当ブログで『○○の必要性』というタイトルを付けたら?

…そう、『○○の必要性』を否定する方向の記事となる傾向が出てきたような(cf.『基本書の必要性 』)。


というわけで、この記事の目的・結論を言おう。


解釈(規範定立・その理由づけ)と評価は、必ずしも必要ないものである。

とすると、解釈や法的三段論法、そして事実・事案・問題文の事情の評価といったものを絶対視するかのような言説は、全て誤りである。


このような結論を導くために、以下、解釈・評価が用いられる場面を網羅的にパターン(実践的に使えるようなものではない)化して示していく。


まず、NOAさんの記事『答案の書き方について 』を読んでほしい。

要するに、

論文問題という市場において、「事実」と交換ができるのは「条文」だけ

だということを、手を変え品を変え、懇切丁寧に説明してくれているのだ。

これを前提としたい。


1.

そうすると、最も単純な図式は、

「条文」===“事実”

ということになる。

たとえば、「人」(刑法199条)には、特に解釈せずに、XとかYとか甲とか乙とかを当然のごとくあてはめるだろう。


2.

しかし、「条文」は改正されない限り不変なのに対し、“事実”には無限のヴァリエーションがある。

そのため、「条文」にあてはまるかどうか不明な“事実”にぶち当たることがある。

たとえば、既にABCが関係している状況で、4人目の新参者Dが「第三者」(民法177条)に当たるか?といった場合だ。「第三者」とは、「三」人目だけを意味するのか?このような疑問にぶち当たったら、「第三者」の意味を明らかにする必要がある。


そこで、最低限、何を示すべきか?

①当事者及びその包括承継人以外で、

②登記の不存在を主張する正当な利益を有する者

等の、「第三者」を別の言葉で言い換えた解釈結果、つまり『規範』を示すべきだろう。

その上で、①②にDがあてはまるかを検討する。

これが、いわゆる規範定立→あてはめという作業である(法的三段論法の一部)。


つまり、「条文」から直接“事実”に飛べるのか?といった疑問・不安が生じた場合に、その間の置石を「条文」側から出したものが、典型的な『規範』なのだ。

「条文」=『規範』==“事実”


3.

ただ、ここで、「第三者」を上記①②のように解釈する(言い換える)ことに納得できただろうか?

…納得できないなら、そのように解釈する(言い換える)<理由>づけを要する。

「条文」<理由>→『規範』==“事実”

これも、「条文」と『規範』をつなぐ置石の1つだ。

ちなみに私は、上記①②の解釈について、<①「第三者」という文言、②177条の趣旨たる不動産取引の安全の見地>から…という<理由>をつけている。典型的な『規範』というものが、「条文」側から出した置石だとすると、できる限り、「条文」から派生した<理由>づけが望ましいのではないだろうか。


4.
今度は、反対の“事実”の側からアプローチしてみよう。

「条文」から直接“事実”に飛べるのか?といった疑問・不安が生じた場合という設定は、上記2・3と同じ。

この場合に、その間の置石を“事実”側から出すことで、「条文」の方にアプローチしていくパターンがある。その置石は、<評価>と呼ばれている。

「条文」<評価>“事実”

たとえば、“侵害を受ける前に積極的加害意思を持っていた”場合には、侵害の「急迫」性(刑法36条1項)が否定されるという判例の考え方。

納得できる?

納得できたあなたに伝えるためには、

1.「条文」===“事実”

という図式で足りていたことになる。

しかし、納得できないあなたに伝えるためには、たとえば、“侵害を受ける前に積極的加害意思を持っていた”場合には、<侵害に対して自分から積極的に向かっていくようなもので、侵害が急に「迫」ってきたとはいえない>から、侵害の「急迫」性が否定される…というふうに、“事実”側から、<評価>という置石を出して、『規範』に歩み寄る必要が生じる。


5.

また、『規範』にあてはまるかどうか不明な“事実”にぶち当たることもある。

たとえば、刑訴法197条1項本文の任意捜査(おとり捜査とか…)の問題で、必要性・緊急性・相当性(私は緊急性を必要性に吸収する派だが…)ある任意捜査はOK!といった『規範』を立てたとしよう。
どんな事件の任意捜査をしたかというと、覚せい剤事件…はい、『必要性・緊急性』を肯定する方向に使えます。

納得できた?

納得できたあなたに伝えるためには、

2.「条文」=『規範』==“事実”

あるいは

3.「条文」→<理由>→『規範』==“事実”

という図式で足りていたことになる。

しかし、納得できないあなたに伝えるためには、たとえば、“覚せい剤”は<粉末状だったりするので、トイレに流したりして罪証隠滅しやすい>から、これを捜査する『必要性・緊急性』がある…というふうに、“事実”側から、<評価>という置石を出して、『規範』に歩み寄る必要が生じる。

「条文」=『規範』←<評価>“事実”


6.

最後に、最も多く置石を置いた複合パターンもある(上記3+5という感じ)。

「条文」<理由>→『規範』←<評価>“事実”

なお、この図式を見ると分かるように、『規範』というのは、「条文」と“事実”をつなげる結節点という位置づけとなる。私が講義でくり返し伝授している“事実”から『規範』を逆算するテクニック(裁判例で多用されている)が使えることも、この構造から明らかだ。


以上から、6つのパターンが導かれた。

1.「条文」===“事実”

2.「条文」=『規範』==“事実”

3.「条文」<理由>→『規範』==“事実”

4.「条文」<評価>“事実”

5.「条文」=『規範』←<評価>“事実”

6.「条文」<理由>→『規範』←<評価>“事実”

…他にないよね?見落としてたら教えて?

いずれにせよ、この時点で、『規範』・<理由>や<評価>が必要ないパターンがあることが示された。


よって、冒頭の目的・結論のくり返しになるが…

解釈(規範定立・その理由づけ)と評価は、必ずしも必要ないものである。

とすると、解釈や法的三段論法、そして事実・事案・問題文の事情の評価といったものを絶対視するかのような言説は、全て誤りである。


NOAさんからのレクチャーを私なりに吸収・消化し、長期間かけてコツコツ記事を組み立てていました。

司法試験H25の合格発表・成績表送付・出題趣旨発表もなされ、受験生の敗因分析・来年への方針策定がずれた方向に行かないようにするためにも、そろそろ完成させなきゃ!と思い…まだ分かりにくいところもあるだろうけど、ひとまず完成させました。

質問等あったら遠慮なくどぞ~。