデルは「ランナウエイ」を口ずさんでいた
俺は飛んでるみたいだった
夢を追い求める
向こうからは来やしないから
謎に取りくみ
それが指す場所ならどこだって行く
夢を追い求めるぜ
Runnin' Down A Dream
1999年の「エコー」というアルバムは長年の愛聴盤だ。
ミドルテンポの曲が多い地味なアルバムで、乾いた感じと、トム・ペティが若いころからあったどこか疲れている感じが合わさって、彼ら独自のブルース・アルバムのように聞こえた。
Room At The Top
21世紀に入ってからのトム・ペティは、ソロ・アルバム、デビュー以前に解散してしまったバンド「マッドクラッチ」の再結成アルバム、そしてハートブレイカーズでアルバムを3枚出した。
ハートブレイカーズが2014年に出した最後のアルバム「ヒプノティック・アイ』は、全米1位になった。
初期の頃のシンプルなバンドサウンドを意識した音が、音楽が売れない時代になったとはいえチャートのトップになるのは少し信じられない。
アメリカ人にとってトム・ペティは何か特別なものがあるんだろう。
トム・ペティは2017年に鎮痛剤のオーバードーズで死んだ。
プリンスも同じ理由で2016年に亡くなっている。ドラッグではなくて鎮痛剤で音楽に人生を捧げたミュージシャンが亡くなっていく現在のアメリカは、よっぽど生きていくのが大変なのかもしれない。
アルバム「エコー」のタイトル曲は、トムが作った曲の中では特に乾いた感じで最高に良いと思う。普通の人が暮らしていく中で、期待や努力をしても戻ってきてしまう「悲しいこだま」について歌っている。
トム・ペティは「悲しいこだま」ばかりが帰ってくる世界で、それを十分に理解しながら、疲れてもポーカーフェイスで諦めることなく先に進もうとする感じがあって好きだった。
トムは年を取ってから、もっと良いミュージシャンになると思っていたので、彼が亡くなったのはとても残念だ。
おまえはもう疲れてしまって、諦めたんだね
それが辛くて、辞めてしまったんだね
おまえは俺をがっかりさせた
おまえはボールを落としてしまった
誰よりも苦しんだのはお前だろうな
俺はおまえに何の意味も与えたくない
俺はおまえに誠実でいろなんて言いたくない
同じ悲しいこだまが聞こえてくる
それは俺の耳の周りで聞こえる
悲しいこだまと同じものさ
それはそこら中にある
悲しいこだまと同じものさ
Eco