さぁ、春の宴が始まります。
松にさくら。
陽射しの色をそのまま透かしたような優しい色合いと、
小さくてもふわふわと丸く浮くような存在感のある花たち。
ソメイヨシノの一足お先に、春を告げ唄う小彼岸桜。
松にさくらは意外と珍しい組み合わせですが、華やかで清楚な
和を感じますね。
新宿御苑の春の調べは続きます。
小彼岸桜の落とす影まで薄桃色です。
ひだまりの色。
光は落ちて。
のどかで暖かなこの季節を迎えて包んでくれる
じゅうたんのようだなぁと思いました。
大きなこの桜の木には、たくさんの生き物たちも集っていました。
ピィピィと甲高く細い声が耳に届き、頭を上げれば
たくさんの鳥たちが人と同じように桜を楽しんでいます。
花を愛でるのは人間だけではないんですね。
花鳥と空。
空を目指す桜の花たちと、空を舞う鳥たち。
どちらもお互いを補い合うように、相性がよくて
一緒にいる姿は、心に来るものがあります。
しばらくこの立派な小彼岸桜と時間を過ごしたあとは、
木が生い茂った、細い森の中の道を探検してみました。
たくさんの植物の中に、気品のある茶室が佇んでいて
日本庭園の侘しさを感じられます。
茶室のそばに、細身ですがとても繊細な梅の木があり
目を引きました。
はるのゆき。
梅の枝独特の歪みが作り出す造形と、
その先に灯るように咲く白い梅の花。
雪が薄く降り積もったようで美しいです。
はっきりと対照的な紅梅。
はるのいろ。
桜よりも色の濃い花弁は強い印象を与えますね。
それに呼応するように生き物を惑わせる甘い香りが漂います。
とにかく華やかです。
大木戸門付近に咲いていた梅の花は淡い感じだったのですが
茶室の梅は周囲が薄暗いので、余計に鮮やかさが際立って
見えました。
新宿門の方に向かって森の中を歩くと、突然たちまち
囲まれてしまうのが、椿の木です。
桜の木と同じくらいとても感動した、
新宿御苑の見どころだと思います。
花囲い。
ひとたび木の根元に立ち入れば、
頭上も周囲もすべてを椿の枝と葉と花に覆われます。
椿のトンネルです。これはすごい。
森の中をかいくぐって届いた日の光が上から注ぐと、
幾重にも重なる葉っぱが透かされて複雑な模様を描き出し
さながら万華鏡の中心にいるみたいになります。
光と花のランプ。
椿の、桜とも梅とも違うピンク色の光は、
どこか不思議な空間を作り出し、元気を与えてもくれます。
これほど大きな椿の木を見たことはなかったので
見上げては口を開くばかりでした。
都心でこんな風景に出会えるとは、感動です。
春がやってくると、みんながそわそわして、わくわくして、
日の暖かさが増すに連れて心のなかも溶け出していくような、
そんな感覚があります。
決して大げさなものでなくても良いのですが、
みんな、そこに希望だったり光を求めているのかもしれません。
そんな春のはじまりの季節は、きっとたくさんの人が
好きなのではないかなと思います。
都会の真ん中にもその春はやって来てくれます。
次からももう少し春の風景を紹介できればなと思います。