映画「関心領域」を見ました。予告編を見てはいましたが、アウシュビッツ強制収容所の隣にある美しい庭のある広い住宅で遊ぶ子供達が印象的でした。この場面と映画の題名が結びつかなかったので、調べてみたら、関心領域(映画の題名はThe
Zone of Interest)はアウシュビッツの隣にあった収容所やナチ親衛隊の幹部の居住地域のことでした。
アウシュビッツのことはヨーロッパの人達には常識でしょうが、普通の日本人の私には知らないことが多く、映画の内容を十分に理解出来なかったように思います。
映画は最初に水遊びを楽しむ5人気の子供と親が登場します。ナチスの宣伝映画に出てくる理想の親子のようです。
映画の主役はアウシュビッツ強制収容所の所長ルドルフ・ヘス(ナチ副総統のルドルフ・ヘスとは別人物)とその妻ヘートヴィヒでした。映画は二人のことが中心に描かれ、アウシュビッツ強制収容所で起きていたことは出てきません。収容所は監視所、ユダヤ人の人達を運ぶ機関車の煙、銃声、叫び声、オーケストラの音楽や焼却炉の音と光が出てくるだけですが、不吉な事が起こっていることを十分に示唆していました。映画の上映中は不快な重低音が低い音量で鳴り続けますが、不吉を暗示していると思われます。
二人はポーランド女性の使用人にかしずかれて快適な生活をしており、妻のヘートヴィヒは理想の庭づくりに熱中していました。理想の家庭が営まれているようですが、時々、殺されたユダヤ人の日用品か持ち込まれ、平然と受け取る姿は異常に思えました。
夫のヘスは焼却炉メーカーが提案する二連の焼却炉の話を聞いていました。二連にすることで片方が1000℃で運転していても残りは室温で材料を入れることができ、24時間連続して運転できる炉でした。ヘスはその焼却炉の採用を承認しました。
ある日、子供達に水遊びをさせつつ、ヘスは川でフライフィッシングをしていました。ヘスは何か手に当たったので、その物を取ってみたら、人の足の骨でした。ヘスは血相を変えて子供達を連れ帰り、子供達を風呂に入れて徹底的に洗いました。そして、ヘスは親衛隊の事務局に行き、ライラックの剪定が下手で川が汚れていると文句を言いました。
寝る前にヘスは子供達にヘンゼルとグレーテルの話をして寝かせました。この話の途中で、ポーランド人の少女がリンゴをユダヤ人の人達の仕事場に隠す場面に代わります。このエピソードは、監督がヘスの事を調べていた時に出会ったレジスタンスの一人、アレクサンドラ・ビストロン=コウォジェジクの実話です。
しばらくして、ベートヴィヒの母がアウシュビッツを訪れ、子供達の生活とベートヴィヒの作った庭を見て満足しました。しかし、夜、収容所の焼却炉が赤々と火を上げていることに気づき、起こっていることに気づきました。母は何も告げることなく、アウシュビッツを去りました。
ヘスは昇進してベルリン近くのオラニエンブルクに行くことになりました。ベートヴィヒはアウシュビッツが気に入っており、ヘスは単身赴任となりました。ここで、アレクサンドラの回想が出てきます。アレクサンドラがアウシュビッツ収容所がを歩いていたら、音符の書かれた五線紙を見つけ、家のピアノで弾きました。この曲の作曲者は収容所の苦難を乗り越えて生き延びました。
オラニエンブルクではハンガリーのユダヤ人40万人をアウシュビッツに移送する計画が進んでおり、計画の責任者にヘスが就任することになりました。ヘスの後任の所長はヒムラーが期待する程の成果(ユダヤ人殺害)をあげておらず、アイヒマンが計画の助手に加わることになりました。会合が終わるとヘスはベートヴィヒにアウシュビッツに戻れることを電話で伝えました。
その夜、親衛隊の経済管理局のパーティが開かれ、ヘスも参加しましたが、あまり楽しくはありませんでした。パーティが終わるとヘスは階段を降りますが、途中で何回も吐いてしまいました。
ここで、場面は現在のアウシュビッツ博物館が出てきます。職員が朝の掃除をしています。
また、ヘスの場面に戻ります。吐いた後、少し休んでから暗黒の階下に降りていきました。まるでヘスの暗い未来を暗示するようです。
ルドルフ・ヘスは稀代の悪人として描かれることが普通ですが、家庭生活では普通の夫で、不幸なことに間違った仕事に人一倍熱心に取り組んでしまったと言えるのかもしれません。