フライドチキンと海のおと。 -26ページ目

なんちゅううまい酒だ 後編

日本酒は英語で『SAKE』と表記される。
しかし、焼酎は『SYOU-TYU』とは表記されない。
まだまだ世界では認知されていない酒なのだ。


このことが「残念でならない」と鹿児島県酒造協同組合長は言う。
もはや鹿児島県の特産品とも言える『焼酎』を世界に広めたい。
そんな鹿児島県・市・各機関の切なる願いから、
『さつま無双』は鹿児島焼酎の代表銘柄として産声をあげた。



やるからには、徹底してほんものにこだわろう。
鹿児島県酒造協同組合が全組合員にそう呼びかけ、
酒質・風味・存在感など、
真に鹿児島焼酎の王者といえるべき風格のある焼酎にする為、
熊本国税局鑑定官室と鹿児島工業試験場の全面的指導を受け、
最高品質の焼酎として生みだされた。





「さつま無双」=「薩摩に双つと無い」という意味を持つこの名は、
鹿児島県民に一般公募し、
当時の県立図書館長である椋鳩十という方を選考委員長として、
多数の応募の中から名付けられた。
鹿児島県民をはじめとした、
さまざまな人の熱い想いが結晶化した酒。
それが『さつま無双』であり、
この甕つぼ仕込みはその最高峰と言える酒なのである。



薩摩の伝統的製法のこだわりの逸品。
どうしてそこまでこだわるのか?
そんなにこだわってメリットはあるのか?
先の酒造協同組合長と杜氏に、そう尋ねてみた。
すると両氏はにべもなくこう答えた。


「いや、このほうがうまいからだな」。


作り手の胸の内にある想いは、いつだってシンプルなのだ。
ただうまいものを作る。
そしたら結果はついてくるだろう。
そういう考え方、好きだな。
そしてこの酒も好きだ。

なんちゅううまい酒だ 前編

いーやー、うまいな。


その味は鮮烈にしてまろやか。
きりりと引き締まった印象の中にたゆたう、母の愛のような甘さ。


一見相反する言葉にも見える。
しかし、この酒を形容する言葉は、生半可には見つからない。
相反している言葉のようだが、飲めば誰もが納得する。


うん、確かに鮮烈。確かにまろやか。
引き締まっているのに、甘くやわらかい。
良い酒とは、得てしてこういったものだ。
甘い酒。辛い酒。こくがある酒。
そんなシンプルな言葉の範疇にはおさまらないのだ。
その味は素人を魅了し、玄人を納得させ、批評家を唸らせる。
そして生半可な通を混乱させる。
こと、この『さつま無双・甕つぼ仕込み』においては。





一次仕込はもちろんのこと、
二次仕込にも地中に埋め込まれた500~600リットルのかめつぼを使用している。


蒸留器にもこだわりがある。
木目・節目に注意して厳選された、
特別な杉でできた木桶蒸留器を使用し、
発酵を終えたもろみを長時間かけて蒸留しているのだ。



頑固一徹な杜氏の、
まったく気が遠くなりそうな手間と情熱を惜しみなく注がれて生まれた焼酎。
それがさつま無双・甕つぼ仕込みである。



ソーダで割って呑んでみると、
薫りがあんまり強いのでちょっとびびった。
で、常温のミネラルウォーターで割ってみた。
さらに薫りが強くてもっとびびった。
うーまい。しみじみうまくて……。


書ききれないので続いてみる。
<つづく>

ススキの中から 後編

男はぜえぜえ、と大きく肩を揺らして息をしている。
はた、と目が合った。
理性的、ともとれる目だった。


「……出せ!」
「え、何?」
「車だよ! 早く出せ! 逃げろっ」


A君は友達に言った。


「ぎゃばらぼあっ」


男は怒号とも悲鳴ともつかない声を発し、
車に向かって走ってきた。
と、ススキの中からなおも数人の男が走り出てきた。
その男達は紺色の軍服のようなものを着ていた。
オレンジ色の、ライフルのような武器を全員が持っていた。


そしてその顔。
どこかおかしかった。
どこがおかしい、とははっきり言えないが、
バランスが変なのだ。
目が小さすぎる。
鼻梁が長すぎる。
口が大きすぎる。
額が狭すぎる。
肌が白すぎる。
そして全員が、ほぼ同じ顔をしている。


「出せって! アクセル!」


A君は怒鳴った。
ぎゅるるる、とタイヤが鳴り、車は急発進した。
バックミラーの中で、四本腕の男は軍人に押さえつけられていた。
その姿が点になり、まったく消失してしまうまで、
車のスピードは落ちなかった。


街に入っても恐怖感は持続していた。
結局二人は泊まるはずだったホテルをキャンセルし、そのまま大阪に戻った。
とにかくそこから少しでも離れたかったのだ。




もちろん、四本腕の男も謎の軍人も正体はわからずじまいだ。

ススキの中から 前編

A君はフリーターだ。
旅行が大好きで、
少し時間ができると友達や彼女とあちこちに出かける。
けっこういい歳なのだが、


「長期の旅行にも出られなくなる」


という理由で正社員にはならない。
半年働いてお金を貯めては、
また半年沖縄に住み……という暮らしをしている。





そんなA君、連休を利用し、
友達と二人で山陰地方にドライブ旅行にでかけた。


季節は秋。
街中を離れ、山間にあるだだっ広い平野は一面ススキが生い茂っていた。
その大人の身長くらいあるススキがあんまり見事だったので、
急遽車を止めて記念写真を撮ろう、ということになった。


良き場所で停車し、車外に出ようとした時。


「助けてくれえ」


と声が聞こえた。
生い茂るススキの中からだ。


「聞こえたか?」
「聞こえたよなあ」


二人は顔を見合わせ、耳をすませた。


「おういおうい。助けてくれえ」


また聞こえた。
と、がさがさがさ、というススキをかき分ける音が聞こえ、
上半身裸の男がアスファルトの道路に飛び出してきた。
二人の車から三十メートルくらい離れたところに。


裸の男の背中には、もう二本の腕があった。


男はA君達の車を見ると、四本の腕をざわざわと振った。


大きく開かれた口には、
ピラニアのようなぎざぎざの歯があった。
<つづく>

火事ばか 追記

まさに昨日、たまたまW君と会う機会があった。


君のことブログに書かせてもらったよ、と告げた。
彼は、ああ、あのことねえ、という顔をする。


「最近はどう?」


僕が尋ねると、ほんの数日前、妙なことがあったらしい。




W君は電車に一本乗り遅れて焦っていた。
このままでは会社の朝礼に参加できない。
最寄り駅でなんとか電車に飛び込んだものの、ドアが閉まらない。


「急行待ちをいたします。しばらくお待ちください」


車内に無常なアナウンスが流れた。
W君の最寄り駅には各駅停車しか止まらない。
会社までは五駅もある。
朝礼に参加しないと上司からの信用を失ってしまう。


(ああ、くそっ!)


胸中で舌打ちし、目をつぶった。
いらいらして、つい電車のドアを少し蹴ってしまった。


するとすうっと電車が動いた。
気付くと、いつも間にかドアが閉まっている。


あれ、と思う間もなく車内にアナウンスが流れた。


「次は○○駅、○○駅です」


W君は呆気にとられた。
車掌は、W君が降りる駅の一つ手前の駅名を告げたのだ。
車窓から風景を見ると、確かに見覚えがある。
まさか、と思い腕時計を見た。
さらに呆気にとられた。
時間にはまだ余裕があった。


W君は、一本乗り遅れていないことになっていた。


かくしてW君はいつもの時間に駅に着き、
いつもの時間に会社に着いた。
どんなに首をひねっても、
自分の身の上に起こったことを理解できなかった。


「理解できますか?」


W君が僕に訊いた。


できるわけないだろっ。