私が狂犬病予防接種の『強制』をやめるべきと思う理由【前編】 | トイプーお出かけ日記

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犬との生活、食べたもの、買ったものを主なテーマとしています。
あと、たまに時事問題について書いたりもします。

今回は2週間前のエントリー、「狂犬病予防接種を『強制する側』の責任について考えてみた」の続きで、

  • 私が狂犬病予防接種の『強制』をやめるべきと思う理由

についてです。

 

 

 

このような記事を書くのは、現時点での自分の考えを後々になって振り返れるようにするためで、そうすると自ずと文章やデータ量が多くなるので、2回に分けてのエントリーになります。

 

で、内容についてですが、前編の今回は、

  • 国際機関や他国(清浄国のイギリス)の考え方
  • 海外から狂犬病が侵入するリスク
  • 狂犬病が国内に侵入した場合の感染拡大リスク

次回の後編(恐らく数週間後)は、

  • 人に対する発症予防策(曝露後接種など)
  • まとめ、総括

にしたいと考えています。

 

前編の3項目は、どれも引用する資料、データが多くて要点が分かりにくいので、まず最初に内容のサマリーその後に本編(資料やデータ等)という流れで進めていきます。


 

Ⅰ.サマリー

1.国際機関や他国の考え方

 

 

2.海外から狂犬病が侵入するリスク

 

 

3.狂犬病が侵入した場合の感染拡大リスク

 

 

 

Ⅱ.本編(資料・データ等)

1.国際機関や他国の考え方

 

①世界小動物獣医師会のガイドライン

世界小動物獣医師会(WSAVA)が策定しているワクチネーションガイドラインは、ワクチンを

  • コア(すべての動物に接種することを目指すワクチン)
  • ノンコア(必要な頻度を超えて接種してはならない

に分けています。

 

【WSAVAガイドラインより】

https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/WSAVA-vaccination-guidelines-2015-Japanese.pdf

 

 

そして、狂犬病ワクチンについては、

  • 法令により必要とされる場合あるいは流行地域ではコア

としています。

 

日本は清浄国(狂犬病が存在しない国)なのですが、法律で接種が義務付けられているのでコアワクチンになります。

 

言い換えると、日本は流行地域でもないのに、

  • 「必要な頻度を超えて接種してはならないワクチン」を法律によって強制されている

ということだと私は理解しています。

 

 

また、WSAVAのガイドラインは狂犬病ワクチンのDOI(接種間隔)について、

  • 現在多くの国で、狂犬病ワクチンは3年のDOI認可を取得し、法律もそれに伴い改定された
  • 一部の国では、国内で製造され、DOIが1年であり、それを安全上3年に延長できない可能性が高いワクチンがある
  • 3年以上の免疫をもたらす製剤を入手できる場合、全国的な獣医師会は法律を最新の科学的エビデンスに合致するよう変更するための働きかけを行うことができる

とのことです。

 

皆さんはこれを見てどう思いますか?

 

私は

  • 日本は先進国であるのに、安全上DOIを3年に延長できない「一部の国」なのか?と疑問に思いますし、
  • 日本の行政等の関係者が「この状況を放置し続けていること」に対して不信感を募らせています
 
【ワクチネーションガイドラインより】

 

因みにですが、日本にはJSAVA(日本小動物獣医師会)という組織があるようなんですが、彼らは日本の法律を最新の科学的エビデンスに合致するように働きかけないんですかね

知らんけど。

 

 

②WHOのガイドライン

この画面コピーはある動物病院のホームページなんですが、

ここには、

  • WHOが接種率の最低目標を70%としている

旨の記載があります。

 

この70%という目標値が、日本において狂犬病ワクチンを義務付ける論拠の一つとされているのですが、実際はどうなのでしょうか

 

ということで、次はWHOの「WHO EXPERT CONSULTATION ON RABIES」というレポートにおける記述を紹介します(該当箇所は87ページにあります)。

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/43262/WHO_TRS_931_eng.pdf

 

 

私はこれをみて、70%の集団免疫を維持すべきなのは、

  • 流行国(Endemic Countrys)における、ウィルス除去が達成されるまで(until elimination is achieved)

の話であって、日本のような清浄国(既にウィルス除去済み)のことを言っているのではないと思ったんですが、違うんですかね。

 

それともこのレポート(2005年)より後に、清浄国を含むすべての国で70%を目標とすべき、といった見解をWHOは出したんですかね。

 

以前も申し上げたんですが、ペット関連業界って根拠資料やデータの出典を明確にしないので、よく分からんのです。

 

 

③類似国(イギリス)との比較

ここではイギリス(日本と同様に清浄国でG7、島国)の狂犬病ワクチンの取り扱いについて取り上げます。

 

イギリスの獣医局(Veterinary Medicines Directorate)の資料(VMD POSITION PAPER ON AUTHORISED VACCINATION SCHEDULES FOR DOGS)の12ページの7.1には下記のように記載されています。

 

 

先ほどのWSAVAの見解(法令で義務付けられている、もしくは流行地域ではコア)を紹介したうえで

  • イギリスでは狂犬病ワクチンはコアではない

と言ってる訳です。

 

日本と大違いですな。

 

 

2.海外から狂犬病が侵入するリスク

次は日本の動物検疫についてです。

日本は清浄国なので、狂犬病が発生するとしたら、海外から感染犬が侵入すること以外考えられないんですが、それを完全に阻止することができないことが狂犬病ワクチン義務付けの論拠の一つとなっています。

 

そこで、

  • 日本の動物検疫がどのようなものか
  • 侵入リスクがどの程度あるのか

について調べてみました。

 

 

①日本の動物検疫

日本の動物検疫は2005年6月に抜本的に見直され、その結果、輸入条件が厳しくなり、イギリスやニュージーランドなどの他の狂犬病清浄地域に追いつくことができたようです。

 

【令和3年の動物検疫所の資料より】

 

 

②海外からの感染犬侵入リスク

海外からの侵入リスクについては、動物検疫の抜本改正の1年前(2004年)に作成された「我が国における狂犬病対策の有効性評価に関する研究」に数理計算された結果が掲載されています

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000751261.pdf

 

このレポートは厚生労働科学研究事業として補助金が拠出され作成されました。

当然ながらこの事業の成果物は、政策の立案や実施に活用されることが期待されています。

https://www.mhlw.go.jp/content/10600000/000946882.pdf

 

 

 

 

で、そのレポートに記載されている海外からの侵入リスクに関する計算結果が下表です。

 

この表の見方ですが、まず

  • 検疫制度が厳しくなると、違法行為(書類の偽造や密輸)が増える

という前提のもと計算が行われていることを理解する必要があります。

 

具体的には、

  • 違法行為の頻度が0%であれば、新制度における狂犬病侵入リスクは0.10%なので1000年に1回(表の1行目)
  • 違法行為の頻度が14%であれば、新制度における狂犬病侵入リスクは7.2%なので13~14年に1回(表の4行目)

という見方になります。

 

因みに、私が先ほど類似国としたイギリスとの違いについては、

  • イギリスは北米から輸入しているが、日本はアジアから輸入しているので、日本の方が侵入リスクが2~100倍も高い

だそうです。

 

 

この分析については、

  • 2倍と100倍じゃ全然違うじゃねぇか(幅が広すぎ)

と思いますし、

  • 制度が厳しくなると事業者が違法行為に手を染めることを前提としている(日本人の民度を低く見ている
  • 検疫所が書類偽造や密輸に対して有効な手立てを打てないことを前提としている(設定した違法行為の頻度を固定)

という点で、随分と失礼な想定を置いているとも思います。

 

まぁ、それはあくまでも保守的にシミュレーションをするためなんだろうと解釈するとして、

  • 重要なのはその後の実態把握

なんですよね。

 

レポートにも

  • 書類の偽造や密輸は新しい検疫制度の大きな課題(リスク要素)
  • 書類の偽造や密輸の実態把握について、継続的な調査と分析が行われる必要がある

と書いてありますし。

 

 

 

今は新制度が導入されてから18年も経っていますし、継続的な調査分析に関する資料があるだろうと思って探してみたんですが、残念ながら私が確認した限り、見つけることができませんでした

 

私の探し方が悪かったのかも知れませんが、もし補助金(血税)を投入して作成したレポートに「必要」と明記された「継続的な調査と分析」をやっていないんだとしたら、「とっととやって開示しろ」って話だと私は思っております。

 

 

とは言えここで諦めるわけにもいかないので、動物検疫所のホームページに掲載されている「不適切な事例」を確認したところ、犬の事例は書類偽造が1件だけ(2013年)で、関係者は逮捕され、その後書類の検査体制は強化されていました。

 

 

因みに動物検疫年報によると、この不正があった2013年の犬の輸入頭数は7,160頭でした(因みに直近の2021年は4,230頭)。

 

あと密輸についてですが、私の検索力では税関がワシントン条約に基づき輸入を差し止めた件数しか分かりませんでした。

 

これがその内訳です。

 

これを見ると、「まともにやったら手に入らない」から密輸をするのであって、

  • ここ数年、毎年4,000頭以上が正規の手続きで輸入されている
  • そもそも国内のペットショップやブリーダーから普通に入手可能

な犬について、摘発のリスクを冒してまで密輸するメリットが私には思い浮かびません。

(念のためにググってみましたが、私は犬の密輸(輸入)の事例を見つけることもできませんでした)

 

「いやいや、摘発されなかった密輸があるはずだ」という考えもあるのかも知れませんが、それならとっくの昔に国内で狂犬病が発生していないとおかしいですよね。

 

過去何十年にもわたって狂犬病の国内発生がないということは、感染犬の密輸がないことの裏返しだと私は思っております。

 

 

以上を踏まえ、私は犬の輸入において、書類偽造や密輸は極めて少ないのではないかと推測しています。

前述の通り、このようなことは本来、行政がしっかりと調査、分析のうえ公表し、その後の政策に生かすべき事柄です

 

 

あと、感染犬の侵入ルートとされているコンテナ迷入動物と不法上陸犬直近の状況について、検疫所の「狂犬病の侵入防止対策について」には下記のように記載されています。

https://www.kanzei.or.jp/moji/moji_files/pdfs/book/210506-doubutsukeneki.pdf

 

  • コンテナ迷入動物はほとんどが猫で犬はゼロ
  • 不法上陸犬は平成30年の1頭を最後に発見事例なし

ということですので、日本の監視体制はしっかり機能していると思われます。

 

 

 

以上が私が調べた日本の検疫制度の現状です。

 

 

どうせ誰もやらないと思うので、勝手な推測を申し上げますが、もし直近の違法行為や不法上陸犬等のデータに基づいて狂犬病の侵入リスクを再計算したら、2004年の試算より遥かに確率が低くなるのではないかと私は思っております。

 

そんなことを考えていると、ますます狂犬病予防接種の強制に対する不満が強くなる訳です。

 

 

 

3.狂犬病が侵入した場合の感染拡大リスク

 

次は、

  • もし万が一、狂犬病感染犬が日本に侵入してしまった場合に、どの程度犬から犬への感染が広がってしまうのか

についてです。

 

実はこの点についても、「我が国における狂犬病対策の有効性評価に関する研究」に数理計算された結果が掲載されています。

 

ただ、このシミュレーションは変数が多くてややこしいので、

  • 感染拡大の過程
  • 変数と前提
  • 計算結果

の順で確認していきます。

 

①感染拡大の過程

下記のとおり、海外から感染犬(不法上陸犬等)が上陸するところからスタートします。

 

 

②変数と前提

詳細はレポートに記載されていますが、主な前提は下記のとおりです(変数に黄色マーカーを引きました)。

 

 

③計算結果

各変数に対する累積罹患頭数流行の拡散距離制圧までの日数の計算結果は下表の通りとなりました。

 

 

この数字の羅列だけを見ても「なんのこっちゃ」だと思うのですが、上記の黄色マーカー部分にあるとおり、

  • 接種率の低下は罹患頭数を増加させる
  • 発症犬を早期に発見できれば、罹患頭数が明らかに減少する
  • 接種率が70%以上の場合に制圧までの日数が短くなる傾向がある

ことが読み取れます。

 

私もそのこと自体に違和感があるわけではないのですが、だからといってそれが全国一律全ての犬に接種を義務付ける根拠にはならない、と思っています

 

記憶に新しいところで言うと、コロナの「緊急事態宣言」も「まん延防止等重点措置」も全国一律ではなかったですよね。

 

それと同じで、地域によって狂犬病の海外からの侵入リスクや感染拡大リスクは異なるんだから、それぞれの実情に合わせたメリハリをつけた対応をすればいいんじゃないでしょうか。

 

下表は最も厳しくなった試算結果とその前提を表にしたものなんですが、これを見ると、接種率が50%で10頭目の死亡まで狂犬病を確認できない想定であっても、流行の拡散距離の最大値は14.2㎞となっており、地域的な拡大は限定的です。

 

 

例えば私が住む東京の場合

  • 海外からの侵入経路として考えられるのは羽田空港と東京港(大井ふ頭、青海ふ頭など)で、いずれも橋やトンネルを通らなければ他の地域へ行くことができない
  • ほとんどの犬が室内飼いである(ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」より)
  • 野犬がほとんどいない(環境省の「犬・猫の引き取り及び処分の状況」によると、東京都の2021年度の所有者不明犬の引き取りは61頭)

ことを踏まえると感染の距離的拡大はさらに狭くなると思うので、接種率の目標を設定するにしても、限られた範囲だけで問題ないんじゃないでしょうか。

 

実際、厚労省の「狂犬病対応ガイドライン2013」は、対策を講ずる地域について

  • 狂犬病が発生した地域を中心に4つの区分を設け、それぞれの対策に軽重を持たせる
  • 地域の単位は市町村と都道府県を基本とする(現実的なのは市町村単位)

としているので、犬に対する狂犬病予防接種も全国一律ではなく、地域の特性に応じた対応をとればいいように思うんですが、私はおかしなこと言ってますかね。

 

 

 

随分長くなってしまいましたが、前編はここまでです。

 

最後に

  • 環境省の「全国の犬・猫の引き取り数の推移(水色が犬)」
  • ペットフード協会の「飼育場所に関する調査」

を紹介して今回の締めとさせていただきます。

 

 


長々とお付き合いいただきありがとうございました。