『身代わり忠臣蔵』ネタバレの感想 喜劇だけでなく命の大切さと友情の感動作 | アンパンマン先生の映画講座

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映画の面白さやストーリーの素晴らしさを伝えるため、感想はネタバレで、あらすじは映画を見ながらメモを取って、できるだけ正確に詳しく書いているつもりです。たまに趣味のAKB48のコンサートや握手会なども載せます。どうかご覧ください。

評価 4/5 ☆☆☆☆★

 忠臣蔵を描いた映画は多くあるが、大概は赤穂側から描いており、本作は吉良側から描いているのが面白い。しかも吉良上野介は浅野内匠頭から受けた傷が原因で亡くなり、吉良家が取り潰しになるのを防ぐために、そっくりな弟を替え玉にするというアイデアが優れている。その替え玉の孝証は、てっきり架空の人物かと思ったら、パンフレットを見たら実在の人物なのに驚いた。ただ、上野介が長男で孝証が六男と歳がだいぶ離れており、一卵性双生児でないので瓜二つとは思えないが。

 もう一人の主人公の大石内蔵助は、本作では討ち入りをしたくない弱腰の家老と描かれているが、史実でも討ち入りには反対で、浅野家再興の嘆願書を幕府に書いている。討ち入りすれば参加者に多くの死傷者が出るうえ、生き残った者は打ち首、さらに参加者の家族も流刑などの厳しい処罰が下される。そのため、大石は何としてでも討ち入りの回避を考えたのであり、決して弱腰ではない。

 文楽『仮名手本忠臣蔵』では、大石が討ち入りを諦めたと世間に思わせるために、遊郭で豪遊したと描かれている。本作では、大石は言う事を聞かない家臣たちへのうっぷん晴らしのようだが、遊郭に行ったのは合っている。大金を手にした孝証は、女好きの生臭坊主のようなので、遊郭に行くのもあり得る。しかも、桔梗が上野介から胸を触られる猥褻行為を日常的に受けていたと知った直後なので、兄の行為にムラムラしたのかも知れない。遊郭で孝証と大石が顔を合わせ、川で溺れた孝証を大石が助けた関係もあり、お互いよく似た境遇と知って意気投合するのも、有り得る気がする。

 その大石と部下達から、吉良邸討ち入りの計画があると聞いた孝証は、急に不安になる。さらに吉良邸が江戸中心部の呉服橋から、郊外の本所松坂町に屋敷替えになる。これも当時、幕府が赤穂浪士達に討ち入りしやすくさせたのだろうと噂されていたので、映画での柳沢の罠と言うのも史実と矛盾がない。

 さらに、赤穂城での紛糾した議論、江戸会議、山科会議はごくあっさりと描いているが、史実にある。赤穂浪士が陣羽織で集まる場面や、門の前で討ち入りの口上を述べる場面は、史実と違うらしいが文楽では有名な場面で、本格的な『忠臣蔵』の感じがした。塀から落ちて原惣右衛門が足を負傷する場面まで描いているのに感心した。この原の足の負傷は、後の生首ラグビーの場面に生かされていて笑った。

 さて、討ち入りが長引いて吉良家、赤穂藩双方に多数の死傷者が出るのを避けるため、孝証は事前の大石との打ち合わせで「死ぬのは私一人で良い」と言い、孝証が直ぐに出てきて降伏する。自分の命を犠牲にして、吉良家家臣だけでなく赤穂浪士たちの命まで考える、孝証の心の優しさに感動した。

 それを知っている大石は、なかなか孝証の首を切り落とせない。そうしているうちに清水一学が目覚めて赤穂浪士たちと戦う。孝証が直ぐ斬られたら歴史が変わるところだが、清水が橋の上で堀部安兵衛と戦い、吉良孝証(上野介)が炭小屋に逃げるなど、史実や文学の通りになるのが面白い。

 ついに孝証は大石によって首を斬られた。と思ったら、その首は塩漬けの上野介の首だった。そう言えば、斎藤が上野介の死体をどうにかすると言っていた。この、孝証は生きていたと言う展開も実に見事である。吉良家家臣と赤穂浪士がラグビーのように生首の取り合いをする史実はないはずだが、吉良家があっさり赤穂浪士を帰すとは思えないので、生首を取り返しに来るのもあり得るかな?

 最後に孝証が大石の墓前で「俺はあいつには生きててほしかったんだ。生きるべきだったんだ」と言う言葉が心に沁みる。「馬鹿でいいんだ」と、桔梗と一緒に新しい人生を送ろうとする終わり方も大変良かった。ムロツヨシのギャクがやり過ぎと思う場面もあり、単純な喜劇だと思ったら、史実や文楽を踏襲した本格的『忠臣蔵』であった。大石が家臣の命を大切にし、孝証が自分の命を犠牲にして死者を減らそうとし、孝証と大石の友情、孝証と桔梗の愛もあり、感動的な話だった。評価は「4」である。