キュートで自由なニューヨークパンク
トム・トム・クラブは、1970年代後半のニューヨークパンクの一つ、トーキング・ヘッズのリズム隊であるティナ・ウェイマスとクリス・フランツのユニットで、バンド内バンドとしてスタートした。
ヘロヘロなパンクロックとラップとダンスミュージックをベースに、肩の力を抜いて他の音楽を混ぜるバンドだった。
女性的なセンスを売り物にはしないけれども、それを大きく持った最初のロックバンドの一つだったかもしれない。
そういえばイギリスでもスリッツやレインコーツなど、みんな独特の感じと主張を持ちつつ、どこか肩の力が抜けた感じの女性バンドが同時期にあった。
「ヘタウマ」みたいな言葉が出てきた頃で、パンクの下手さに脱力感を加えたような音楽に金を出すというのは、その前にはありえなかったな。
1981年に出た最初のシングル“Wordy Rappinghood”は、「おしゃべり魔女」という邦題がついていた。
ラップと変なコーラス、軽いリズミカルなビートと繰り返すキーボードのリフが特徴的なこの曲は、なぜか日本の深夜放送でよく流れていて、けっこうヒットした。
Wordy Rappinghood
このバンドのことを知らなくても、マライヤ・キャリーが曲をサンプリングした“Fantasy”は知っているかもしれない。 その曲は特大ヒットした。
元歌の“Genius of Love”は、「ブーツィー・コリンズ、スモーキー・ロビンソン、ボブ・マーレー、ジェームス・ブラウンなんかを聞きながら、ドラッグを彼と楽しむのって、とっても素敵」みたいな感じのイカれた歌詞の曲。
Genius of Love
トーキング・ヘッズが解散した後もトム・トム・クラブは続いていて、ファーストアルバムほどのインパクトはなかったが、しばらく地味にいいアルバムを出していた。
忘れていたトム・トム・クラブを思い出したのは、何となくyoutubeを見ていたときだった。白黒映像の新曲に、1970年代のアンダーグラウンドなミュージシャンの映像が大量に出てきた。
2013年に出した“Downtown Rockers”は、いきなりベルベット・アンダーグラウンドの名前と映像が出て、ニューヨーク・ドールズ、パティ・スミス、デボラ・ハリーやリチャード・ヘルなど、次々に伝説のミュージシャンが出てくる。(そういえば、この人たちもその中心にいたんだっけ)
同じトーキング・ヘッズのデビッド・バーンだったら絶対にやらないだろうなと思われる、シンプルな曲と後ろ向きの歌詞。
でも、「演奏してて楽しいし、みんな楽しいんだからそれの何が悪い?」という感じの曲は、これはこれで素晴らしい。
Downtown Rockers
そういえば小難しいことを言いたがったり、もっともらしい態度をする奴らに「バカじゃねえの」と普通に言うところがパンクロックの良いところだったな。自分も気をつけないと。