雪が降る季節がやって来ると思い出すのは、子供の頃、誰も歩いていない雪の道に足跡を付ける瞬間の高揚感が楽しくて、寒さを忘れて外遊びをした記憶です

しんしんと降り積もる真っ白な雪は、風景だけでなく私たちの心までもリセットして全てを浄化してくれるかのようです

一年の締めくくりと新しい年を迎える冬の色を私たち日本人は大切にしてきました


再び日本の冬の伝統色とそれにちなんだ日本画をご紹介します


(赤系の伝統色)
〈薄紅梅〉うすこうばい


紅梅色を薄くした明るい紅色で、平安時代に誕生した伝統色です

お正月の紅白のかまぼこの赤は魔除け、白は清浄さを表すと言われています


薄紅梅のような明るい紅色が印象的な日本画と言えば、
伊東 深水 『吹雪の大川端』です

薄紅梅の羽織と臙脂色の着物に赤の襦袢という
赤の単一色相のグラデーションが美しく、気品に溢れていますね

赤系の着物を引き立てる雪景色の白は、新春のような華やぎが感じられます



(青系の伝統色)
〈白群〉びゃくぐん

鉱物のアズライトを原料とする青色顔料による伝統色で、飛鳥時代に中国から伝来しました

岩絵の具は粒子が細かくなるほど色味が薄くなります


白群のような淡い青が印象的な日本画と言えば、
東山 魁夷 『霧氷の譜』です


枝の先まで降り積もった白い雪と背景の空が清らかで幻想的ですね

深夜に降った雪が止み、早朝に見かける雪国独特の景色で、霧氷となって凍りついた枝から寒さが伝わって来るようです



(緑系の伝統色)
〈海松色〉みるいろ

海松は磯の干潮線より下に着生する海藻の名前です
主に食用に採取された海松は万葉集にも読み込まれた歌があり、この時代から海辺の人々が海松をとって暮らしていた事がわかります

海松色は江戸時代になって愛好されるようになりました

類似色に根岸色や老緑等があります


海松のような深い緑色が美しい日本画と言えば、
伊藤 若冲 『雪中錦鶏図』です(動植綵絵より)


丸みのある雪は、明け方に積もった雪が日射しが高くなった昼間に溶け出したのでしょう

とろみのある雪の表現は若冲の観察力のなせる技でしょうか…

画面の左下半分に山茶花が咲き、緑と補色の赤、雪の白がリズミカルに配置されて華やかですね




(無彩色系の伝統色)
〈薄鈍色〉うすにびいろ

木々の葉は枯れ、色を失くした枝や樹木のような灰色です

昼間の曇り空のような灰色です



薄鈍色が美しい日本画と言えば、
川合 玉堂 『冬/雪夕村』です


山里に降る雪は無彩色の幽玄的な美しさと同時に、冬の厳しさを感じます

余談ですが、北陸地方など湿度の高い地域で雪が1メートル積もると1㎡で500kgの重さになるとか…

玉堂の描く『雪夕村』を見ていると、家族総出で何度も屋根の雪下ろしをした子供の頃を思い出します



(茶系の伝統色)
〈香色〉こういろ


チョウジやキャラなど、香りの高い香木を煎じて染められた色をさします


染料となった木の種類によって色合いは異なりますが、総じて淡く渋い茶色です

香木で染めた布は芳香があることから平安貴族が好む優雅で上品な色として人気があったようです

類似色に白茶や練色などがあります


淡く渋い茶色が美しい日本画と言えば、
渡辺 省亭 『枯野牧童図』です

渡辺省亭はパリに渡り、ドガやマネなど印象派の画家たちの前で日本画制作の実演を行い、ジャポニズムブームに影響を与えた画家です

枯野牧童図は、月夜に牛に乗って笛を吹く童子を描いていますが、淡い茶色と墨色が山水画のように穏やかで、初冬の夕暮れの、ひんやりとした空気が伝わってくるようです

童子の青い衣服が清々しく、存在感を放っていますね



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日本の冬の伝統色は、無彩色を中心に、柔らかなパステルカラーやペールトーンのような薄い色彩が多く見られ、一年の締めくくりと始まりの色に相応しい清らかさが際立っています





色を楽しむ素敵なあなたへ…

最後までお読みいただきありがとうございます💕