『ジブリと宮﨑駿の2399日』ネタバレの感想 新作製作過程と宮﨑と高畑の関係が興味深い | アンパンマン先生の映画講座

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映画の面白さやストーリーの素晴らしさを伝えるため、感想はネタバレで、あらすじは映画を見ながらメモを取って、できるだけ正確に詳しく書いているつもりです。たまに趣味のAKB48のコンサートや握手会なども載せます。どうかご覧ください。

 12月16日 NHKで放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀 ジブリと宮﨑駿の2399日 映画はこうして生まれた』を見た。宮﨑駿監督の今年公開の『君たちはどう生きるか』は、公開までどのような内容か一切秘密であり、どのようにして製作されたかも全く不明だった。外部には一切秘密だったのに、このように制作過程を緻密に取材していた事に驚いた。

 まず、宮﨑駿は脚本を書かず、絵コンテと同時進行で作品を制作していく手法を取るのが知られている。つまり、結末までストーリーが決まらないうちに製作を始めると言う、時間短縮にはなるだろうが、何とも不安な方法である。本作でも、絵コンテに行き詰まる宮﨑の姿が何度も映し出され、完成したと知っているのだが、本当に完成するのだろうかとハラハラして見た。

 さらに、高畑勲の死と言う危機が起こる。宮﨑が高畑の『太陽の王子 ホルスの大冒険』のスタッフに起用されてからの関係で、一緒に「スタジオジブリ」を造った仲だとは知っていたが、これほど深い関係だとは知らなかった。本作では「行き過ぎた片思い」と表現していたが、筆跡まで真似するとは!宮﨑も「僕らは愛憎半ばしてますからね」と言っていた。高畑が他の監督を気に入ったので、『風の谷のナウシカ』で高畑をプロデューサーにしたのは、制作に手が出せない辛い仕事を味わわせる復讐だとは、何とも恐ろしい。ところが、ナウシカが生き返るラストシーンは、高畑の助言だそうで、ちゃんと世話になっているではないか。

 高畑の死によって宮﨑は全く絵コンテが書けなくなり、高畑の亡霊に憑りつかれる。「パクさん出てきてください」と雨の中を歩き、消しゴムが見つからないと「パクさんが持って行った。返してください」と言って探し回るのは尋常でない。

 映画に集中すると記憶を失うと言うのも怖い。焼酎事件の真相は何だったのだろう?宮﨑のチェックしていないカットが上映されたと言うが、記憶違いの様だ。宮﨑は高齢でもあり、痴ほう症も心配である。

 さて、『君たちはどう生きるか』の主人公の眞人は宮﨑、大伯父は高畑を意味しているとは知らなかった。さらに、でも一人は怖いので鈴木を道連れにするために、青サギを設定したのだとか。大伯父は眞人に仕事を継いで、この世界を再構築するように言うが、眞人は断る。本作では「この世界は崩れ去り、高畑の築き上げた世界も崩壊する。宮﨑は映画の中で、高畑と完全に決別した」と表現していた。このような意味があるとは知らなかった。『君たちをどう生きるか』をもう一度見直して、確認したくなった。

 ところで、大伯父と眞人の間に乱入して、適当に積み木を積み上げるが上手くいかず、癇癪を起こして積み木(世界)を破壊したインコ大王は誰がモデルなの?インコ大王がこの世界を破壊した直接の原因なので、この場面はどんな意味があるのだろう?宮﨑が高畑と決別するために、誰かが介入したと言う事?

 本作品は『君たちはどう生きるか』の製作過程を追いながら、宮﨑と高畑との関係を掘り下げるため『太陽の王子 ホルスの大冒険』『未来少年コナン』『風の谷のナウシカ』などの過去作品と高畑の関係。『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』などが引っ越しの場面から始まるのは、高畑が引っ越しが子供にとって冒険だと思ったから。『魔女の宅急便』の小屋、『風立ちぬ』の泉という、映画の1場面と現実の風景とのシンクロ。『もののけ姫』のタタリ神を宮﨑にたとえ、など、過去作品に触れながら、宮﨑の歴史の説明にもなっているのに感心した。

 宮﨑駿は現在82歳。『君たちはどう生きるか』の時も鈴木プロデューサーは、力のない作品になるのではと心配していたそうだが、今後もまだまだ映画を作れる気がした。宮崎駿監督の新作アニメ映画を是非見たいものである。