ある日、担当の訪問看護師さんが急遽お休みとのことで、代役の看護師さんがやって来た。
ところが彼女は、私が苦手な「におう人」だった！なんでよりによってアナタなんだよ〜。
とはいえ、彼女は決して体臭がキツい、例えばワキガ臭いとか、足が臭いとかいうわけではない。彼女が纏う柔軟剤のにおいがとにかく強烈なのだ。
私は昔から柔軟剤のにおいが嫌いだ。大抵どれも人工的で下品、そして強烈なにおい。いかにも「いいにおいでしょ？」みたいにわざとらしいし、それを魔に受けて使う人にも好感が持てない。それ以前に、あのにおいを嗅ぎ続けると気分が悪くなる。吐き気もするし、喉もヒリヒリして咳込んでしまう。
そもそも日常的に病人と密室で接する訪問看護師さんがにおいがキツいこと自体、マナー違反だと思うが、私はそれを過去、担当看護師さんに何度か伝えていた。しかし、それが本気だとは思われていなかった。
結局、私はやむなく彼女を追い返した。その後、担当看護師さん、ケアマネと話し合い、今後はにおいが改まらない限り彼女は出入り禁止となった。本人の反応は、項垂れるばかりで明確なコメントはなかったらしい。
とりあえずこれで問題は一段落だ。しかし、私にはさらに知っておいてほしいこと、キツすぎるにおいがダメな理由がある。それは、嗅覚を奪われる恐怖だ。
私はもともと全盲で資格から得られる情報は皆無だ。よって、残った聴覚、嗅覚、触覚、味覚をフル稼働させて日々生きている。その時点で十分不安だし、ストレスを負っている。
それに加えて、さらに柔軟剤やタバコなどのにおいで密室が満たされてしまうと、視覚だけでなく嗅覚からの情報までもがシャットアウトされてしまう。五感のうち二感もだ。突然、意に反して二感を奪われ、三感だけになってしまうのは紛れもない恐怖だ。
これは五感満足な人にはまず想像できないと思う。なぜなら、以前の私もそんなこと想像するきっかけすらなかったのだから。
もし、擬似体験してみたければ、ぜひアイマスクをつけて1週間ほど過ごしていただき、闇の生活に慣れた頃、誰かにいきなり強いにおいを放ってもらってほしい。それでなんとか私の訴えたいことがぼやっと理解できるかもしれない。
ここまで訴えても、99%の人は実際にやってみようとはしないんだよね。それは私らと日々深く関わっている看護師さんや介護関係者でも同じこと。一瞬、気付いたつもりにはなるけど、あくまでも別世界扱いなんだよね。
これはスメハラどころじゃない。においの暴力なんだよね。
©️2024 Koichiro