Ψ(さい)のつづり -36ページ目
遠い世界にはねていけ
うさぎはわたしに
言いました
あなたじゃないから
ずっとうさぎ跳びではねられない
でも
スキップくらいなら
できるかしら
ふん
好きにしろ
こっちは
瞬発力はあるけど
持久力はないんだぞ
だから
はね続けるのは
うさぎだって無理さ
じゃあくたびれたら
つかまっちゃうの
そんなあほうじゃないさ
そんなことになる前に
さっさと方向を変えたり
穴に駆け込むのさ
つねひごろから
穴はたくさん用意してあるんだぜ
そうなのね
えらいわ
けれど
わたしは穴を持っていないわ
そうだな
逃げ込むための穴もなけりゃ
飛ぶこともできないもんな
ただ
人間はそうそう襲われないだろ
せいぜい
熊くらいなもんさ
あいつは鈴を鳴らして
近寄るな
って合図を送っておけば
大丈夫
わかったわ
じゃあ
また
いつか会いましょう
達者でな
ここいらに来たら
その足音でわかるから
探さなくてもいいぜ
会いに来てやるから
そうなの
わたしが歩いても
足音なんて全然しないけど
そんなことはない
一キロ先から聞こえてくらあ
どしんどしんって
うさぎの耳は
だてに長いんじゃないんだぞ
わかったわ
きっとね
元氣でね

大地に
足をつける
勇氣を出して
靴を脱いで
靴下を脱いで
裸足になって
地を触ってみる
草は湿っていて
ひんやりと
くすぐったい
歩いてみると
足の裏に直接
土と草の
香りが
入ってくる
酸素をいっぱい含んだ
青や茶色の香り
木の根っこの香りもある
でも
氣をつけて
ガラスが潜んでいるから
氣を抜いてはだめ
いつも靴に
守られている
柔な足は
ガラスを踏まなくても
すぐに
傷つくから
五感はいつも
研ぎ澄ませて
大地とひとつになって
大地の心と
わたしの心が
足を通じて
いま
繋がっている

吹けよ吹け
風
飛ばせ飛ばせ
古い価値観を
新しい
世界を
切り拓くため
新しい時代を
加速するため
ここではない
はるかかなたへ
わたしは
飛んでいかない
ここにいて
この世界を
刷新する
だから
どうか
風よ吹け
はるかかなたからの
風を
この世界へ
招き入れて

きんもくせいが
今年も
そっと
花をつけた
満月を含んだ
神聖な
香りをまとって
近くで
その懐かしい
香りに包まれようとすると
さっとどこかへ
行ってしまうけれど
離れようとすると
どうぞ
と香りを
差し出してくれる
この季節に
生きる幸せを
味わう
わたしと
金木犀
ずっとずっと
一緒にいたいけれど
ほんの一瞬なんだね
まるで
流れ星のように
でも
毎年
帰ってきてくれる
あなたの香りで
忘れてしまった
大切な
何かを
思い出せそうな氣がする
何かの
約束か
誰かからの
メッセージか
いまという
かけがえのない
ギフトを
受け取る
最後の機会

幼いころ
車に乗せられると
酔ってしまって
ぐったりしていた
外をみるといいとか
窓を開けて外の空気を吸うと
いいとか
いわれたけれど
さほどの
効果はなかった
ぐったりしながら
見上げた空には
お月さまがみえて
車が走っても
走っても
お月さまは
ついてくる
道をまがっても
とまっても
ずっと
同じ距離感でいて
こちらをみている
別に自分の用事でなく
車に乗せられていただけだったから
いくらでも
お月さまと
見つめあえた
気分がよかったら
にらめっこでも
じゃんけんでも
できたんだろうけど
普段は
元気いっぱいの
わたしの鎮静


