(続き)
ライヴとは刹那的なものである。
その刹那的な出来事を撮影作業によって記録するという極めて現代的な
手法に賛辞を贈りたい。しかしながら一抹の不安もよぎる。
つまり、このウイルターン劇場のストーンズの歓喜に満ちたコンサート現象を編集作業によって歪められてはいないかという不安である。
撮影技術の進化や機材の進化によって、驚くほど現実に起きた現象よりも
よくなっている場合もあるが悪くなってる場合もある。
現実に展開されたコンサートの不具合を調整されたり加工したりする場合もあるし、当日のミキサーや撮影技術者の無理解によって、
全く別物になってる可能性もある。
それ故に、実際のコンサートとDVDやBlu-rayに記録された雰囲気とは
少なからず異質なものになっている可能性は否定できないであろう。
と同時に我が脳髄に記録されたウイルターン劇場の歓喜は、
全く違う位相に蓄積されているとも限らないという認識も
併せて考えるのである。
そういう考え方を前提にして差し引いたり足したりしても、
現段階では「極上のストーンズのライヴ」と言い切っても
差し支えないだろうと考える。
どうして上記のようなことを考えるかというと、
レコード会社の発信している日付に誤りがあるからである。
このコンサートは2002年11月22日にLAのウイルターン劇場で
行われたとあるが、正しくは11月4日である。
この初歩的なミステイクは、どうでもいいように思えるが、
実は大変重要な事実でもある。というのはストーンズのツアーは
最初の方と最後の方では随分異なっているからである。
出だしでセットメニューに入っていた曲がなくなったり、
追加されたりする。大概は初日の曲数よりも減ってゆく傾向が
ある。しかし、出だしは初期投資のプレッシャーや緊張から
バンドの持っているグルーヴが一部欠落していたりする。
しかし序盤を過ぎてソールドアウトショーが実現し、
バンドの調子がよくなってきて、演奏に錬磨されたグルーヴが
蘇ってくると全然違った魅力が生まれてくるようだ。
つまりこのウイルターン劇場のライヴはその採算分岐点を
無事に乗り越えたストーンズのショーであるからこそ、
生まれた歓喜であると言えるのではないか。
まずは演奏曲の多彩さにおいて驚くべきだと思う。
[Blu-ray/DVD]
01. ジャンピン・ジャック・フラッシュ
02. リヴ・ウィズ・ミー
03. ネイバーズ★
04. ハンド・オブ・フェイト★
05. ノー・エクスペクテーションズ★
06. ビースト・オブ・バーデン
07. ストレイ・キャット・ブルース
08. ダンス(パート1)★
09. エヴリバディ・ニーズ・サムバディ・トゥ・ラヴ★
10. ザッツ・ハウ・ストロング・マイ・ラヴ・イズ
11. ゴーイング・トゥ・ア・ゴー・ゴー★
12. バンド・イントロダクションズ(通称、メンショー。メンバー紹介)
13. スルー・アンド・スルー★
14. ユー・ドント・ハフ・トゥ・ミーン・イット★
15. キャント・ユー・ヒア・ミー・ノッキング
16. ロック・ミー・ベイビー★
17. ビッチ
18. ホンキー・トンク・ウィメン
19. スタート・ミー・アップ
20. ブラウン・シュガー
21. ダイスをころがせ
一見しただけでも、驚くべき内容である。
そもそもこのLICKSツアーの全体像こそ面白いものだった事を
思い出して欲しい。つまり、会場の規模を大中小に分けて、スタジアム、
アリーナ、シアターと交互に展開したツアーだった。
これがレア曲を演奏する考えに直結していたのである。
演奏する曲は、ミックが原案を提示し、キースがそれを承認するという
契約になっている。とはいえ、長年演奏していない曲やリハーサルで
演奏していない曲を本番で突如演奏するという事は、いくら
ストーンズでも叶わない相談だ。
このウイルターン劇場の歓喜は、つまり考え抜かれた上に、
メンバーの体調が良好で、ノリに乗っていたショーだったからこそ
実現できたと考えられる。そして、ソロモン・バークである。
(続く)
いみじくも本日発売日である。