トヨタのピックアップに見えるがタンドラではない。ハイラックスのダブルキャブにしては段違いに迫力がある。ハテ、これは何だろう??? 時計の針を、少し戻して欲しい。今年1月に行われた 東京オートサロン で行われた「東京国際カスタムカーコンテスト」にてSUV部門の最優秀賞を受賞したのがこの4x4だった。
今年の東京オートサロンでは、FJクルーザーや、その他大勢の4×4が出展されていたが、その中で、荒削りながら最もリキの入った“カスタムカー”がコイツだった。その名はVERMILION(バーミリオン)。
オートサロンの会場で目映いばかりの光を浴びていたこのクルマ。なかなかいい色だ。塗装も美しい。制作したのは静岡工科自動車大学校のボディーデザイン研究科の若者たち。この3月に卒業した第11期生の卒業制作である。ベースはトヨタの130系ハイラックスサーフだというが、迫力のフロントフェイスには元車の面影は全くない。そしてリアは屋根が切り取られ、荷台に変わっていた。
その荷台もキレイな出来だ。ベッドの“アオリ”もよくできている。キャビンのリアウインドゥは電動開閉式。重箱の隅をつつくようにベッドを眺めてみたが、どのラインを見てもちゃんと処理してあることに感動した。いやあ、これ、がんばったて造ったね。
オーバーフェンダーもこの輝き。よく磨いたね! 元車のハイラックスサーフは後付け式の別体型だが、大きく幅広になったタイヤに合わせ、拡幅してボディーと一体化させていた。
ちなみに、元となった130系ハイラックスサーフはこのクルマだ。迫力はダンチだね。
左は制作前の写真。ボディー形状をイメージするためにルーフの後半を隠している。右は完成車。かなりの悪路を走れそう。彼らはいったい、何をコンセプトに作ったのか?
というわけで、オートサロンの会場で担当者にインタビューしてみることにした。
最初に話を伺ったのはボディーデザイン研究科で生徒を指導してきた 石井 仁 さん。
「東京オートサロンへの出展はこれで、9台目になります(過去のカスタマイズドカーはコチラ)。毎年1台作って出展する、というのが彼らの課題なんです。今年のコンセプトは、今年の学生のアイデアなので、彼らのカラーが出たかな、と思っています。いずれ自動車業界に出て、整備士なり、板金塗装業界に行く学生なので、そういた分野に活かせるように制作に取り組んでいます」
なるほど。自分たちの作りたいものを自分たちの情熱で作れば学び取ることも多いだろう、ということで、コンセプトや素材は学生にある程度任せているのだ。
次にインタビューしたのは、第11期生を引っ張ってきた「カスタムリーダー」森竹涼太さん。冒頭の写真で中央に写ってる彼かな。明らかに髪型が違うが(笑)。東京オートサロン当日はビシッとスーツを着込んで、とっても折り目正しい応対でインタビューに答えてくれた。そのまま、営業マンにもなれそうなほど柔らかい語り口だ。
━━ 4x4MAGAZINEです。我々のステッカーを見て驚きました。ありがとうございます。これ、卒業制作なんですね。何台も造るのですか?
1台です、今回の11期生みんなで1台を念入りに造ってオートサロンの賞を狙っています。
━━ 11期生って何人いらっしゃるんですか?
ボディーデザイン科は23名です。その中でカスタムカー制作チームと事故車修復チームに分かれていますので、実際にカスタムカーを作ったのは19名です。
━━ いつから作業に入ったんですか?
5月にはコンセプトを決めて、ベース車両も決めて、実際に動くのは7月後半くらいです。そこから12月頭までが制作期間です。授業の一環なので、もうひたすらみんなで協業作業です。
━━ ベース車は何でしょうか?
平成5年初度登録の130系サーフを中古で購入してます。
━━ 予算があるのですか?
ハイ。学校から支給されるのは毎年100万円と決まってまして、その中で作ります。人手だけは沢山ありますから(笑)。
━━ リーダーは四駆が好きなのですか?
ハイ。アウトドア派です。今回は「ザ・四駆」をテーマにしてがんばってみました。
━━ どんなクルマを作ろうと思ったんですか?
やっぱり四駆ということで、道じゃないような激しい岩のゴツゴツしたようなところも走っていけるような、大胆さをコンセプトに作りました。
━━ なるほど。ちょっとディテールを教えてもらえますか?
完成していると見えない部分もあるのですが、ボディーからフレーム、エンジン、ミッションから足まわりまで全部バラしてキレイに仕上げています。
ミッションはペーパーとコンパウンドでピカピカに磨いて、フレームは錆を全て落としてから黒ラメ塗装とクリアで仕上げています。
ヘッドライトは前後USタンドラのカスタマイズパーツを使ってます。当たり前ですがサーフとは大きさがひとまわり以上違うので、それをキレイに落とし込む作業も大変でした。
キャビンの後ろは180系サーフのリアゲートを流用してリアウインドゥを開閉式にしています。130サーフのリアゲートはベッドのアオリにしてあります。
━━ 番苦労したのはどこですか?
顔となる部分だけに、やっぱりグリルとボンネットですね。迫力も欲しかったので。それから、各部の平面や曲線ですね。自分たちで創り出さなければならないラインがとても多いんです。迫力があってキレイな面を作り出すのが大変でした。
━━ 思い出に残っていることは何ですか?
どの作業も、誰がやった作業も大変なものばかりでしたが、印象に残っているのは、みんなで遅くまで残ってこなした整形作業でしょうか。パテを盛って削って、また盛って削って…。夜を徹して繰り返した作業が一番思い出に残っています。
━━ ありがとうございました。カスタムカーコンテスト応援しています。
ありがとうございます。
静岡工科自動車大学校
ボディーデザイン研究科 第11期卒業生
カスタムリーダー
森竹涼太 さん
「やっぱりこうやってショー会場に飾られると、充実感と言いますか…なんて言えばいいんでしょう(やや感激気味に)やっと達成できた! という感触があって、とっても嬉しいです」と語っていた森竹さん。インタビューの翌々日、最優秀賞を獲得して「最優秀賞を受賞できたこと、東京オートサロンや学校の歴史に自分たちの名を刻むことができたこと、最高の仲間に出会えたことを誇りに思います」とコメントしていた。本当にお疲れさま。
このカスタムカー、その名前を
VERMILION(バーミリオン)
という。その由来を尋ねると「Variation・Variety(変化・多様性)とMillion(多数の)を合わせ、どのような場面でも走行できるクルマと、これから様々な可能性を持ち、変化していく自分たちという思いを込めたという。
完成したバーミリオンを既存のハイラックスピックアップと比べると、ひとまり大きく、明らかに目立っているのがよくわかる。色もいい。
さて、ここまでは彼らの晴れ舞台を見てきたが、見るべきポイントは制作課程に多い。彼らは今後プロの世界へと巣立ち、結果だけを求められる立場になるのは明らかだが、この卒業制作は、彼らの情熱のカタマリなのだ。素人がそこを理解するには、ちゃんと課程も見たほうがいい。
どれだけ手間暇がかかっているのか? バーミリオンは、こうして作られていった。
完成!!
これを見て、「ふうん」くらいに思ったあなた。コチラ↓を見て欲しい。
東京国際カスタムカーコンテスト2011 SUV最優秀賞のできるまで
最期に見せた彼らの笑顔の意味が、よくおわかりいただけると思う。
巨大地震の復興もままならぬ中、モノ造りの話題を採り上げたが、これから必要なのは彼ら若者の情熱とエネルギーだ。
彼らが得たのはトロフィーだけではない。ひとつの目標に向かって切磋琢磨した大切な思い出と、その時鍛えた技術と方法論、そして何よりも完遂した「チカラ」だ。
そして今後、整備や鈑金修理の分野に進んでも、新しいものをクリエイトした想像力と、仲間と協力することで何倍もの成果が生まれるという、この事実をいつまでも忘れないで欲しい。それこそ“VER-MILION”のごとく。
これからのニッポンは彼ら若者が支えていく。がんばれ11期生。(河村)
■ボディーデザイン研究科 第11期生 カスタムカー制作チーム(敬称略)
天野陽香 池谷佳祐 内山優也 遠藤央暁 大竹涼子 木下義敬 鈴木泰介 髙野翔也 田中新也 田中佑季 友田純史 中澤拓也 袴田雄紀 藤井雄志 堀井翔太 村岡宏樹 室田浩二 森竹涼太 和久田樹
■問い合わせ先
専門学校 静岡工科自動車大学校
〒420-8507 静岡県静岡市葵区宮前町52-1
TEL:054-263-4666