サザエさんの怖い落ち(1)
お父さん、新聞くらい、お家に帰ってゆっくり読んで下さい。
朝日文庫版37巻〔56頁〕・昭和43年
『サザエさんのお父さんが、小さな飲食店に来ています。お父さんは、中華ソバを食べ終わり、新聞を読みたくなりました。近くでタバコをふかしているお店のご主人に、「おやじさんきょうのしんぶんある?」と尋ねました。すると、ご主人は「ヘイ」と威勢よく答えました』
『ご主人は、店の空いているテーブルの椅子に座り、椅子の足元にお盆を立てかけて、新聞を読んでいるデップリと太った店員の女の子の方に、困った顔をして近づいています』
『ご主人は、右手で女の子を指さし、左手を横に振りながら戻ってきました。そして、「うちのネーちゃんがみていますから」と言います。お父さんは、顎を指でさすりながら「いいじゃないのかりるぐらい」と不思議そうな顔をしています』
『ご主人は、お父さんが座っているテーブルに、凭れかかるようにして、体を小さく震えさせながらせながら、「求人らんを見ているんでス」と怖がっています。お父さんは、そんなご主人を、マジマジと見ています』
バブル景気に向かいつつあるこの時代、個人経営の小さな飲食店では、人手不足は恐怖であったようです。
折角採用しも、直ぐに辞められたら大変だ!
小さなお店で働いている娘さんでが、例え、太った不器量な娘さんでも、より良い条件を求めれば、新しい職場を探すことができる時代であったのでしょう。
そんな人手不足の時代、雇用主は、折角、雇った店員さんが、何時、辞めたいと言い出すかもしれなかったのでしょう。
だから、お客さんが、新聞をみせてくれと言っても、女店員さんが見ていれば絶対に取りあげることは出来ません。
特に、求人欄を見ている時は、お客さんが見たいと言っているからと、取りあげることは出来ないのです。
求人欄に魅力的な求人が記載されているか否か問題ではないのです。
バブルの、人手がたりない時代、少しでも条件の良さそうな職場を探し続け、絶えず、新聞紙の求人欄に注目しています。
そんな彼女たちが、検索している求人欄が載っている新聞紙を取り上げることは、直ちに、折角、見つけた女店員さんを失うことになります。
だから、客の少ない小さな飲食店であっても、お客さんは、ゆっくりと新聞を読ませてもらえません。
小さな飲食店のご主人は、折角、採用した女店員が読んでいる求人欄が載っている新聞紙を取り上げるような怖い事は出来ません。
お父さん、新聞くらい、お家に帰ってゆっくり読んで下さい。