Thin Lizzy - 英雄になったロッカー | 100nights+ & music

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2020年の1年間に好きな音楽を100回紹介していました。
追記)2023年になっても見てくれる人がいて驚きました、感謝を込めて?気が向いた時にときどきまた書こうかと思います、よろしく!

 

 

アイルランドの英雄、フィル・ライノット

 

 シン・リジーは、アイルランド出身のフィル・ライノットが中心となった1970年代後半のロックバンド。ハードロック/ヘビメタ系はあまり聞かなかったのだが、なぜか好きだった。

 

 ロックバンドにアイリッシュの伝統音楽と詩的な感覚が混ざった、陽気で乱暴でどこか哀愁を感じさせる感じが良かったんだと思う。

 アイルランドとブラジルの血を引く、フィル・ライノットの独特のソウルフルで語り口調なボーカルと、「陽気で繊細なところもあるチンピラ」っぽいところが気に入っていた。

 

 初期のアイリッシュ・トラッドのカバー ”ウイスキー・イン・ザ・ジャー” は、ギターがストラトキャスターで、弾いているのもオリジナルメンバーのエリック・ベルひとりなので、その後の厚みのある音とは少し違う。

 印象的なギターのリフと、まだデリケートな感じがあるフィルのボーカルが、とても良いと思う。

 

Whiskey In The Jar 

 

 シン・リジーを本当に好きになったのは、「Black Rose: A Rock Legend」だった。

 ジャケットは暗い紫色の薔薇に赤い水滴がついているイラストで、センスの悪いジャケットが多いシン・リジーのアルバムの中では、「Shades of a Blue Orphanage」の次にいい。

  

 ツインリードギターがサウンドの中心となっているこのアルバムでは、ゲイリー・ムーアが全編でギターを弾きまくっている。

 タイトル曲の“Black Rose: A Rock Legend”は、フィルがアイルランドの英雄譚のような歌詞を歌い、曲の途中にはアイルランド民謡のギターフレーズがバンバン出てきてくる。

 

 やたらに盛り上がるこの曲では、アイルランドの英雄たちが次々に歌われていく。

 黒薔薇の王国の王と王女、ケルト神話のクー・フーリン、アイルランドの自然。ジェームス・ジョイス、ウイリアム・イェイツ、オスカー・ワイルド。さらにサッカー選手のジョージ・ベストやヴァン・モリスンやショーン・コネリーの名前も散りばめられている。

 

 世代によるのかもしれないが、ギターフレーズで出てくる「シェナンドー」や「ダニーボーイ」など、アイルランドの古い曲は何だか子供時代の記憶を思い出させる。

 

Black Rose

 

 フィルは、ドラッグ中毒で1986年に36歳で亡くなった。

 音楽を聴いただけの印象だが、彼は内省的でセンチメンタル、陽気で友人や仲間を大切にする、ヒロイックなものを求める志向、デフォルメされたマッチョな仮面、などが混ざった人なんだろうと思う。

 

 フィル・ライノットは、いまアイルランドの英雄になってダブリンに銅像が立っているそうだ。ブラック・ローズのような曲や若いバンドを積極的にバックアップしていたことが理由だという。

 そんなものよりも「陽気でセンチメンタルなチンピラ」のまま長生きして、年齢を経たロック詩人になってほしかったなと思う。