『ナイル殺人事件』映画と原作の違い | アンパンマン先生の映画講座

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映画の面白さやストーリーの素晴らしさを伝えるため、感想はネタバレで、あらすじは映画を見ながらメモを取って、できるだけ正確に詳しく書いているつもりです。たまに趣味のAKB48のコンサートや握手会なども載せます。どうかご覧ください。

 「『ナイル殺人事件』ネタバレの感想  名作をあまり改変しないで欲しい」でも書いたが、冒頭の場面が「間違って別の映画を見てしまったのだろうか?」と思ったほど、改変されていたので驚いた。また、小説を映画化するには、上映時間を2時間前後に収めなければならない事や、映像にした時の見栄え、話が余り複雑だと分かりにくいので整理したり、登場人物を減らしたりなど、様々な変更があるのは分かる。しかし、推理小説はいじり過ぎるとトリックが破綻したり、面白味が無くなったりする危険がある。「ネタバレの感想」では少しだけ触れたが、映画は原作とどのように改変したか、挙げてみた。

 

1.映画の冒頭の第1次世界大戦の話は、原作に無い。

 本映画を見て一番驚いたのが、第1次世界大戦の話から始まった事だ。ポアロが第1次世界大戦に従軍した話は、どの小説にもないそうである。ポアロが髭を生やした理由は、戦闘で顔に怪我をし、恋人のカトリーヌに、髭を生やして隠すと良いと言われたから、と説明している。小説ではポアロの顔に傷があると言う話はなく、恋人のカトリーヌの話も無い。こんなに大きく原作を変えて良いのだろうか?

 

2.原作では船の乗客の数が多いが、映画では改変して激減。

 原作ではポアロ以外の乗客(と船員)の数が何と19人もいる。確かに容疑者の数が多すぎて、話が分かりにくい。映画では登場人物の数を12人絞っているが、これによって矛盾も出てしまった。登場人物の改変は以下のとおりである。

リネット・リッジウェイ(大富豪の20才の女性。第1の犠牲者)→映画に登場。年齢は上だが。

サイモン・ドイル(リネットの夫。犯人)→映画に登場。

ジャクリーン・ド・ベルフォール(サイモンの元婚約者。共犯)→映画に登場。

ルイーズ・ブールジェ(リネットのメイド。第2の被害者)→映画に登場。

ヴァン・スカイラー(大富豪の貴婦人)→映画に登場。リネットの名付け親で相続人の一人に改変。

コーネリア・ロブスン(スカイラーの姪)→映画に登場しない。

バワーズ(スカイラーの看護婦)→映画に登場。スカイラーとレズの関係に改変。

ミセス・アラートン(ジョウアナの従妹)→映画に登場。ブークの母ユーフェミアに改変。

ティム・アラートン(アラートンの息子)→映画に登場。ブークが登場し、第3の犠牲者に。

アンドリュー・ペニントン(リネットの財産管理人)→映画に登場。

ジム・ファンソープ(弁護士)→映画に登場しない。

ファーガスン(社会主義者)→映画に登場しない。

ギド・リケティ(考古学者。殺人犯X)→映画に登場しない。

カール・ベスナー(医者)→映画に登場。ライナス・ウィンドルシャムでリネットの元恋人に改変。

サロメ・オッタボーン(作家。第3の犠牲者)→映画に登場。ジャズシンガーに改変。

ロザリー・オッタボーン(オッタボーンの娘)→映画に登場。サロメの姪でマネージャーに改変。

フリートウッド(船の機関士。ルイーズの元恋人)→映画に登場しない。

レイス大佐(英国特務機関員)→映画に登場しない。ポアロの助手役はブークが行う。

 

3.映画ではジャクリーンがリネットに婚約を報告するのはジャズ・バーに改変。

 原作では、フランスの高級レストランで、ポアロがジャクリーンとサイモンがエジプトへに新婚旅行に行く話を耳にする。ジャクリーンがリネットにサイモンとの婚約を報告するのはリネットの屋敷である。

 映画ではポアロがジャクリーンジャクリーンとサイモンが踊っているのを目にするのも、ジャクリーンがリネットにサイモンとの婚約を報告するのも、ジャズ・バーである。時間の短縮と、ジャクリーンとサイモンが熱々の関係だったが、リネットがサイモンも気にいるのを分かりやすく表現している。

 

4.映画ではエジプトに関係者が集まるのは、結婚披露パーティーへの招待。

 原作では、新聞記事やリネットからの手紙を見た関係者が、偶然を装ってエジプトに行く。リネットも、偶然にしては話が出来すぎてると思ったのでは。

映画のように、結婚披露パーティーへの招待だったら、関係者が集まる理由も納得できる。エジプトで新婚旅行と結婚披露パーティーを行うとは、凄い金持ちである。

 

5.映画ではポアロがエジプトに来たのは、ロザリーがブークの結婚相手に相応しいか調べるため。

原作では、ポアロがエジプトに来たのは、純粋に休暇のためだった。

映画では、ポアロがエジプトに来たのは、サロメの姪のロザリーがブークの結婚相手に相応しいか調べるため、というのも意外だった。ジャズ・バーにポアロがいたのも、出演者のサロメを追っていたと分かる。でも、ポアロは結婚興信所の仕事もしているの?

 

6.映画でピラミッドが登場するが、原作では登場しない。

 原作では「第2部 エジプト」はホテルの場面から始まり、ピラミッドは登場しない。

 映画ではピラミッドでポアロが偶然ブークと再会し、ブークに母を紹介される。実はポアロはブークの母に依頼されてロザリーを調べていたので、母とは初対面ではなかったはず。ポアロとユーフェミアの演技も上手である。ポアロがブークと会ったのも、ブークを調べていたからだろう。

 

7.映画ではサイモンが撃たれた(と演技をした)バーからリネットの部屋が遠すぎる。

 原作では展望室でサイモンがジャクリーンから小型拳銃で撃たれた振りをして、ジャクリーンがバワーズの部屋に運ばれ、ベスナー医師を呼びに行っている間に、反対側の通路を通って、部屋で寝ているリネットを殺害した。

 映画では、バーでサイモンがジャクリーンに撃たれた(と演技をした)バーは1階の船首にあり、リネットの部屋は2階の船尾にあり、リネットの部屋はバーから一番遠い部屋である。映画ではジャクリーンがバーから出て行ってから、ライナス医師がバーに来るまで、ちょうど1分だった。その間に椅子の下から拳銃を拾って、リネットの部屋まで往復してリネットを殺害し、隠したスカーフを取って自分の足を撃ち、拳銃に1発装填し、拳銃をハンカチとスカーフに包んで河に捨て、と言った犯行が可能なのだろうか?

 

8.出血のトリックが原作は赤インキ、映画は赤絵の具。

バーでサイモンがジャクリーンに撃たれたと演技をした時、血に見せかけたのは原作では、リネットの部屋のマニキュア瓶に入れた赤インキであった。原作ではブークの母ユーフェミアの赤絵の具だった。ブーアを容疑者にしたかったのか? 原作のままで構わないと思うのだが。

ついでに言うと、サイモンが足の傷口が焦げないように拳銃に当てたのは、原作ではスカイラーの肩掛けだったが、映画ではスカーフである。こんなに細かい所まで変えなくても良いと思うのだが。

 

9.第3の犠牲者は、原作はサロメ、映画はブーン。

 リネットのメイドがジャクリーンに殺されたのを目撃し、ポアロに放そうとして殺害された第3の被害者は、原作はサロメだが、映画はブーンである。これもなぜ変更したかよく分からない。原作のままで構わないと思うのだが。