秋の季節の言葉に「山装う」がありますが、赤や黄色で彩られた山々の自然が産んだ美しさは情緒的で、それを目で楽しむ紅葉狩りも日本独特の風習です


前回に引き続き、日本の秋の伝統色と秋にちなんだ日本画をご紹介します


(赤系の伝統色)
〈紅葉色〉もみじいろ

朽葉色のバリエーションの中で、赤朽葉のようなくすんだ黄赤です

秋が深まると木々の葉が色づき、もみじ色の赤は日本の自然が産んだ美しさです


紅葉を描いた日本画と言えば、
円山 応挙 『紅葉白鹿図』 です


応挙が描く白鹿は気品と気高さがあり、繊細で柔らかな毛並みまでが伝わって来ます

その白鹿を覆うように描かれた、もみじの葉の一枚一枚が微妙に色を変え、所々に茶色が混ざり深まり行く秋を感じます

色彩のコントラストが美しく、応挙の色彩感覚のセンスの良さが見事に表れています



紅葉を描いた日本画をもう一枚、
奥田 元宗 『奥入瀬 秋』です


燃えるような紅葉の朱赤と、水流の淡い緑青のコントラストが目に焼き付くような日本画ですね

奥田元宗は多くの風景を描いていますが、朱赤に込めた画家の心理は、かなり熱いようです

行く秋を惜しむと同時に、美しい時間は永遠ではない事を、作品を通じ伝えているようです

実物の風景以上に美しく感じるのは、画家の赤と緑の補色の色使いが巧みで、残像として心に残るからでしょう


(黄色系の伝統色)
〈枯草色〉かれくさいろ

その名の通り、秋を迎えて枯れた草のように淡くくすんだ黄色です

夏の間は生き生きとしていた緑の草花は季節の移ろいと共に色を失って、やがてくる冬を予感させます

類似色に枯色や枯野色があります


枯草を描いた日本画と言えば、
川瀬 巴水  『市川の晩秋』です


一方向を向くすすきと、奥の淡い黄色の繰り返しがリズミカルで、左側一面の枯れ野から晩秋の気配が漂っています

右から左に緩やかに風が吹いて、空は紫色に暮れ、奥に三隻の帆船が海から戻って来たようです

日が短い秋の夕暮れはどこか物悲しく、岸の向こう側に家があることで、ほっこりするような温かさが感じられますね



(茶系の伝統色)
〈落栗色〉おちぐりいろ


熟して地面に落ちイガから顔をのぞかせている栗の色です

平安時代に生まれた伝統色で、源氏物語にも登場します


落栗色のような深い茶色が印象的な日本画と言えば、
伊藤 若冲 『秋塘群雀図』です (動植綵絵より)


実った粟の実に向かって一斉に飛んで行く雀をよく見ると、一匹だけ白い雀がいますね

この描き方は、蓮池遊漁図の蓮の花にも見られた描き方で若冲の遊び心が表れています

若冲は、市場で売られていた雀十匹を買い取り大切にしていたという逸話がありますが、それくらい雀を愛していたようです

雀の一匹一匹が愛らしく、何とも楽しそうです



(緑色系の伝統色)
〈柳茶〉やなぎちゃ


深く渋い黄緑色は、秋になり柳に少し茶が加わったような色です



柳茶のような渋い黄緑色が美しい日本画と言えば、
上村 松園  『新秋』です


日本画の巨匠、松園の描く女性は、気品に満ちておしゃれに手抜きが無く、芯の強い女性が描かれています

黄色のべっ甲のかんざしと朱色の楓の帯が華やかで若々しい印象です

体をくねらせたポーズはこれまでに何度も登場していますが、女性が美しく見える仕草をとことん研究した松園の描く世界観に、うっとりする人が多いのも納得の美しさですね


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日本の秋の伝統色は、日本の気候が密接に関係して、湿度が微妙に混ざり合ったディープトーンやダルトーン、グレイッシュトーンが多く、色彩に深みがあります




色を楽しむ素敵なあなたへ…

最後までお読みいただきありがとうございます💕