彼女が死んだ。
人って死ぬんだ。
こんな簡単に。
平均寿命が80歳を超している世の中なのに。
こんなにも早く死んでしまうなんて。
まだ彼女が死んでしまった現実が受け入れられない。
死んでしまう病気だと頭では理解していたけど、
心のどこかでまだ生きるんじゃないかと思っていた。
そう信じたかった。
亡くなる直前まで憎まれ口をたたいていた。
憎まれ口をたたくぐらいだから、まだまだ生きると思っていた。
いま思えば、彼女は余命わずかなことを告げられていなかったかもしれない。
まだ大丈夫だと思っていたのに、
意識障害になったのか、
急に連絡が取れなくなった。
今でも突然、電話をかけてきて、いつものように憎まれ口をたたくんじゃないかと、ふと思う。
最後のお別れもできなかった。
ちゃんとお別れしたかった。
憎まれ口をたたかなければ、もっと優しくできただろうかとか、
色々と考えてしまう。
彼女は気難しい性格で、
さらに病気で精神的に追い詰められていることもあって、
すごく扱いにくかった。
最後の方はまともな会話もなく、
短文のメッセージのやりとりのみ何とか続けた。
最後に、穏やかで優しい時間を一緒に過ごしたかった。
いつも映画を見るときに一緒にエンドロールを最後までみたように、楽しかったことや悲しかったことを一緒に振り返って話したかった。
いつか一緒に歳をとって、陽のあたる縁側にすわって、お茶を飲みながらそんな話をするのが夢だった。
こんな形でさよならするなんて、
普通に別れるよりつらい。
後悔しかない。
彼女はツイッターに私の悪口を書く専用のアカウントを作って、そこに鬼のように悪口を書いていた。
なんて性格の悪い女かと思った。
悪口専用のアカウントまで作るか?
もうひとつの悪口専用アカウントでは父親の悪口を書きまくっていた。
そこまでするとは、すごい女だと思った。
でも憎まれ口をたたく彼女でも良かった。
生きていてほしかった。
性格の悪い女だったけど、生きていてほしかった。
彼女のSNSを改めて読んでみた。
こんな記述があった。2018年10月12日
「20111227へ戻してあげられたらいいのにね」(その日は初めて会った日、その後3年空白期間)
「肯定されてる訳じゃないから死んでしまいたくなる、突然死でもしたら喜んでくれるのかな もう嫌な想いしないから」
こんなこと思っていたのかな。
死ぬとか本気じゃないとは思うけど、このときはケンカでもしたかな。
覚えてない。
自分が性格が悪いことは自覚していたようだ。
ブスでもデブでも性格が悪くても、それでよかった。
ちゃんと私を好きでいてくれた。
愛情表現がすごくわかりにくかったけど、ちゃんと好きでいてくれた。
だからずっと一緒に生きてほしかった。
良い彼女だった。
つき合ってるだけで結婚してるわけじゃないから看取れなかった。
最後はどうやって死んでいったのかわからない。
たぶん脳に意識障害が出ただろうから、あまり苦しまずに行けたかな。
頑張り屋さんだったから、最後まで生きようと頑張ったと思う。
いつも車いすをこぐとき、一生懸命だった。
「スピードを出すと危ないからゆっくりこいで」と言っても一生懸命こいだ。
太い腕ですごい力でこいでいた。
いちどこの太い腕で殴られたことがあるが、すごく痛かった。
丸太で叩かれたかと思った。
変な所で妙に頑張るひとだった。
こがなくても私が押すのに、私が押すより早く進みたかったようだ。
頑張らなくていいのに。
彼女は両足が不自由だった。
他にも持病をかかえていた。
そのうえ、こんな病気になるなんて。
なぜ彼女ばかりこんな目にあうんだ。
彼女はまだいっぱい生きたかった。
完治したら一緒にしたいことをいっぱい話した。
もっと早くに亡くなってもおかしくない病気だったから、彼女はすごく頑張ったのだと思う。
私を好きでいてくれることにも一生懸命で頑張るひとだった。
「追いかけられるより追いかけたい」と言っていた。
今まで何人かと付き合ってきたけど、自分のことを本当に好きかどうか実感するのは難しかった。
けど彼女は、私を本当に好きでいてくれた。
それをすごく実感できた。
だから、彼女がいなくなって喪失感がとてつもなく大きい。
6月の下旬に連絡が取れなくなって、
何か月か経った。
6月は入退院を繰り返していて辛そうだったから、まずいなと思った。
だけどその後を知るすべがなくて、
彼女の実家に季節のお菓子をそれとなく送って様子をみた。
すると、9月2日に亡くなったという旨の連絡(11月9日)がきた。
やはりそうだったか。
6月下旬(6月24日)に連絡が途絶えたから、そこから意識障害になって、
まる2か月も頑張ったんだな。
本当によく頑張ったと思う。
生前に彼女が死んだらお墓参りをしてほしいと言っていた。
私は信心深くないけど、彼女は霊的なものを信じているようだった。
けど死んだ後の話なんかしたくなかった。
今を生きてほしかったから、
「ホーキング博士が死んだら『無』になると言ってたよ」
と言ってやったら、
彼女は泣きながら
「死んでも無にならないもん」
と言っていた。
だからどうしてもお墓参りをしてほしいと頼まれた。
今はまだ彼女の遺骨は実家にあってお墓には入っていない。
お墓に入ったらお参りしに行こう。
あの世でも悪口言ってるかな。
ちゃんと約束を守らないと、たたられたら、かなわんしな。
きみは死んでも無にならないと言ったけど、
ホーキング博士の言った通り、
やっぱり無になっちゃったよ。
きみの声も聞けないし、
顔も見られない。
抱きしめることもできない。
なんて無味乾燥な世界になったんだ。
ホーキング博士の語った宇宙とは、こんなにも何もない世界だったのか。
きみといっぱい過ごしたこと、
あれは夢だったのか、現実だったのか、
今となっては何もわからない。
何も無くなってしまった。
もう何もわからない。
もちろん、生きたかったのに生きられなかった本人が一番かわいそうなことはわかってる。
けど、残された側のつらさはどうしたらいいだろう。
こんなひどい目にあわせるなんて、きみをちょっと恨んでしまうよ。
無にならないと言ったきみ。
どこかから見てるかな。
また憎まれ口をたたいてるかな。

